「死んでしまうじゃないか」
僕はその言葉に息を飲んだ。佐藤は、どこまで知っているんだろう。
それでも僕は、ただ曖昧に微笑んで見せた。
「……」
どう思っただろうか。佐藤は黙り込んでしまった。
…まさか当てられるなんて思いもしなかった。
「……考えさせてくれ」
佐藤が口を開いたかと思うと、立ち上がり教室の方へ戻って行った。
その後ろ姿が、人混みに紛れていく。…そうだ、今日は文化祭だ。今日が終われば、またいつものように戻る。
「そろそろ僕も戻らなきゃ、」
時間だ。
立ち上がろうとした。だが、なんだか体に力が入らなかった。先程の事が効いたのだろう。確かにバレたのはショックだった。でも佐藤は言いふらすタイプしゃないし、バレたってそれ程問題でもない。
…いや、誰だって同じだ。バレてしまったんだ。最後まで誰にもバレずに居るつもりだったのに。
……。
「最近いい事ないな…」
昨日の事を思い出す。…やっぱだめだ。
「ゆき先輩!!」
明るい声。顔を見なくても分かる。
「久しぶりっす!その格好似合ってるっすね」
「あはは…」
ニコニコ顔で言われたが、なんか全然嬉しくない。
「先輩、俺の頼み聞いてくれたんですね」
瀬尾がそう言う。でも僕はその言葉に何も返す事ができなかった。
「ああ!!見つけたぁ!!!」
甲高い声。何事かと前を向くと、
その人物が飛びついていた。
「うっ」
セーラー服に、左右に束ねた髪。
「えへへ!来ちゃった」
少女、和花ちゃんはそう言い満面の笑みを浮かべた。
「ゆきくん!かわいい!」
目をキラキラさせながらそう言う。中学三年生にもなるというのに未だに距離感がおかしい。
「教室行っても居ないから、探したんだよ!」
ごめん、と言おうとしたが
「あの、」
瀬尾の気まずそうな声に言葉を飲んでしまった。
「その子は?」
「あー、和花ちゃんっていう、京介の妹」
「え!?」
一応紹介すると、瀬尾くんは驚いたように目を見開いた。
「妹…確かに結構似てる気が」
「似てないから!あんな奴と一緒にしないで」
和花ちゃんは怒ったように頬を膨らませる。何故か知らないが、和花ちゃんは京介の事をあまり良く思っていないようだ。拗ねているだけだと思っていたが、結構前からこんな感じだ。
「そういえば、ゆきくんお兄ちゃんと喧嘩でもした?」
ギクリとしてしまう。
「…京介が何か言ってた?」
「ううん。何も。話しかけても無視するし」
「京介先輩が?」
瀬尾が割って入ってくる。
「今ゆきくんと喋ってるんだけど…。まあ、うん」
「そっか」
僕がそう言うと、和花ちゃんの瞳が僕を捉えた。
「…ゆきくん、なんか元気ないね。お兄ちゃんのせいでしょ?…本当にごめん」
本当に申し訳無さそうな顔でそう言われれば、僕もなんだか悪い事をしてしまったような気がしてくる。
「…いや、全部僕が悪いし」
「でも、」
和花ちゃんは似ていないと言ったが、やっぱり似ている。そんな和花ちゃんの頭をそっと撫でると、照れたような顔をした。
「その、2人って付き合ってたりし、うあっ」
瀬尾が何かを言ったかと思うと、瀬尾の姿が消えた。
「いってぇ。ちょっ、降参!!」
「…余計な事言わないで?」
どうやら和花ちゃんが瀬尾に投げ技を使ったらしい。いつの間にか2人は仲良くなったようだ。
ピコン
スマホの通知にはっとし、見てみると、早く戻って来いと委員長からのメッセージが届いていた。
「ごめん!教室戻る!」
僕は戯れている?2人を置いてその場を離れた。
教室に戻ると、沢山のお客さんが来ていた。皆忙しく働いている。僕は申し訳無さを覚え、すぐにその輪の中に入った。
「及川、打ち上げ行かないのか?」
僕が荷物をまとめていると、木村が声をかけて来た。
今はもう帰って休みたい。
「そうか…大丈夫か?」
「へ?」
木村の手がのび、僕の額に触れた。
「熱は無いか」
「別に何もないですよ」
多分、体調が悪いのかと疑われているのだろう。
「昨日の事もあるしな」
「…それ、言わないでください」
思い出すだけで顔が暑くなってしまう。…昨日の事は無かった事にしてほしい。
「はは。じゃあ、気をつけて帰れよ」
木村はそう言い、皆の方へ戻って行った。先生は皆に、友達のように扱われている。
明るい声を背に、僕は一人教室を出た。
コメント
3件
面白いです! 次も楽しみにしてます! ゆっくりでいいので無理しないでくださいね〜
2〜3週間ぶり?大変遅くなりました!!!スミマセン🙇♂️🙇♂️
1話めっちゃ変えました。