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付け足すコメント考えててらハート999回推してま((押してました
やはり天才ですね(( また続き楽しみにしてます✨!!
夕暮れの中、歩いて行く人々。帰路に着き、裏通りに入ると、すっと人気がなくなる。この道はもう一年以上毎日のように通っている。
「にゃぁ〜」
足元を見ると、1匹の猫が僕の足に頭をすりつけてきた。
「シロ…!」
シロと言うのは僕が勝手にそう呼んでいるだけだ。真っ白で綺麗な毛並みは雪のように白い。
その場にしゃがみ撫でてやると、シロは心地良さそうな声で鳴き、目を細めた。
シロはさらさらふわふわだ。だが首輪はしていない。最初は野良猫かと思っていたが、野良猫にしては綺麗すぎる。
「…ゆき」
「わっ」
声がしたかと思うと、僕の隣に見知らぬ男が立っていた。
びっくりした……
「この猫、ゆきって名前」
男は僕の隣にしゃがみ、そう言った。
「え、ああ…」
なんだ、猫の名前だったのか。名前を呼ばれたかと思った……。
「ゆ…飼い主なんですか?」
「うん。ゆき、人懐っこいでしょ?」
ゆき、と言われると反応してしまう。
それにこの声、聞き覚えがある気がする。
男は黒いパーカーのフードを深く被っており、顔は見えない。格好からすれば不審者そのものだ。
「…首輪とかつけなんいんですか?」
気まずさを感じ、僕は適当に話をふった。
「必要はないかなって」
やはり、その声には聞き覚えがあった。…もしかして、いや、。頭の中に浮かんできた人物を、否定する。
フードでよく見えないが、男は笑っている気がした。
僕は立ち上がり、後ずさった。
「あれ、俺の事思い出した?ゆき」
男も立ち上がり、僕と向かい合う。男は僕の名前を呼んだ。
「なんで…」
「びっくりした?でも俺はずっと君の近くにいたよ」
その言葉に思いだす。僕はこの近くで何度もその姿を見かけている。
男はパーカーのフードを外した。その顔には見覚えがった。
だが、僕はこの男の事は何も知らない。
「君に、言いたい事があるんだ。付いてきてくれる?」
怪しい男に付いていく訳がない。
「あれから4年だっけ。本当の事、教えてあげるよ」
男の言葉に僕は固まった。4年前にあった出来事といえば、あれしかない。
「教えるって、何を…」
「さあ?」
誤魔化すように、両手を軽く上げる仕草をした。
「…行く」
危険なのは百も承知だ。だが、気づけば僕はそう答えていた。
狭くて暗い裏路地。その奥にひっそりと立っているアパートの一室。
…家の近くにこんな所があったなんて。
「適当に座って」
言われた通りに近くにあった椅子に座ると、シロが膝の上に飛び乗って来た。…いや、ゆきか。
「じゃあまずは自己紹介から。俺は結月。結月と呼べば良い」
僕の少し離れた位置に男は腰掛けると、そう言った。結月。知らない名前だ。
「俺は16の時、とある事情で両親が死んで、親戚に引き取られた。そしてあの町に引っ越して来たんだ。半ば家から追い出されて適当に散歩してたら、川に辿りついた。川にはガキが3人。見ていたらガキの2人が奥の方へ行き、1人は川を見ていた。なんとなく俺はそのガキを川へ突き落とした。」
「は…」
意味が分からない。まず、何の話をしているんだ。
「そいつは川へ落ちた。落ちた瞬間、目が合った。泳げないらしく、俺に助けを求めていた。だが、俺が助けるつもりがないと分かったのか、大人しくなった。人間は、本能的に近くの岩にしがみついてでも助かろうとするけど、君はそうしなかった。だから、俺は助けた」
…君?結月という男は、僕の事を言っているのだろうか。ガキ3人とは、僕と京介とハルの事なのだろうか。
「それから俺は君に興味を持った。自作自演だったけど人助けなんかしたのは生まれて初めてだった。覚えてない?川で溺れたの」
…覚えている。だが、溺れた理由がそうなのは知らなかった。
結月は僕の顔をみるなり笑った。
「あれから、町ではゆきをよく見かけるようになった。特にする事もなかった俺はゆきについて調べる事にした。…簡単だったよ。名前、住所、家族の事情とか、全部すぐに分かった」
冷や汗が背中を伝う。
僕は今、ここに居て話を聞き続ける意味はあるのだろうか。
それでも結月は止まる事無く淡々と告げる。
「君は表では明るい子供だったが、1人でいる時は暗い顔をしていた。俺はその姿を見るのが好きだった。だから見ていた。けど、2年くらい経つと、家に帰ってくるのが遅くなったり帰って来なくなったりする事が増えた。しかも1人で居ても、暗い顔をする回数は減った。永田晴樹。そいつが原因なのは分かっていた。だから俺は手を打つ事にした」
結月は意味ありげに笑みを零す。本当に楽しそうに。
これ以上は、聞いてはいけない気がする。
怖い。唐突にそう思った。
僕の様子を見た結月はもっと笑みを深める。
心臓はバクバクと鳴っていた。膝の上で寝ているシロだけが唯一の救いだった。
…ハルの家族が死んだ理由は、放火だった。
犯人はまだ捕まっていない。
僕は唾を飲み込んだ。