「この筒に入っているものはなん だい?」
「開けてみるといい」
「爆発したりしないよな?」
「スノーアッシュの技術的には可能だ。
しかし、かけらがいる前でそれを使おうと思うか?」
それでも疑っているのかセツナは眉を寄せた。
一方、レトは武器を下ろして、シエルさんから革製の筒を受け取る。
ゆっくりと筒を開けると、中には一枚の紙が入っていた。
地下の部屋を出発しする時にトオルがシエルさんに渡したリュック。
一体、何を入れたんだろうか……。
ごくりと唾を飲み込み、レトの様子を見守る。
紙に書かれている内容を読んですぐに目を見開く。
「これは……!」
驚いた声を出すレトの傍に行って、セツナもその紙に書かれている内容を読み始める。
そして、シエルさんの方に再び疑いの目を向けた。
「なあ、これは本物なんだよな……?」
「もうすぐ王になるスノーアッシュ王子からの手紙だ。
書かれていることが嘘か本当か、かけらに聞いて確かめるといい」
「さっきから、かけらのことを盾にしやがって」
私が関係している内容なんだろうか。
首を傾げてからレトとセツナのところに行き、手紙を見せてもらう。
そこに書かれていたのは、私がトオルにお願いしたことだった。
「スノーアッシュは、グリーンホライズン、クレヴェンと和平を結ぶ……。これは驚いたよ」
「領土を奪っておいて、和平の提案をしてくるとは。信じられねぇ……」
「文明の発展と食糧難の改善のため協力するってことも書いてあるね。
僕の国にとって非常に有り難いことだけど、信じていいのかな。
何か裏がありそうな気もするけど」
トオルは、この手紙をいつ書いていたんだろう。
告白のあと顔を合わせられなかったから、その時に書いていたのかな。
想いを伝えてから返事を待つ複雑な気持ちのなか、私のために行動してくれていたんだ。
そしてシエルさんもこの切り札があったから、身の危険を感じても冷静でいられたんだと思う。
私もトオルのために一歩踏み出そう。
「レト、セツナ。その内容は本当だよ」
「かけら……。本気で言ってるんだよね」
こくんと頷いてから、真剣な表情でふたりを見る。
「私はスノーアッシュに連れて行かれてから、トオル王子と過ごしていた」
「えっ……。ふたりきりで過ごしていたのかい?」
「そうだよ。スノーアッシュの話を聞いたり、絵を描いてくれたり、色々とよくしてもらって……。
トオル王子は、自国の民を大切に想うだけでなく、誰もが幸せになれる世界を望んでいるの。
もちろん、他国との交流も考えているみたいだよ。
平和を願う気持ちは本物で、王様になろうと頑張っている。
だから、私が和平を結んで欲しいと頼んだの。
ここまで早く動いてくれるとは思っていなかったけどね」
上手く伝わっただろうか。
でも悪いことを言ったつもりがないのに、レトの顔が真っ青になっている。
「僕たちと離れている間に、スノーアッシュの王子と仲良くしていたなんて……。
まさか、婚約してないよね?」
「しっ……、してないよ!」
両手を振って否定するけど、不安そうな表情で私を見てくる。
告白とプロポーズをされたなんて、恥ずかしくて言えない……。
「レト王子、これもやるよ。欲しがっていただろ」
シエルさんがレトに手の平くらいの小さな袋を投げた。
上手に受け取ったあとゆっくりと開けて、中身を確認し始める。
何を渡したのか気になって、私もレトと一緒に見る。
その袋の中には、とても小さな白い結晶がたくさん入っていた。
「もしかして、これって……」
粗塩かもしれない。
レトは塩を知らないから、私が確かめた方がいいだろう。
小さく摘んでから、口元に持っていき、ぺろっと舐めるとしょっぱい味がした。
「塩だね」
「なんだって!?
ずっと探し求めていた塩を僕にくれるなんて……」
青ざめていた顔が明るくなり、大きく目と口を開いている。
手も小刻みに震えていて感動しているみたいだった。
嬉しそうに塩を眺めるレトを見ていると、私も心が温かくなってくる。
「敵国に手ぶらで乗り込んできたってわけじゃなかったとはな……。
だが、なぜかけらについて来た?」
「俺には、かけらの行動を見守る義務がある。
手紙を渡すこと以外の目的はそれだけだ」
「それで信じるとでも思うか?」
「心配するな。
俺には既に恋人がいるから“この事”には関与しない」
私を見守る義務。それは、ダイヤモンドを渡したことによって生じたらしい。
理由は分からないけど、ダイヤモンドが私の手から離れるまで見届けたいようだ。
だから、私に同行したいと頼んできた。
「おまえは……、あのことを知って――」
「俺の名は、シエル。
これでもスノーアッシュの王家の血を持つ人間だ。
しばらく、かけらの行動を見守たい。
裏切ったと思ったら、捕まえるなり、息の根を止めるなり、好きにすればいい」
思い切ったことを言っている。
それだけの覚悟を持って、このダイヤモンドの行方を見守りたいんだ。
ただの宝石なのに、何らかの力を秘めている。不思議なものだ。
「ねえ、セツナ。
あのことってなんだい? 僕に説明してよ」
「なっ、なんでもねぇよ……」