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純粋さん回れ右
及影要素有り
珍しく、静かな夜だった。
魔王城の食堂。
大きなテーブルの上には適当に積まれた料理と、飲みかけの紅茶と、五色が作った謎色のクッキーが並んでいる。
「これ何味?」
日向がクッキーを摘む。
「薬草っす」
「なんで入れた」
「身体にいいかなって」
「最悪」
影山が真顔で皿を遠ざけた。
その横で及川は「飛雄食べないの? はい、あーん」と絡みに行って普通に避けられていた。
「避けないでよ!」
「うるさい」
「冷た〜い!」
いつもの光景。
菅原は笑いながら紅茶を飲む。
澤村は「騒がしいなぁ」と苦笑していた。
研磨はソファで半分寝ている。
平和だった。
だからこそ。
日向はぽつりと呟いた。
「……こーゆーのって聞いちゃダメかもだけどさぁ」
全員が見る。
日向は頬杖をついたまま、及川を見た。
「及川さんって、なんで影山拾ったの?」
空気が止まる。
「――」
影山の箸が止まった。
五色が「うわ」って顔をした。
菅原はちょっと目を瞬く。
及川だけが、きょとんとした。
「え?」
「いや、だって」
日向は影山を見る。
「影山って、あんな感じじゃん」
「どんな感じだボゲ」
「めちゃくちゃ怖ぇし、口悪ぃし、魔法少女絶対殺すマンだし」
「褒めてんのか?」
「褒めてない」
「殺す」
「ほらこういうとこ」
日向が即答した。
五色が頷く。
「まぁでも気になるっすよね」
「……別に面白くない話だけど」
及川はそう言いながらも、少しだけ笑った。
珍しく。
静かな笑い方だった。
「飛雄を拾ったの、今から600年くらい前なんだけど」
「長ぇ」
日向が引いた。
「その頃の飛雄、もっと酷かったよ」
「は?」
影山が睨む。
でも及川は気にしない。
「誰とも喋んないし、ずっと一人で暴れてるし、周りの奴全部殺しそうな顔してた」
「今と変わんなくないっすか」
「五色?」
「すんません」
及川は少しだけ目を細める。
「当時、魔法少女狩りで有名な孤児がいるって聞いてね」
人間側の裏路地。
死体。
血。
焼け焦げた神聖魔法の跡。
その中心に、子供がいた。
『……』
黒い角。
鋭い目。
小さいくせに、化け物みたいな魔力。
『邪魔すんな』
初対面で言われたらしい。
「可愛くない!?めちゃくちゃ可愛くない!?」
「どこがだよ」
影山が真顔で返す。
でも。
及川は本当に楽しそうだった。
「でね、普通ならそこで終わりなんだけど」
その時。
飛雄は怪我をしていた。
酷い傷。
神聖魔法で焼かれた痕。
でも。
泣かなかった。
助けも求めなかった。
ただ。
殺気だけ向けてきた。
「なのにさぁ」
及川の声が、少しだけ柔らかくなる。
「飛雄、ずっと俺の後ろ見てたんだよね」
「……後ろ?」
菅原が聞き返す。
「うん。俺じゃなくて」
及川は笑う。
「俺の後ろにいた、魔法少女達」
当時。
及川の周りには、既に“堕ちた”魔法少女達がいた。
皆、笑っていた。
幸せそうに。
それを見て。
幼い影山は。
『……なんで』
初めて、怒り以外の顔をした。
『そいつら、笑ってんだ』
及川は、その瞬間を覚えている。
「飛雄って、自分がどうなるかより、周り見てたんだよね」
誰より傷だらけなのに。
誰にも優しくされたことないのに。
それでも。
“笑ってる他人”を見てた。
「……だから」
及川は静かに言った。
「ちゃんと見てくれる子なんだなって思った」
影山の肩が、ぴくりと震えた。
「あと単純に顔が好み」
「最低」
菅原が即ツッコミした。
「え!? 大事じゃない!?」
「そこだけ聞くと最悪なんだよなぁ」
日向が呆れる。
でも。
及川はふっと笑った。
「……でも一番は」
その視線が、真っ直ぐ影山へ向く。
「飛雄、ずっと一人で頑張ってたから」
空気が静まる。
「誰にも頼れなくて、傷だらけなのに、それでも戦ってて」
600年。
ずっと。
「だから、“もういいよ”って言いたくなった」
影山が息を呑む。
「俺がちゃんと見るから」
優しい声だった。
及川徹はサイコパスだ。
重い。
怖い。
愛も狂ってる。
でも。
今の声だけは。
紛れもなく、本物だった。
「……っ」
小さな音。
ぽたり。
影山の膝へ、水滴が落ちる。
「……え」
日向が固まる。
五色の耳が跳ねた。
「影山、泣いて……」
本人も気づいていないみたいだった。
影山は呆然と目を見開いている。
次々と涙が落ちた。
「ちょ、飛雄!?!?」
及川が慌てる。
「え!? なんで!? どうしたの!?」
「お、お腹痛いっすか!?」
「違うだろ」
菅原と澤村も困惑していた。
だって。
影山飛雄は泣かない。
六百年、誰も見たことがない。
なのに。
「……ぉれ」
掠れた声。
「……及川、さん」
「う、うん!?」
影山は必死に涙を止めようとしていた。
でも無理だった。
「なんで、拾ったのか……」
息が詰まる。
「面白そう、とか……楽しそう、とか……」
ずっと。
そうやって誤魔化されてた。
軽く笑って。
冗談みたいに。
だから。
「……ちゃんと」
ぼろぼろ涙が落ちる。
「ちゃんと、俺の事……見ててくれたんだな、って……」
そこで声が崩れた。
「……っ、ぁ…ひ、ッぅ…」
もう駄目だった。
涙が止まらない。
言葉にならない。
六百年分の何かが、全部溢れていた。
及川が目を見開く。
それから。
ふっと、困ったように笑った。
「……飛雄」
そっと。
影山の頬に触れる。
「当たり前じゃん」
優しい声。
「俺、飛雄のこと大好きだもん」
その瞬間。
影山が完全に泣き崩れた。
「〜〜〜っ!!」
「うわぁ!?!?」
日向がめちゃくちゃ焦る。
「えっどうしたらいい!?」
「知らん!!」
五色もパニック。
菅原は口元押さえていた。
「……やば、思ったより重い」
「今さらだろ」
澤村が苦笑する。
研磨だけが静かに呟いた。
「……両片思い、長かったね…」
コメント
1件
うおおお……これは刺さったわ……。及川が影山を拾った理由、まさか「ちゃんと他人の笑顔を見れる子だったから」ってオチとは。しかも600年分の涙とか反則やろ。普段強気な影山が「ちゃんと見てくれてたんだな」って崩れるシーン、ガチで泣いた。ラストの「両片思い」も含めて、良い意味で重い愛だわ……サイコパス言われてる及川の本気が眩しい。しょぴぃさん、尊すぎるエピソードありがとうございます🔥