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「……身辺調査、っすか。」
言われた瞬間、背筋がじわっと冷たくなる。
部長は木の上で器用に座りながら、枝をぽきぽき折って遊んどる。
けど口元は、笑っとるようで笑ってへん。
「せや。レパロウのこと、調べてほしい。」
「……理由、聞いてもええんすか。」
普通の孤児院のガキやったら、わざわざ部長が俺に頼む必要なんてない。
孤児の身辺なんて、入院するときに全部出てるはずや。
それを“俺に”頼むということは。
(……なんか、引っかかるもんがあるんやろな。)
部長は指を一本立てて、宙を切るように軽く振る。
「資料上、あいつは“戦災孤児”。
保護者なし、親族の記録もなし、出生地は曖昧、年齢は推定や。」
「まあ……そこまでは珍しくはないですね。」
戦争が続いとるこの世の中では、戦災孤児は山ほどおる。
珍しさで言うなら“珍しくない方”の部類や。
せやけど部長は首を横に振る。
「珍しいくはない。でも
……あいつ、戦闘適性が“異様に整いすぎとる”。」
「整いすぎ?」
「せや。基礎はガタガタやのに、芯だけ化け物みたいや。」
それは――俺も今日、肌で感じた。
(ガキのくせに、目が折れへん。)
体つきは細い。
背丈も低い。
筋肉量だってまだまだや。
それでも、どんなにきつい訓練でも絶対に折れてない”芯”だけは、妙に強かった。
心の奥の核みたいなもんが、できあがっとる感覚。
普通の孤児院育ちの11歳に、あんなんあるわけがない。
部長はひと息おいてから、俺の目をまっすぐ見る。
「……ショッピくん。レパロウには“敵国出身の可能性”がある。」
「……」
胸がぴくりと跳ねた。
敵国――。
軍に紛れ込んだ敵国の人間。
この国じゃ、捕虜にして幼い頃から育て直すっていう非道なやり方はない。
せやから“敵国孤児が軍に入り込む”なんてのは、本来ありえへん。
でも。
もしそれが事実なら。
(……あいつの“芯の強さ”も、説明がつく。)
地獄みたいな環境で育ったガキは、妙に腹の底だけ強くなるものだという。
部長は続ける。
「もちろん、確定やない。
ただ、レパロウの“勘の鋭さ”と“判断の速さ”、そして“恐怖に慣れすぎてる感じ”……どれも幼年期にしては異端で気になる。」
部長は木から降り、俺の前に立った。
「ショッピくん。
お前に頼みたい理由はひとつや。」
その目は、珍しく真面目やった。
「……あいつの“味方”になれるかどうか、判断したい。」
味方。
敵国由来なら、本来は受け入れられへん。
でも部長は、あの子を“切る”ために調べるんやない。
「……正直に言うと、レパロウを軍に置いときたい。
あれは育つ。
将来必ず“上”に行く器や。」
「……」
「せやけど、もし敵国の残党やった場合、何かしら“尾”がついとる可能性がある。
……それを、そのまま放っとくわけにもいかん。」
(つまり……)
レパロウの身辺を調べ、
危険があるなら切り離す必要がある。
逆に、問題がなければ――
(軍が“本気で育てる”ってことや。)
そして部長は続ける。
「ショッピくん。お前なら、あいつと距離を置かずに接して、なおかつ冷静に判断できる。俺にはできん。」
「……」
「だから、お前に頼む。」
その言葉に――胸が、ちくりと痛んだ。
(あいつ……今日、笑っとったなぁ。)
ぎこちない笑顔やけど、
子供らしい、まっすぐな目ぇしとった。
あれがもし、全部嘘やったら?
利用するために近づいてきた“敵”やったら?
……正直に言うて、嫌や。
あんなガキが、あの年齢のガキがそんなこと考えながら生活するなんてあんまりだ。
せやけど。
「……了解しました。」
腐っても軍人としての言葉が先に出る。
「レパロウの身辺調査、引き受けますわ。」
部長はにやりと笑う。
「助かるわ、ショッピくん。」
木の枝をひらりと投げ捨て、背を向けながら言う。
「――ただし。情に流されるなよ。」
それだけ言って部長は姿を消した。
*
レパロウの戻ってくる足音が聞こえる。
小走りで、息切れしながら。
水の入ったカップを大事そうに抱えて。
「ショッピさん、水もってきました!」
笑顔。
まっすぐで、曇りなくて。
敵でも味方でもなく、ただ“子供”で。
……けど俺は、もうー
これからこの子の“素性”を洗う役目を背負ったことを。
「……ありがとな。」
カップを受け取り、水を一口飲む。
味なんか、わからへん。
ただひとつだけはっきりしている。
……どんな結果が出ても。
俺は、最後まで自分の目で判断する。
レパロウが“敵”か“味方”か。
本物の“子供”か、“兵器”か。
そして――
俺にとって、どういう存在になるのか。
胸の奥が、ざわついた。
「……行くで、レパロウ。」
「はいっ!」
ちいさな足音が隣に並ぶ。
守るべきか、警戒すべきか。
どっちにも振り切れへん、この妙な感情。
(……ほんま、めんどくさい役目押し付けられたわ。)
けど、不思議と悪い気はせんかった。