シュンと付き合うようになって、俺はふたりの「おそろい」を見つけるのが得意なことがわかった。
5月生まれなことは出会ったころから分かっていたけれど、例えば冷え性なところ。冬とか最悪。ぎゃあぎゃあ騒ぎながら冷え切った手や足の指先でお互いの体温を奪おうと画策し合う。その後のいちゃいちゃまでがセットだったりするので、あながち最悪とも言い切れないけど。
あとは笑いのツボ。お笑い番組とか、メンバーで話してるときとか、俺がウケている時、だいたいシュンも笑っている。ふたりの時だと屈託なく笑うので余計にわかりやすい。
自分の部屋の中では靴下は履きたがらないところ。ところで、俺はたまに間違えてシュンの靴下を履いて出かけて後で怒られる。
プリンが好き。でも3連プリンを買うと最後の一個は絶対にシュンは俺にくれようとする。だから俺ははんぶんこにしよっていう。それで二人で分け合って食べてる日が好き。
棒アイス食べ終わった後つい、その棒を咥えたままいがち。何かの作業をしている時とかだと余計に。しばらくしてからアイスの棒を咥えたままのお互いの顔を見合って、それが間抜けでなんとなく可笑しくて笑ってしまう。なんでずっと咥えてんの。そっちこそ。もう木の味しかしないよ~。
季節の移ろいを感じるのが好き。空の色。空気の匂い。植物の変化。ねぇ、南棟の裏のイチョウがちょっとだけ黄色くなってたよ。金木犀の香りがしたんだ、どこに植わってるんだろう。最近朝の空気が冷たい匂いがするね。そこの公園のモミジ、たくさん落葉してたから綺麗なの拾ってきた。昨日講義室の窓から差し込む日差しが柔らかくて。そろそろ桜が見ごろだ、お団子買いに行って花見でもしようか。些細な季節の変化を共有して、共有できる相手がいることに嬉しくなって。
「涼架はそういうの見つけるの得意だね」
「え?」
「俺らの共通点」
あぁ、と俺は頷く。いまは、ふたりとも肌が弱いくせに日焼け止めは塗り忘れがちだ、と春にしては少し元気すぎる日差しに目を細めながら話していたところだった。
「だって、そういうの見つけると嬉しいじゃない。おそろいだなぁって」
俺は軽くスキップをしてシュンよりちょっと先に進んでみる。
「俺たちっていろんなことが違ってて……それは別の人間だから当たり前なんだけど、でも日常の些細な出来事の中に「おそろい」があるとこういうとこで分かり合えたりするんだなって」
なるほどね、とシュンが今度はたたん、とステップを踏んで俺に追いついた。
「俺は、俺たちが全然違ってるからこそ、こうやって二人で過ごせてることがすごく感慨深かったりするんだけど……確かにそう考えたら「おそろい」っていいな」
俺はシュンの整った横顔を眺めた。俺の視線に気づいたシュンが照れくさそうに笑う。
「ねぇ、俺らせっかく誕生月が「おそろい」なんだから、そういうの形として身に着けるってどう」
彼の思いもよらぬ提案に俺は小首を傾げる。
「形として?」
シュンは頷く。
「来月俺ら誕生日でしょ。今年は一緒にお祝いし合おうって……それでプレゼントをさ、誕生石のピアスにしてお揃いにするとかは?」
俺の誕生日は5月19日、シュンは14日と本当に近いのだ。去年は互いの誕生日の正確な日付を知ったころにはもう過ぎていたため、今年はちゃんとお祝いし合おうと話していた。
「なにそれかっこいい、めちゃくちゃいいじゃん!それにしよう」
俺が勢いよく首を縦に振るのを見てシュンもほっとしたように笑った。
後日、俺たちは一緒にピアスを選びに行った。5月の誕生石はエメラルドなのだと俺はこの時シュンに教えてもらって初めて知った。
「このデザイン好きだけどな、ちょっと派手かなぁ」
シンプルなストーンピアスだが、カッティングの仕方なのか耳に当ててみると存在感がある。
「1個ずつ付けようか。それならそこまで派手になんないだろ」
シュンの提案に俺は、天才、と言って同意する。その日の夜、俺たちは互いにピアスホールを開け合った。すでに両耳に1つずつとインダストリアルに開けたことのある俺は慣れっこだったけど、シュンは初めてだったから涙目になっていた。かわいい、と揶揄うと、拗ねたのか噛みつくようにキスをしてきて余計にかわいく思えてしまった。その日、俺たちの「おそろい」はまた一つ増えたのだった。
その年……つまり二年生の夏の学祭での俺たちのライブは「伝説」となった。シュンが大事に温めてきたあの曲のお披露目の場となったあの日。
学外にも名が知られ始めていた俺たちのライブにはもとよりほかの出演バンドよりも多くの観客が詰めかけていたが、あの曲はそれだけでなく、道行く多くの人の足をその場に縫いとめた。今までにないくらいたくさんの人の視線が、熱量が、俺たちに一身に注がれる。鳥肌が立った。ライブが終わってもその高揚感は抜けきらないままだった。俺たちがステージを降りた後も騒然としてなかなかおさまらない観客らの熱狂の声を遠くに聞きながら、魂が抜けたようにぼうっとしている俺の肩をシュンが力強く抱く。ミズノとみっちーもそれに続いて、その時ようやく俺は、ライブが成功に終わったんだと認識できた。
12月に行われたサークルライブでは、あの時のバンドをもう一度観たいとどこからか情報を手に入れた外部の人間たちがチケットを買い求めるという異例の事態まで起きた。
「すごいよ、シュンは」
サークルライブが落ち着いて以降、いつだったか、俺は彼に向かって興奮気味に伝えたことがある。
「俺、ほんっとうにシュンの作る曲が好きなんだ。だからいまそれを作り上げる一部になれてるのがすごく嬉しくて、ライブ中に皆と目の合う瞬間やお客さんが俺たちの音に示してくれる反応が見れるのとかも最高で……ねぇ、これからも俺にこの特等席でたくさん演奏させてね」
シュンは曖昧に笑った。俺はこの時、てっきり彼は照れ隠しでそういう反応をしたのだと思っていた。
コメント
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「特等席」きたー!タイトル回収! いろはさんの「付き合ってるふたり」 の関係性の描き方ってすごくリアル、、ちょっとしたエピソードとかぐっとくるものがあって好き😳 終わり方が不穏😭続きが気になる~!
えはわわ😳これはどういうふうになっていくのか楽しみですなぁ(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク
ピアス、特等席、沢山のお揃いを作って、本当に幸せな時間を2人は過ごしてたんだけど、、、と思うとちょっとウルッてきます🥲