カウンセリングデータ
氏名 星導 ショウ
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精神状態良好。もはや異常なのではと疑う程に何の問題もありません。本人は相当苦痛を伴う外傷を被られたはずなのですが、さほどショックは受けていないようです。
正しく現実を認識した上で正常です。健忘症の疑いは全くありません。
以前、記憶喪失と診断されたと記録がありましたが、もしかするとこの影響が大きいのかもしれません。
非日常的な経験が思わぬところで免疫効果を伴ったのではと推測します。
氏名 小柳 ロウ
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同僚の体の欠損を目撃したことにより精神的ショックを受けています。
その瞬間のフラッシュバックに悩まされているようです。十分な睡眠がとれていないようなので睡眠剤を処方しました。
しかし、それ以前からその同僚に対して酷く心配しているようです。怪我もそうなのですが、考え方や意識の違いなどに不安を持っているようです。
「手術で切断したるべの手足…?」
「うん。病院側で火葬していいか、って確認がきてる」
「……そう、だね。うん」
退院から4日。復帰1日目。
カゲツと伊波は簡単な事務作業と書類整理をしていた。その傍ら、鳴っていた電話をカゲツがとる。電話の向こうは俺達が入院していた病院からだったらしい。
「……はぁ」
「どした?」
「なんか、今だに信じられなくてさ」
「そうだね……」
任務終了後、病室で眠る星導を見た時の衝撃は2週間以上経った今でも鮮明に蘇る。
肩からストンと布が窄んだ袖と太ももから先のない足。
「いくら元に戻るって言われてもあれは……なぁ」
「ショックだったよな」
「……手足って手術で切断したんや」
「そう……左腕はるべが自力で切ったって言ってた。残りの手足は……お医者さんが治療は無理だって判断したみたい」
2人は病室で手足のない星導と対面した。一度医師から手術内容の説明を受けているが、カゲツはあまりのショックで上の空だった。無理もない。伊波が改めて説明すると顔を曇らせる。
「そっか……そんなにボロボロだったんか」
星導が意識を取り戻したのは入院から9日後。本人は手術内容の説明を受けている時、普通だった。異様な程いつも通りだった。
「ロウ、大丈夫かな」
夜、星導の隣で静かに涙を流していた小柳を思い出す。伊波が思うに星導の手足がなくなって一番ショックを受けていたのは星導本人よりも小柳だった。
星導が無茶をして大怪我するのは今回が初めてではない。これまで何度もあった。それをすぐそばで目撃することの多い小柳の心労は計り知れない。しかも今回は腕を斬り落とす瞬間を小柳は見ていたらしい。
気がかりにしていたことをカゲツに話す。
「星導のその時のがフラッシュバックするって言ってたから。2人にしちゃっていいのかなって考えてて」
「うーん…けど小柳、星導になんか言いたげだったからよかったんちゃうかな」
「そうだね……無理な時は無理って言うって言ってたし……でもなぁ」
小柳もなんやかんや無理しがちなのをよく知ってる伊波はため息混じりにカゲツに零す。
「やっぱ心配だよ」
「……もう、ぼくも心配だけど小柳のこと信用して家出たのに伊波がそんなに不安そうやとぼくも心配なってきた」
「過保護だね。俺ら」
カゲツが不安そうな顔をしながらも明るく振る舞うから伊波も少しだけ笑って見せた。
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