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雲雀は自分が誰かを探すような人間だとは思っていなかった。
朝の教室
席に座って、鞄を置く。
それだけの動作なのに視線が一度後ろを向く。
――まだ来ていない。
それを〈待っている〉とは思わない。
ただ確認しただけ。そういうことにしておく。
チャイムが鳴る。
奏斗はぎりぎりで教室に滑り込んできた。
『セーフ!』
いつもの声。いつものテンション。
その瞬間、雲雀の中で “音の輪郭” が戻る。
世界がちゃんと配置され直す感覚。
「……」
雲雀は無意識に肩の力を抜いていた。
授業中
奏斗はやたら静かだった。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいにノートを取り前を向いている。雲雀はそれが気になった。
黒板の文字よりも。
「 (……静かやな) 」
ただそれだけのことなのに胸の奥が微かにざわつく。
昼休み
『ひば、今日メシどーする?』
奏斗が声をかける。雲雀はほっとしたのを悟られないように頷いた。
「……いつも通りで」
『りょ』
その短いやりとりで十分だった。
購買への道
人の声。笑い声。雑音。
その中で奏斗の声だけを自然と拾っている自分に雲雀は気づかない。
『ねえ』
奏斗が言う。
『最近さ、僕いないとき調子悪くない?』
雲雀は一瞬考える。
「……そんなことは、」
否定しようとして、言葉が止まる。本当に?
「……分からん」
正直な答え。奏斗はそれ以上軽くは笑えなかった。
放課後
奏斗が委員会で遅くなる日。
雲雀は、一人で帰ることになった。
校門を出る。人混みの中。
いつもなら問題ないはずなのに。足が妙に重い。
「……」
スマホを見る。通知はない。理由もなくもう一度見る。それを “確認” だと思い込もうとする。
その夜
雲雀は机に向かっていた。
教科書を開いているのに、内容が頭に入らない。静かすぎる。耳鳴りが逆にうるさい。
「(……奏斗)」
名前を呼びそうになって口を閉じる。呼んでどうする。返事がないのに。
翌日
奏斗は雲雀の異変にはっきり気づいた。
声をかける回数が増えた。近づくと、雲雀の反応が早くなる。視線が先に向く。
『…ねえ』
放課後、二人きりになった廊下で。
奏斗が真面目な声で言う。
『ひばさ』
雲雀が顔を上げる。
『……僕に依存してない?』
その言葉は冗談じゃなかった。雲雀は即答できなかった。否定する言葉は知っている。でも、それを言うための確信がなかった。
「……分からん」
小さな声。
奏斗はそれを聞いて胸が締めつけられた。
『……それ、結構まずいんじゃないの』
沈黙。雲雀は俯いたまま言う。
「……やけど」
声がかすれる。
「奏斗の声なかったら世界が……遠い、」
依存
その言葉がようやく意味を持つ。
奏斗は何も言えなくなった。