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奏斗はその日から少しだけ変わった。
声のトーンを落とす。無駄に笑わない。必要以上に話さない。
『……ひば』
名前を呼ぶ回数すら、意識して減らした。
――依存させないため。
そう思っての行動だった。
雲雀はすぐに違和感を覚えた。
奏斗の声が遠い。前より輪郭が曖昧。
「……静かやな」
昼休み、ぽつりと呟く。
奏斗は作り笑いを浮かべる。
『そー?』
「、うん」
雲雀はそれ以上言わない。言えなかった。
“前のほうがよかった” なんて。
放課後の調査
今日は体育館倉庫。部活の引退試合後に感情が残りやすい場所。
『……ここ、結構強いかも』
奏斗が波形を見る。
『無理そうなら、僕やるよ?』
「……いや」
雲雀は一歩前に出る。奏斗は、その背中を見て一瞬ためらう。でも止めなかった。
――雲雀の “自立” を
信じたかった。
音片が一気に流れ込む。
歓声。
悔しさ。
泣き声。
強烈な感情。
雲雀の眉がわずかに動く。
「……っ」
足元が揺れる。
『雲雀!』
奏斗が叫ぶ。
でも――
自分で決めた。
声を抑える。必要以上に近づかない。
雲雀はその場で立っていた。倒れなかった。ただ、目の焦点が合っていない。
「……回収 完了」
声はいつも通り。奏斗は胸の奥が冷たくなる。
『(……本当に、大丈夫なのかな)』
帰り道
奏斗は沈黙を選ぶ。雲雀はその沈黙が耐えきれなかった。
「……なあ」
奏斗が振り返る。
「……今日声、少ないな、」
責めるつもりはなかった。
ただ事実を述べただけ。
『……気のせいでしょ』
奏斗はそう言うしかなかった。
その夜
奏斗は自分の声を録音していた。
スマホの画面。
『……雲雀』
呼ぶ。再生。普通の声。
『……これで、いいんだよね』
雲雀を縛らないため。依存させないため。
そう思いながら――
“残しておきたい” 衝動が消えなかった。
一方、雲雀。
部屋でヘッドホンをつける。何も流していないのに。耳が奏斗の声を探している。
「(……聞こえない)」
当たり前なのに。
「……」
胸の奥がすうっと冷える。その冷たさが何かを失っている証だと気づかないまま。
翌日
雲雀は授業中にふと考える。
「(……このまま声が減っていったら)」
想像した瞬間、胸が苦しくなる。理由は分からない。ただ、怖かった。
奏斗はそれに気づいてしまう。雲雀が前より自分を “聞こう” としている。守るつもりが逆だった。
『……ねえ』
放課後、小さく声をかける。雲雀が振り向く。
その一瞬、雲雀の目が少しだけ明るくなる。
奏斗は、それを見てしまった。
そして後悔した。