テラーノベル
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夜。
百鬼夜行。
山の中。
無数の妖怪。
神様。
灯り。
笑い声。
その先頭。
紫の着物の深澤が楽しそうに歩いている。
「やっぱこれだよね」
隣には照。
少し後ろに。
阿部。
目黒。
翔太。
涼太。
神様になった阿部には。
妖怪たちの気配も。
神力も。
前よりずっとはっきり分かる。
「すごいね」
阿部が言う。
目黒は阿部を見ている。
「めめ」
「何?」
「ちゃんと百鬼夜行見て」
「見てる」
「俺じゃなくて」
「どっちも」
翔太が吹き出す。
「またそれやってる」
深澤も振り返る。
「めめー」
「何?」
「今日くらいあべちゃんじゃなくて」
「百鬼夜行見ろよ」
「嫌」
「嫌って何」
「ふっかさんより」
「あべちゃん見たい」
「俺と比べんな!」
阿部が笑う。
照が少し呆れたように言う。
「ふっか」
「前見ろ」
「はいはい」
深澤はまた歩き出した。
妖怪に呼ばれれば笑って返す。
昔から知る神と肩を組む。
小さな妖怪が飛びつけば。
そのまま頭へ乗せる。
本当に。
こういう夜が好きなんだと分かる。
その時。
空気が変わった。
阿部が最初に気付く。
「……何?」
山の奥。
黒い。
神力とは違う。
淀んだ気配。
目黒も顔を上げる。
紺色が鋭くなる。
「来る」
照がすぐ深澤を見る。
「ふっか」
深澤はもう笑っていなかった。
「分かってる」
次の瞬間。
轟音。
地面が揺れる。
妖怪たちが騒ぎ始めた。
木々の間。
巨大な黒い霧。
形は定まらず。
その中に無数の目。
阿部が息を呑む。
「何あれ」
涼太が表情を硬くする。
「昔から」
「山の奥に封じられてたもの」
「なんで出てきたの」
翔太が聞く。
目黒が境界を見る。
「割れてる」
「多分」
「百鬼夜行の神力が集まりすぎた」
照がすぐ言う。
「めめ」
「境界閉じろ」
「うん」
紺色。
目黒の神力が広がる。
でも。
黒いものが境界を押し返す。
「強い」
阿部も隣へ。
「俺もやる」
緑。
木々。
根。
山そのものを支える。
涼太は崩れた地面と水を整え。
翔太は怯える妖怪たちを落ち着かせる。
照も金色の神力で。
黒いものを押さえ込む。
それでも足りない。
黒い霧が一気に膨らみ。
百鬼夜行の列へ向かう。
深澤が前へ出た。
「ふっか」
照が呼ぶ。
「俺がやる」
「一人でやるな」
深澤は黒い影を見る。
紫がゆっくり広がる。
「でも」
「これ」
「俺が一番相性いい」
照が腕を掴む。
「だからって」
「一人でやる理由にならない」
深澤が一瞬。
いつものように笑う。
「大丈夫」
照の眉が動いた。
「ふっか」
でも。
深澤はその手を外した。
次の瞬間。
紫。
山全体を覆う。
阿部が目を見開く。
「……すご」
今まで見たことがない。
深澤の神力。
大きく。
強い。
なのに。
荒くない。
黒いものの形も流れも。
全部読んでいる。
「そこ」
指が動く。
紫の線。
何百。
何千。
細く広がり。
黒い霧を一つずつ縛っていく。
普段は。
適当で。
ふざけて。
面倒くさがる。
でも今。
何一つ無駄がない。
黒い影が暴れ。
紫の線を何本も引きちぎる。
深澤の身体が少し揺れた。
照が一歩出る。
「ふっか」
「来るな」
初めて。
強い声。
照が止まる。
「今近付くと」
「巻き込む」
照が拳を握る。
紫がさらに濃くなる。
空。
地面。
山。
全てが一瞬染まる。
黒いものが吠え。
山が震える。
その向こう。
深澤は。
たった一人で立っていた。
「戻れ」
紫の線が一気に収束する。
黒い霧が。
山の奥へ引き戻される。
無数の目が消え。
最後。
大きな黒い塊。
深澤が手を握る。
紫。
弾ける。
轟音。
そして。
静寂。
黒いものは消えた。
深澤がゆっくり手を下ろす。
「……終わり」
振り返る。
いつもの顔。
「いやー」
「久しぶりに疲れた」
笑った。
その瞬間。
身体が傾く。
「ふっか!」
照が一番早かった。
地面へ落ちる前に。
抱き止める。
「……あ」
深澤が少し笑う。
「照」
「馬鹿」
低い声。
「終わったからいいじゃん」
「よくない」
照の金色が深澤を包む。
阿部たちも駆け寄る。
「ふっか大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
上げた手は少し震えていた。
照が掴む。
「これで大丈夫って言うな」
深澤が黙る。
翔太も笑っていない。
「ふっか」
「顔色悪い」
「神様に顔色とかある?」
「ある」
涼太も見る。
「かなり使ったね」
「まあ」
「久しぶりだったし」
照が。
そのまま深澤を抱き上げる。
「え」
「ちょっと」
「自分で歩ける」
「歩くな」
「照」
「黙ってろ」
深澤が完全に黙る。
目黒が小さく言う。
「ふっかさん」
「怒られてる」
「聞こえてるからな」
目黒が少しだけ阿部の後ろへ寄った。
屋敷。
深澤の部屋。
布団へ寝かされる。
「別に寝なくても」
「寝ろ」
「神様だよ俺」
「知ってる」
「寝なくても平気」
「今日は寝ろ」
「はい」
深澤は素直に目を閉じる。
でも。
すぐ開く。
照はまだ。
隣に座っていた。
「照」
「何」
「そんな怒る?」
「怒る」
「でも」
「俺がやるのが一番早かった」
照が見る。
「早いとかじゃない」
「みんな守れた」
「だからって」
声が少し強くなる。
「ふっかが倒れていい理由にならない」
深澤が黙る。
「強いことと」
照が続ける。
「一人でやっていいことは違う」
深澤の目が少し揺れる。
「俺の方が強いし」
「知ってる」
「じゃあ」
「強いから何」
深澤が止まる。
照の金色。
怒り。
その奥に。
怖さ。
深澤には分かった。
「俺は」
「ふっかが強いの知ってる」
「俺よりずっと強いのも」
「でも」
照が深澤の手を取る。
赤い輪が強く光った。
「だから」
「一人で全部背負えって」
「思ったことない」
「俺もいる」
「めめも」
「阿部も」
「翔太も館さんも」
「みんないる」
「なのに」
「なんで一人でやるんだよ」
深澤は天井を見る。
少し間。
「……癖」
「昔から」
小さく笑う。
「俺が一番強かったから」
「何かあったら」
「俺がやるのが普通だった」
「誰かに頼むより」
「自分でやった方が早いし」
「失敗しても」
「俺だけなら」
止まる。
照の目が鋭くなる。
「俺だけなら?」
深澤が少し困った顔。
「……巻き込まない」
静か。
照が手を握る。
「それ」
「一番嫌い」
深澤が目を瞬く。
「何が?」
「ふっかが」
「自分だけならいいって考えるの」
深澤の笑いが消える。
「ふっかだけじゃない」
「俺にとっては」
「ふっかが巻き込まれるのが」
「一番嫌だ」
紫の神力が弱く揺れる。
「……照」
「何」
「怖かった?」
「怖かった」
即答。
深澤の目が少し大きくなる。
「ふっかが振り返らなかった時」
「来るなって言った時」
「このまま」
「戻ってこなかったらどうしようって」
「思った」
深澤は目を逸らす。
「戻ってくるよ」
「絶対?」
言葉に詰まる。
神様でも。
絶対はない。
二人とも知っている。
照が静かに言う。
「だから」
「次は一緒にやる」
「でも」
「一緒に」
深澤が少し笑う。
「照」
「何」
「頑固」
「ふっかが言うな」
少し。
空気が緩む。
深澤は繋いだ手を見る。
赤い輪。
「……分かった」
「何が」
「次」
少し握り返す。
「一人でやらない」
「本当に?」
「多分」
照の眉が動く。
「ふっか」
「嘘嘘」
深澤が笑う。
「ちゃんと」
「一緒にやる」
照が息を吐く。
「ならいい」
深澤はその顔を見る。
怒って。
怖がって。
それでも。
ずっと隣にいる。
昔。
弟子だった神様。
今は。
自分が無茶をすれば。
誰より本気で怒る相手。
深澤が少し身体を動かす。
「照」
「何?」
「もうちょい」
「近く来て」
照が目を瞬く。
でも。
何も言わず近付く。
深澤は肩へ頭を預けた。
「疲れた」
ようやく。
本当のこと。
照の表情が柔らかくなる。
「うん」
「結構」
「しんどい」
「知ってる」
「神様なのに」
「神様でも」
「疲れる時あるだろ」
深澤が少し笑う。
「そっか」
「うん」
照の金色が。
静かに深澤の紫へ寄り添う。
治すためでも。
力を足すためでもない。
ただ。
隣にいる。
深澤は目を閉じる。
「照」
「何?」
「起きたら」
「百鬼夜行の続き行っていい?」
「駄目」
即答。
深澤が目を開ける。
「なんで!」
「今日は終わり」
「まだ途中だったのに」
「終わり」
「照ー」
「駄目」
深澤は不満そうに。
また目を閉じる。
「厳しい」
「知ってる」
「でも」
「何?」
もう少し。
照の肩へ寄りかかる。
「まあ」
小さく笑う。
「悪くない」
照も少し笑った。
強い。
誰より。
強い。
だから。
ずっと。
一人で何とかしてきた。
でも今は。
倒れた時。
受け止める相手がいる。
怒ってくれる相手がいる。
疲れたと。
言える相手がいる。
深澤は繋いだ手を離さないまま。
静かに目を閉じた。
次は。
一人じゃなくていい。
そう思えることが。
強さとは少し違っても。
きっと。
ずっと。
必要だったものだった。
コメント
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今晩は⭐️ 一気に読みました。 師匠と弟子からちと逆転 素直になかなかなれない2人 それでも お互いが大事 6人のうちやっぱり1番強いのですね💪 楽しく読んでいますから長くても全然大丈夫です😄👌
君のシリーズの新作、少しずつ完結が見えて来ましたが、今の時点で60話を超えています😭 近日公開予定ですが1日朝夕投稿でも全話載せるのに2週間ほどかかります🙇♀️
みら

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