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ファッションショーが終了し、次のミッションの発表まで少し時間が空くと館内アナウンスが告げられた。参加者たちは一旦部屋に戻り、しばしの休息を取るよう案内される。彼も部屋に戻り、ドアを閉めると大きく息を吐いた。心の中には、次のミッションへの不安と期待が混ざり合っていた。
「まずは、着替えよう…」
彼はそう呟き、ドレスを脱いでクローゼットに放り込んだ。再び男らしい服装に戻りたい気持ちが強くなり、Tシャツとジーンズを手に取った。女性らしさを求められる場面で着たドレスとは違い、このラフな格好が彼には心地よかった。靴もハイヒールではなく、スニーカーに履き替えた。
「よし、これで少し落ち着く…」
彼は鏡に映る自分の姿を見つめた。ファッションショーでの緊張感から解放され、ほんの少しだけ自分を取り戻した気がした。もう一度深呼吸をし、食堂に向かうため部屋を出た。
食堂に着くと、既に何人かの参加者たちが集まっていた。彼は目を細めて周囲を見回した。そこには、ドレスやスカート姿のままの女性もいれば、Tシャツやジーンズに着替えた者もいた。しかし、何より彼の目を引いたのは、数人の男性がそこに混じっていることだった。
「もしかして、彼らは…」
おそらく先ほどのファッションショーで高得点を獲得し、元の男性の体に戻った者たちだろう。彼らは堂々とした態度でテーブルに座り、周囲の女性たちと談笑している。その中で、彼の視線は一つの野球帽に留まった。
それは見慣れた野球帽だった。彼は心臓が跳ねるような感覚を覚えながら、その方向に歩み寄った。そこに座っていたのは、大学生くらいの年齢の筋肉質な青年だった。健康的な日焼けをした肌と、整った顔立ち。彼は食事を楽しんでいるように見えたが、ふと彼の視線に気づき、目を上げた。
「…君、あのファッションショーに出てた?」
彼は恐る恐る声をかけた。青年は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。
「うん、そうだよ。君もだろう?」
その声に間違いはなかった。彼は確信した。目の前の青年こそ、さっきまで女性の体で野球帽をかぶっていたあの彼女だ。
「やっぱり…君があの野球帽の…」
彼がそう言うと、青年は軽く笑って帽子を取った。短く刈り込まれた髪が見え、彼は自然と肩の力が抜けた。青年は帽子をテーブルに置きながら言った。
「そう。あの格好で出るしかなかったんだけど、結果的にはうまくいったみたいだね。まあ、ラッキーってやつかな。」
彼の言葉に、彼は安堵の笑みを返した。自分と同じように、不安を抱えながらも挑んだ者が、こうして元の体に戻ることができたことに、少しだけ希望を感じた。
「君も次のミッション、頑張ってね。きっと大丈夫だよ。」
青年の励ましの言葉に、彼は少しだけ自信を取り戻した。次の試練が何であれ、乗り越えれば自分も元の体に戻れるのだと信じることができた。
「ありがとう。俺も、頑張るよ。」
彼はそう答え、隣の席に座った。食事の香りが漂い、彼は腹が減っていることに気づいた。食堂の温かな雰囲気の中、彼は次のミッションに向けて心の準備をしながら食事を取り始めた。