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第四話 約束の桜並木
「誰かに見せたい景色ができたとき、その場所は”思い出”になる。」
土曜日の朝。
窓を開けると、
ひんやりとした春の風が部屋へ流れ込んできた。
青空には雲ひとつなく、
昨日までの雨が嘘のようだった。
湊は机の上に置かれた一眼レフを手に取る。
レンズを柔らかい布で拭き、
バッテリーを確認する。
今日だけは、スマートフォンではなく、
このカメラで写真を撮ろうと決めていた。
鏡の前でカメラバッグを肩に掛ける。
少しだけ緊張している自分に気づき、
小さく笑った。
「……写真を撮りに行くだけなのに。」
そうつぶやいて家を出る。
*
待ち合わせ場所の駅前には、
蓮がすでに缶コーヒーを飲みながら立っていた。
「おっ、神崎!」
「早いな。」
「楽しみで目が覚めた!」
「子どもみたい。」
そう言ったのは美桜だった。
「おはよう!」
明るい声とともに手を振る。
その後ろから、紬がゆっくり歩いてくる。
白いブラウスに淡い水色のカーディガン。
制服ではなく私服姿の紬は、
学校で見る雰囲気とは少し違って見えた。
「おはよう。」
目が合う。
紬は少し照れたように笑った。
「神崎くん、そのカメラ持ってきてくれたんだ。」
「今日はちゃんと撮ろうと思って。」
「楽しみ。」
その一言だけで、湊の胸は少しだけ高鳴った。
*
電車を降りて十分ほど歩く。
住宅街を抜け、小さな橋を渡る。
すると視界が一気に開けた。
川沿いの遊歩道。
両側には何十本もの桜の木。
春風が吹くたびに、花びらが川へ舞い落ちる。
「……すごい。」
紬が立ち止まる。
「こんな場所があったんだ。」
「初めて来た!」
美桜は目を輝かせながら桜の下を走っていく。
蓮も思わず口笛を吹いた。
「神崎、お前こんな穴場知ってたのか。」
湊は少し照れくさそうに笑う。
「小さい頃から父さんと来てた場所なんだ。」
その言葉を聞いた紬は、静かに桜を見上げた。
「大切な場所だったんだね。」
湊はゆっくり頷く。
「……うん。」
「だから、みんなに見せたかった。」
紬は何も言わなかった。
ただ、とても嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、
湊は自然とカメラを構えていた。
ファインダー越しに見える紬は、
舞い落ちる桜の中で空を見上げていた。
風が吹く。
花びらが髪をかすめる。
その一瞬――
カシャッ。
静かなシャッター音が響いた。
「え?」
紬が振り向く。
「今、撮った?」
湊は少し照れながら頷く。
「ごめん。」
「……あまりにも綺麗だったから。」
紬は驚いた表情を浮かべ、それから優しく笑った。
「謝らなくていいよ。」
「神崎くんが見た景色の中に、私がいたなら……。」
少し照れながら続ける。
「それ、ちょっと嬉しい。」
湊は何も言えなかった。
ただ、カメラを握る手が少しだけ熱くなっていた。
春の風が、また桜を揺らす。
その花びらは、
二人の間をゆっくりと通り過ぎていった。
📷 Photo.004『桜の向こう側』
撮影日:4月12日
シャッターを切った。
あの日、
変わったのは景色じゃない。
#同棲
🔹羅碧🔹
199
#恋愛
コメント
2件
ありがとうございます! 絶妙な距離感意識して書いてたんです! あとは一つ一つの描写にすごく力を入れて書いてたのでそう言ってもらえて嬉しいです! もしかしたら2人の関係変わったりするかもですね🤭
第4話、とても温かくて美しい回でしたね……!「誰かに見せたい景色ができたとき、その場所は“思い出”になる」という冒頭の一文から、もう胸がぎゅっとなりました。湊くんがお父さんと来ていた大切な場所を、みんなに——特に紬さんに見せたいと思った気持ちが、カメラを構える手の熱さにじんわり滲んでいて。風に舞う花びらの中でシャッターを切るあの瞬間、本当に素敵でした。紬さんの「その景色の中に私がいたなら、嬉しい」という返しも、お互いを想う距離感が絶妙で……ずっとこの二人を見ていたくなります。