コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
大阪 ミナミ
萬田金融事務所
ガチャっ!
バタバタッ
「兄貴ぃ!大変ですー!」
「やかましい。大声出すなていつも言うとるやろ」
「はぁはぁ…すんまへん…」
「で、どないしたんや」
「高瀬が飛びよりました!」
「はぁ…そんな事やろうと思った
居場所はもう分かっとるんか?」
「いやそれがまだ…
ただ…良く出入りしてたらしいクラブは目星ついてるんですけど」
「ほなさっそくそのクラブ行くぞ」
「いや…!あの…そのクラブなんですけどぉ」
「なんや歯切れの悪い、はっきり言わんかい」
「そのクラブが…桜子ちゃんのクラブなんです!」
「…………。だからなんや?」
「その…あいつ…桜子ちゃんに相当夢中らしくて…それでお金…」
「あいつが誰に入れ上げてようがそんなもんワシには関係無い。こっちは銭返してもらうだけや余計な心配すな」
「はい、ですよね…」
「さっそく米原のクラブ向かうぞ」
「はい。」
俺の言葉を掻き消すようにそう放った兄貴の目は少しの戸惑いと不安が渦巻いているように見えた
それは舎弟として雇われてずっと側に居るからこそ分かる兄貴の微妙な空気感の変化やった
やっぱり兄貴は
桜子ちゃんの事…
⋯ミナミ 某ビル⋯
ピンポーン…
“エレベーターが開く音”
「兄貴ここです。」
「…………。」
ガチャッ
「いらっしゃいませ。」
「おお、兄ちゃん。
今日ママは出てる?」
「申し訳ございません。あいにく本日ママはお休みでして…。」
「そうかぁ…。
兄貴どないします?」
「……。もしかしたら高瀬がクラブに姿表すかもしれんからお前はここで見張っとけ
それと店の子らに高瀬の情報聞き込むんや」
「分かりました。なんぞ情報掴めたら連絡します!…兄貴は?」
「ワシはちょっと調べたい場所があるからそっちに向かう。頼んだぞ」
「へい。」
そう言って振り返り足早に去って行く兄貴の背中、何かに駆られて焦っているようなそんな背中やった…
「あ、お客様こちらへどうぞ」
「おーう♪ここの店一押しの娘着けてやー」
「もちろんですよー良い子揃ってますよ♪」
「うひょ〜楽しみぃ↗」
ブォーン…”車のエンジン音”
キキッ
「米原がクラブに出てないって事は…
家に居てる可能性大って事やな
不本意な形であいつの家を知る事になったけど、今となってはありがたい話や」
「死ぬほど頑固な米原が自分の店の客の事何か知ってても軽々しく教えてくれるとは思ってないけど調べる価値はあるやろ」
煙草をひとしきり吹かして…
ふぅー…。
カチャ…
バンっ!”車のドアを閉める音”
コツコツっ
「確かこの部屋やったな…」
ピンポーン……
ガチャッ
インターホン越しの声「はい!」
「………。米原、萬田や。」
インターホン越しの声「……え!?
ま、萬田って…萬田くん!?ど…どうしたん?」
「ちょっと米原に聞きたい事があってな」
インターホン越しの声「うん…分かった。ちょっと待って」
カチッ
“鍵を開ける音”
ガチャッ
キィ…
「……?萬田くん…!」
「米原…しばらくやの。
夜遅くにすまん。
どうしても知りたい事があってな。」
「ほんまに久しぶり…
あんまりいきなりやからびっくりした!」
戸惑いながらドアの端から顔を出す米原
その姿に何故か不思議と安心感を覚えている自分が居る
「知りたい事って?」
「米原のクラブの客に高瀬伸二っちゅう客おるやろ」
「高瀬…伸二…
う、うん…居てるけど…その人がどうしたん?」
「借金踏み倒して逃げよったんや。クラブの常連で米原の事をえらい贔屓にしてたっちゅう情報知ってな、お前やったらあいつの事なんか知ってるやろ思て寄らせてもらったんや」
「……。そ そっか…。
確かにお店の常連やし贔屓にしてもらってるのは事実やけど…。でもプライベートな事何も知らんねん…ごめんね?」
…………。
この米原の目
嘘ついとる時の人間の目や…
これまで色んな人間に銭を貸してきたからこそ分かるこの感覚
平然を装おうとして逆にいつもと違う仕草や目線になる
「ほーう………。
何も知らん…か」
「うん…ごめんやけど…」
「お前が自分の店の客の事ペラペラ話すほど口の軽い女やとも思てへんけどな…」
「え…」
ガタッ
“足で扉を押さえ閉まらないようにする銀次郎”
「夜の女なんやったらもっと上手いこと嘘つくんやな…」
「ちょ…!何!?私嘘なんかついてない!」
「嘘ついとる人間は揃ってみんなそう言うんや」
「はぁ?!嘘なんか…
いきなり人の家来といてその言い方何!」
怒る桜子を横目に玄関に置いてある靴に目をやる銀次郎
…………。
そこには米原のものであろうスニーカーやきらびやかなハイヒール
その中に不自然に男物の靴が一足だけ揃えて置いてあるのが見えた
まさか高瀬の…
そんな事が脳裏をよぎる
「米原ぁ…嘘はあかんな。」
「は?だから嘘なんか…!」
ガタッ!!
「邪魔するでぇ」
そう言って勢いよくドアを開け、強引に部屋の中へ入っていく銀次郎
「きゃ!ち、ちょっと!!!
どういうつもり!?出てってよ!」
静止する桜子の手を振り切りリビングへ歩いていく銀次郎
たどり着いた部屋の奥に男物のスーツが一式綺麗に整えられてハンガーにかけてあるのが目に入った
………………。
「人の家に上がり込むとかほんまに信じられへん!!!萬田くんそんな人やと思わんかった!!!」
その瞬間怒りや不安、戸惑い…何か言いようのない感情が銀次郎の心にこみあげる
「これ………あいつのやろ」
「はぁ?何あいつのって…」
「このスーツ高瀬のやろ!!」
「さっきから萬田くん何いってんの!?
そんなわけないやろ?なんで私がお客さんの私物持ってるんよ!」
「じゃあこのスーツも、玄関の靴も…
誰のもんやねん!」
「そ、それは…!」
「なんではっきり答えられへんのや。
やましい事が無いんやったらすぐ答えられるはずやろ」
「えと…………。私の…彼氏の!」
………
………
………
二人の間に沈黙の時間が流れる
「……お前の男のもんやったらはじめからはっきりそう答えたらええやろ、なんではぐらかしたんや」
「それは…!
いきなり部屋に入ってこられたから混乱して…」
「嘘はもうええ。」
「嘘じゃないってば!」
「はぁ…
残念やなぁ…前は素直な女やったのに」
桜子の感情を揺さぶる銀次郎
「な…っ!分かった…正直に言うよ
本当はそれ高瀬さん…の…」
「やっぱりな。で、あいつ今どこにおるんや。どっかに隠れてるんやろ」
「そんなん知らん!」
「どうせ時間の問題や、結局ワシらに見つかるんやから今居所言うといた方が楽やぞ」
「そんな事言われたって知らんもんは知らんもん。付き合ってないし…」
「……さっき彼氏言うたやろ」
「んー…
彼氏では…ない」
………………?
訳が分からなくなる銀次郎
「お前さっきから何を言うてんねん」
「だからぁ!高瀬さんは……その…
ああ!もう!察してよ!!」
少し考える銀次郎……
「………お前ら実は結婚してるんか?」
首を横に振る桜子
「……逆に遠のいた…」
「チッ!あーもう!まどろっこしい!
はっきりせえ!」
いらつく銀次郎
「もーー!だから高瀬さんとは……
体だけの関係やの!!
それで着替えとか必要な時…
あるから…その服と靴置いてあるだけ…!」
「っ………!」
広がる沈黙…
もう最悪…
この事を一番知られたくない萬田くんに自分の口から告白させられて
この空気
地獄…
確実に嫌われた
恥ずかしさと悲しみに襲われ
思わず顔を隠すようにシュンと下を向いた桜子
その瞬間、銀次郎が目の前から迫ってくる気配を感じた
サっ……
その気配を感じるも
桜子は恥ずかしさで顔を上げられない
遂に桜子の目の前まで来た銀次郎
纏った何かただならぬ空気を感じる
ドンっ!
目の前まで来た銀次郎はそのまま勢い良く桜子を壁に押しつけた
「いった……!な、何!?」
ぐいっ……
その言葉にも反応せず銀次郎は黙ったまま桜子の両手首をキツく掴み頭の上でクロスさせるようにして固定した
「ちょ!いや…」
両手を上にあげられるだけで自分の全てを晒しているようなそんな気持ちになる
そして銀次郎は吐息が触れそうな距離までその顔を近付けた
「なんでこんな事すんの…
正直に言ったんやから離して…」
戸惑いながらもそう言い放つ桜子
「………。」
それでも黙ったまま鋭い目つきで桜子の顔を見つめ続ける銀次郎
「萬田くん…怖い…」
何も言葉を発してくれない銀次郎の様子に不安と恐怖そして羞恥心がうずまき桜子は思わず視線をさげる