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静かだった。
誰も何も言わない時間が流れて、窓の外からはグラウンドの笛の音が聞こえる。
ミク
(……何この空気)
私は気まずくなって、カケルに話しかけた。
ミク
「そういえば、あんた部活は? 行かなくていいの?」
カケル
「ん? あぁ……まぁな」
わざとらしく天井を見上げながら、カケルが笑う。
ミク
(……『まぁな』って何)
ミク
「確か、演劇部じゃなかったっけ? 練習とかしなくていいの?」
カケル
「あー……。先生にな、『お前は練習しなくても上手いから』とか言われてさ」
ミク
「……そうなんだ」
彼は力なく笑った。
その顔はどこか寂しそうで、なんだか胸の奥がちょっとざわついた。
カケル
「そういえば、お前覚えてるか?」
カケルが話題を変えてくる。
ミク
「……え? 何が……?」
カケル
「俺達が出会った頃だよ!」
ミク
「……あー、あの頃ね」
(忘れるわけがない……)
カケル
「あの頃俺は転校生で、お前によく話しかけてたよな!」
ミク
「……まぁね」
(今も変わらないけど)
カケル
「話しかけても、お前は完全に無視するからな〜! ……ちょっと悲しかった」
得意げに喋っていたのに、急にしゅんとする。
ミク
「……」
(今も変わらないのでは?)
ミク
「……そう」
カケル
「でもな、今ではこうやって喋ってくれるし! ……お前、あの時と変わったな!」
えへへと照れながら笑っている。
ミク
「……」
(あんたは、ちっとも変わってないね)
ミク
『……どうしてそんなふうに笑えるんだろう』
羨ましい――そう思った。
私も、昔は……そうだったから。
彼の声を聞きながら、私は――あの子を思い出す。
――過去の記憶がふと、蘇る
〜回想〜
先生
「では、自己紹介して」
???
「……」
レイ
「レイです。どうぞよろしく」
先生
「皆さん、今日から仲良くしてあげてね」
《パチパチパチ》
ミク
「ねぇ……あの、えっと……みんなとは話さないの?」
レイ
「……」
ミク
「えっと……レイちゃんだっけ?」
レイ
「……」
ミク
「えっと、その……わ、私の名前はミクって言うの! その、よろしくね!」
レイ
「……」
〜朝の登校時〜
ミク
「やっほ〜! レイちゃん、おはよう!」
レイ
「……」
ミク
「今日は天気いいね〜! 青空だし!」
レイ
「……」
ミク
「あ、あとさ! 昨日見たアニメが――」
タッタッタッタッ
ミク
「あっ……」
転校生のレイはクールな女子で、私とは正反対だった。
いつも一人でいて、仲間を作らない。
私は――
そんなあの子が、ほっとけなかった。
〜昼時間〜
ミク
「ねね! 一緒にお昼食べない?」
レイ
「……」
ミク
「レイちゃん、お弁当なんだ! 自分で作るの?」
レイ
「……」
ミク
「私なんてさ、ずっとパンだよ! 弁当作るのめんどくさいから仕方ないけど!」
レイ
「……」
〜下校時間〜
ミク
「ふぁ〜ぁ……なんか眠たいね〜」
レイ
「……」
ミク
「今日の授業さ、難しくなかった?」
レイ
「……」
ミク
「私、全然分からなくてさー! もう眠気が凄かったよ!」
レイ
「……」
こんな事やっても意味がないかもしれない。
……でも。
ミク
「おはよう! レイちゃん!」
レイ
「……おはよう」
ミク
「……えっ」
一瞬、耳を疑った。
でも、確かに聞こえた。
レイの、小さな『おはよう』。
心臓が跳ねる。
その一言を聞いた時の喜びは――
今でもずっと心に残っている。
それから、レイは少しずつだけど私に心を開いてくれた。
ミク
「でさ、眠くて寝ちゃってね〜」
レイ
「いや、なに寝てるの……」
〜昼時間〜
ミク
「一緒に食べよー!」
レイ
「分かったから騒ぐな」
ミク
「レイの弁当って……凄いね! 色々入ってて!」
レイ
「別に、普通でしょ」
レイ
「てか、ミクはまたパンだけなんだ」
ミク
「まぁね〜! ……いい加減飽きたけど」
レイ
「弁当作れば?」
ミク
「時間ないし無理だよ〜! 朝弱いし……」
ミク
「レイは自分で作ってるから凄いよ! その行動力羨ましい!」
レイ
「なにそれ」
レイ
「……お前、それだけじゃ足りないでしょ……。私の少し、食べてもいいよ」
ミク
「え? いいの?」
レイ
「……いいよ」
ミク
「ありがとう! レイ!」
フンっとそっぽを向く彼女。
この子と過ごす時間が、私は好きだった。
ーーつづく
〜レイとミク〜
※イメージイラスト