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「そういえば詩音ちゃんって、どこの幼稚園に通ってるの?」
「あ……えっと、その……少し前まで保育園に通っていたんですけど、今は理由があって辞めてしまって……幼稚園には通わせていないんです」
「え? そうなの?」
「はい……実は近いうちに引っ越しをする予定で……だから幼稚園には引っ越して落ち着いてからと思っていて……」
「まあ……引っ越しちゃうの?」
和葉の言葉に里菜は驚いたように目を見開いた。
「寂しいわ……せっかく仲良くなれたのに……」
「すみません……」
「そんな、謝らないで。和葉さんが悪いわけじゃないんだから」
「……そうですよね」
そう言いながらも和葉は申し訳なさそうに微笑む。
「すみません」
「ふふ……また謝ってる」
里菜は困ったように笑った。
「そうなんですか……お引っ越しを……」
「はい」
「旦那さんのお仕事の都合とか?」
「……はい」
「そう……」
里菜はそれ以上深く聞かなかったけれど何か思うことがあるのか暫く黙ってしまい、二人の間には少しだけ気まずい空気が流れていく。
「引っ越しまで、また会ってくれるかしら?」
里菜がそう尋ねると和葉は嬉しそうに頷いた。
「はい、是非」
「ありがとう。もっと早く出逢えていたらよかったわね」
「そうですね」
二人がそんな会話を交わしていると、ふいに背後から声が聞こえてきた。
「和葉」
聞き覚えのある声に和葉が振り返る。
「湊さん?」
そこに立っていたのは湊だった。
「仕事が早く終わってな」
そう言いながら湊は和葉の隣にいる里菜へ視線を向ける。
「そちらが昨日話してた大内さん?」
「あ、うん。そうなの」
和葉が頷くと湊は里菜へ向き直った。
「初めまして、和葉の夫の湊です」
「初めまして、大内 里菜です……素敵な旦那様でビックリしちゃったわ」
「いえ、そんな」
照れたように笑った湊に里菜も微笑む。
「すみません、お邪魔してしまって」
「いえ、そんなことありませんよ」
和やかに言葉を交わしていると少し離れた場所から弾んだ声が聞こえてきた。
「パパだ!」
湊の姿を見つけた詩音が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「おしごとは?」
「早く終わったから帰ってきたんだよ」
「そうなんだ!? うれしーなぁ!」
詩音は満面の笑みを浮かべると思い出したように千宙と共に歩いて来た卓也へ視線を向けた。
「パパ、たくやくんだよ! きのうおともだちになったの!」
「こんにちは。詩音と友達になってくれてありがとう」
湊が声をかけると卓也は小さく頭を下げた。
「こんにちは……」
けれど恥ずかしさが勝ったのか、すぐに里菜の元へ歩いていきその後ろへ隠れてしまう。
「それじゃあ、今日はもう帰りましょうか」
「え? でも……」
里菜の言葉にどこか名残惜しそうな和葉。
「また今度会ってくださいね和葉さん」
「……はい」
「すみません。気を使わせてしまって」
湊が申し訳なさそうに言うと里菜は首を横に振った。
「いいんですよ。それじゃあ、また」
そして里菜は自分の後ろに隠れている卓也へ声を掛けた。
「卓也も、詩音ちゃんにバイバイして」
「…………しおんちゃん、バイバイ」
「バイバイ、たくやくん」
こうして里菜と卓也は公園を後にした。
二人の姿が見えなくなるまで見送ったあと湊は詩音をひょいと抱き上げる。
「さて、俺たちも帰るか」
「うん!」
腕の中で嬉しそうに笑う詩音を見て、湊は和葉と千宙へ視線を向けた。
「……折角だし、このまま夕飯でも食べに行くか」
「いいの? 折角早く帰れたなら家でゆっくりした方が……」
「良いんだよ、外で食べて帰る方が和葉も楽だろう?」
「……うん」
「あ、それなら俺は帰りますね」
「折角だから千宙も一緒にどうだ?」
「いえいえ、家族団欒の邪魔しちゃ悪いんで。湊さん、また連絡します」
「ああ、ありがとう。また明日頼むよ」
「はい、それじゃあ和葉さん、詩音ちゃん、また」
そう言って千宙も帰って行き、残された和葉たちは三人で夕食を食べに行くことにした。
それからタクシーに乗って和葉が以前から気になっていたという洋食屋へ向かい、そこで夕食を済ませた三人は自宅へ戻ると和葉と詩音は風呂へ向かった。
二人の姿が浴室へ消え扉が閉まると、その気配を確認したところで湊はスマートフォンを取り出して千宙へ電話をかける。
数回の呼び出し音のあと千宙が電話に出た。
『もしもし』
「悪いな。公園でのことを詳しく教えてくれ」
『はい。湊さんに言われた通り小型のレコーダーをベンチの下に置いて和葉さんたちの会話を聞きましたが……やっぱり、探っているような節がありましたね』
「……やはりそうか」
『はい。何気ない世間話もありましたけど、和葉さんのことを細かく聞き出そうとしていたように感じました』
「分かった。今、真宙は側にいるか?」
『あ、はい。ちょっと待ってくださいね』
千宙が電話を繋いだままその場を離れると、少しして真宙が電話に出た。
『お待たせしました。社長に言われた通り大内さんについて調べました』
「それで、どうだった?」
『結論から申し上げますと、直接ではありませんが会長と繋がりがありますね』
「……そうか」
『まだはっきりと分かったわけではないですが、恐らく君嶋のご令嬢を経由しているのではないかと』
「やはりな」
それは湊が予想していた答えだった。
#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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コメント
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第78話「妨害3」、拝読しました! 公園での里菜さんとの会話、最初は穏やかな雰囲気だったのに、引っ越しの話題から少しだけ空気が変わるところがリアルでした。里菜さんがそれ以上詰めずに黙り込む描写に、何か引っかかりを感じさせる巧みさがありますね。 そして湊さんの登場から一気に空気が柔らかくなる流れ、詩音ちゃんの「パパだ!」の元気な声が目に浮かびました。でも最後の千宙・真宙との電話で、里菜さんの本当の目的が見え隠れするところがゾッとしました……。 「普通のママ友」の仮面の下に何が隠されているのか、続きがすごく気になります!