この作品はいかがでしたか?
55
この作品はいかがでしたか?
55
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ネットから振り込んだ金は大森さんの口座に入っているはず、ただ家で大森さんに電話をするのはいやだったのでいつもより早く家を出た。
会社の向かいにあるハンバーガーショップでコーヒーを飲みながら大森さんに電話を掛ける。
「賢也くんおはよう」
「おはよう、振り込みをしたけど確認できた?」
「大丈夫よ、お昼にはあの女の口座に振り込めると思う」
「よかった、二人の為に確実に頼むよ」
「わかったわ明後日は会える?」
「今夜の話し合いによるけど頑張ってみるよ、また昼に連絡するから」
「うん、愛してる」
答えることができず、そのまま通話を切った。
オレが愛してるのは有佳だから・・・・
落ち着かない時間をすごす、大森さんはちゃんと振り込んでくれるだろうか
集中できない為、仕事がなかなか進まない・・・
パソコン画面の右下にある時計のデジタル表示を見つめる。
12:00の表示に変ると同時に席をたった。
社内で話すのは憚られるため、コンビニでおにぎりとお茶を購入して公園に向う。
気がせってしまうが、あまり急かしてしまうと勘ぐられてしまう可能性がある。
40分まで待とう。
何かを待っているときは1分が非常に長く感じる。
やり直すチャンスをもらえたら、もう二度と有佳を裏切ったりしない。
長い時間を過ごしてようやく電話を掛ける。
「賢也くん、振り込みしたよ」
「もし妻が確認していなかったら困るから、振り込み伝票の写真を送ってくれないか」
「わかったわ、スクショしてあるから送るね」
「頼む、じゃあまた連絡する」
「がんばってね賢也」
通話を切るとLINEから通知が入り、確認すると振り込み画面のスクショが送信されていた。
はぁ
安心すると身体中から力が抜ける。
これで、有佳と話ができる。
「振り込みはちゃんとできてると思う」
ダイニングテーブルを挟んで向かい合わせに座っている。
「うん、確認した」
「賢也はどうしても離婚はいやなの?それって、会社での体裁のため?」
「え?」
オレがどれだけ有佳を愛しているのか分っていないのか・・・
「体裁とかそんなことを考えて居ないよ。こんなことをしておいて勝手だとおもうけどオレは有佳が好きなんだ。だからずっと一緒にいたい。慰謝料は払う。だから離婚だけは考え直して欲しい」
有佳は小さなため息をついてゆっくりと話す。
ドラマとかでみる妻が夫の浮気を興奮しながら問い詰めるのとは全く逆で、まるで凪の海のようなゆったりとした話し方だ。
「本当に勝手だね結局、賢也しか得しない話だよね?私のことを好きだとか言ってるけど、それならどうして不倫なんてしていたの」
そう言われても仕方が無い、まったくその通りだ。自分だってどうして不倫なんかしてしまったのか・・・
「本当にごめん」
「もうこの話はいいわ、不毛だもの。離婚はしないということだと、浮気をされたのは私なのに賢也に有利なことだらけ」
さっきから有佳はオレにしか得がないとか有利だとか利益の話ばかりだ、たしかにオレの事ばかりだ
「だから、慰謝料をはらう」
「慰謝料はいらない、その代わり私の提示する条件をのんでくれるのなら離婚は考えます」
有佳はまっすぐにオレの目をみてキッパリと言った。
「慰謝料の200万円の支払い免除と離婚をしない代わりに、今後一切私に触れないこと」
どういうことだ?
「え?」
言葉の出ないオレの前に一通の紙を広げた。
「診断書?」
「妊娠とかじゃなくて、PTSDなの。賢也に触られると吐き気がとまらなくなるのそれで消化器に言っても特に原因がわからず、心療内科でこの病気がわかったの。あなたが他の人を抱いたその手で触られることに猛烈に嫌悪感があるの、それで吐き気がするようになったの、だからこれは守ってもらいます」
そういうことだったのか・・・
あの日も、斉藤が有佳の手をとっていても何でも無かった、オレが変った瞬間に吐き気をもよおしていた。
それ以外にも心当たりがあった。
二人の子供ができれば、今まで通りの生活が保障されるかもしれないと浮かれていた。
オレがそんなバカなことを考えている間も、オレのせいで有佳が苦しんでいたんだ。
浮気に気付いて、大森さんに会いに行き、あんな音声を聞いて
もし有佳が他の男と同じ事をしていたら・・・
どうして、そんなことに気付かなかったのか
オレがいま言える言葉は一つしかない。
「わかりました」
とだけ言うのが精一杯だった。
「でも、セックスが好きな賢也は困るでしょうから、恋愛など異性との付合いはお互い自由とします。それならいいでしょ?他の人と子供を作っても認知してもかまいません」
残酷な事を言う・・・
有佳以外の人の子供・・・・そんなもの考えられない。
でも、これが有佳の提示する条件なら受けるしか無い
「了承します」と、なんとか答えることができた。
有佳に「では誓約書にサインをしてください。」と冷たく言い放たれた。
誓約書にサインをした後は、何もしたくなくてベッドに横になった。
食事もできそうに無い。
何もしたくない、何も食べられなかった。
どんなに最悪なことがあっても夜は明けて朝が来る。
重い身体を引きずるようにリビングに向うと、キッチンでは有佳が朝食の準備をしていた。
オレが起きてきたことに気がつくと、振り向いて「おはよう」と変らぬ笑顔で挨拶をする。
有佳に触れることはできなくても、いつもの朝が来るんだ。
いつか、有佳が許してくれて昔のようにふれあえる日までゆっくりと信頼を取り戻していくしか無い。
有佳はいつものように朝食を用意してくれるんだから。
朝から大森さんからしつこく着信があった。
家を出て会社近くの公園に行き何十回めの着信で電話にでる。
「賢也くん、どうだった?大丈夫だった?心配で眠れなかった」
「無事に済んだよ。あの100万は手切れ金だから。もう二度とオレに関わらないでくれ」
そう伝えると電話もLINEもすべてブロックした。
終わった。
営業部に乗り込んでくるんじゃ無いかと不安ではあったが、さすがにそこまではしてこなかった。
このまま、すこしづつ有佳との関係も修復していけるんじゃないかと思っていた。