テラーノベル
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「寝よ……」
よっぽど疲れてたのか、わたしはすぐに眠りに落ちた。
「……」
ん? ここどこ? これって……夢?
どこかの森。目の前には川が流れている。雰囲気からして夏?
川の前ではわたしと同じ年齢くらいの子供達が騒いでる。
「たすけないと!」
「どうやって!」
「しらない! とにかく助けないと!」
「大人たちを呼ぼう!」
「誰か呼んで来いよ!」
川を見ると女の子が溺れてる。
助けてあげないと!
「……」
……なに、この感じ?
わたしの側にいる女の子から凄い威圧感を感じる。
(怖い、あっちゃんが死んじゃう。怖い、川の流れが……)
これって、この子の考えてること? 感情?
溺れている友達を凄い大切に思っていて、友達を殺そうとしてる川に対する恐怖が伝わってくる。
(……止まっちゃえばいいのに。川の流れが止まればあっちゃんを助けられる……)
友達を助けるために川の流れを止めようと考えてるみたいだ。
……どうやって? 川だよ? 人力でどうこう出来るものじゃないよ?
(全部……凍っちゃえばいいのに……)
はぁ!? 全部凍っちゃえ!?
……これって魔術のイメージ? でも、このイメージって危なくない? 全部凍っちゃえって、ホントに全部をイメージしてるよ。川もそうだけど、森とか人も周囲のもの全部だ……。
ちょっと、ストッ……。
「……凍って」
女の子がつぶやいた瞬間、物凄い魔力が周囲に走る。
わたしは思わず目を閉じてしまった。
これってシズカさんの魔力を軽く超えてるよ!?
目を開けると、女の子のイメージ通りの世界が広がっていた。
……氷の世界。
川は凍り付き、地面や木も真っ白になってる。周囲には冬の凄く寒い時期に見られる雪の結晶が舞っていて凄く幻想的だ。
……怖すぎ。魔力とイメージ次第でこんなことも出来るの? 軽く天変地異レベルだよ……。あ、溺れてた女の子は!?
……あれって生きてるの?
見ると、溺れてた子だけじゃなく、周りで騒いでた子供たちも白くなって動かなくなってる。
まずくない? 早く助けないと……。
「……あっちゃんを、助けなきゃ……」
魔術を発動した女の子は溺れた女の子しか目に入ってないのか、凍った川を渡って助けに行った。
……いや! 溺れてた子もそうだけど周りも大惨事だよ!
女の子は溺れてた友達を川から引き上げて話しかけてる。
「……あっちゃん、大丈夫? 無事でよかった」
「おい! 何事だこれは!」
大人達と呼びに行った子供が一緒にやってきて女の子と何かもめてるみたい。
……そりゃそうだよね、辺り一帯大惨事だもん。
「チッ、この子も冷え切ってる! 誰かこの子も温めてくれ!」
そうだよ、早く温めてあげないと危ないよ。
(あっちゃんが冷え切ってる? 温めてあげなきゃ……)
また女の子の考えが伝わってくる。
……ちょっと待って。温めてあげなきゃって、そのイメージだと過剰過ぎない?
女の子がイメージしてるのは真夏や砂漠を超えるありえない熱波だ。わたしの砂漠の風と比べものにならない。そんな熱波じゃ、人は数分で干からびると思う。
ちょっと、ストッ……。
「……温まって」
先程と同じ、ありえない量の魔力が周囲に走る。
「なんだこりゃあ! 魔術か!?」
「あっちいぃー! なんだよこりゃ!」
……まあ、そうなるよね。だってありえない熱波だもん。よくあんな物騒なイメージが出来るなと感心するほどだ。でも、それだけ友達を大切に思ってるってことだよね。
氷の世界の時もそうだけど、きっと必死なんだと思う。わたしも、さっちゃんが同じ目に合ったら、きっと頭が真っ白になって暴走すると思う。
「おい、ガキ! 魔術をやめろ!」
怒鳴られた女の子が呆然としてる。
……もしかして、自分がやった魔術のことを分かってない?
「おい! やめろって言ってるだろ!」
「キャッ!」
言うことを聞かない子供に苛立ったのか、大人の一人が女の子を思いっきりビンタした。
ちょっ! それはやり過ぎだよ! 子供相手に何やってんの!?
……ん? 女の子も物騒なことを考えてるよ。
(この人たちは、危険な人達だ……あっちゃんを守らなきゃ……)
大人達を遠ざけようと考えていて、空気を固めて思いっきり叩きつけるイメージをしてる。
……そんなことしたら吹き飛ばすことにならない? 大怪我しそうだよ?
「……離れて」
案の定、大人達は思いっきり吹き飛んだ。木にぶつかった人はうめき声をあげてる。
……また大惨事だよ! この子、魔術のイメージが大雑把で危険すぎる! 少し冷静になろうよ!
(……よかった、あっちゃんを守れた)
……そっか、この子は友達を守ろうと必死なだけだった。
悪意なんてこれっぽちもない、ただ友達が大切なだけ。わたしとさっちゃんと同じなんだよね。
「……あっちゃん、もう大丈夫だよ」
「ヒッ! た、助けて! 何もしないでぇー!」
「え?」
え?
助けられた友達が泣きながら震えてるよ。まるで、これから殺されるかのような、そんな怯えた目だ。女の子から離れようと、四つん這いで必死で逃げてる。
呆然と見てると、女の子の複雑な感情が伝わってきた。
……うわ!? なにこれ!? すごく気持ち悪い!!!
動揺や絶望、そういった感情が全部混ざってグチャグチャになった感じだ。
(なんで? なんで? なんで? ……。 ……。 ……)
「うがぁーーー!」
はあ、はあ、はあ……。
なんか物すごい夢を見た。なにあれ? リアルすぎてもの凄く怖い。
正夢……とかじゃないよね?
登場人物はみんな知らない人だし、風景だって見たことがない。
昨日、魔術を使い過ぎたせいで魔術関連の変な夢を見たとか?
友達がすごく大切とかわたしみたいだし、少しは共通点がある。
「でも、最後のあれ……」
すごく大切な友達から向けられた怯えた目。
そして、その大切な友達から泣きながら逃げられる……。
……うう、気持ち悪い。
あの子の気持ちはすごくわかる。わたしだって、さっちゃんにあんな態度を取られたらああなる可能性は高い。いや、わたしの場合は抱きつきながら「いかないでー、ゴメーン!」とかひたすら謝るかな? さっちゃんなら、きっと許してくれるよね……。
「……いま何時……」
お母さんが起しに来てないってことは、ノルマの時間まではまだ時間があるはずだ。
「4時……」
早すぎるよ! あと1時間は寝ていられた!
どうしよう、二度寝したら間違いなく寝過ごすよね。そしてお母さんに叩き起こされる。
……少し早いけど、ランニングの準備をしよう。
リビングに行くとお母さんがいた。
「あら、ずいぶん早いのね。5時じゃなかった?」
「ちょっと早く目が覚めたから……」
夢のせいで、とか言う必要はないよね。言ってもバカにされるだけだ。
「お母さんも早いんだね。トイレとか?」
「お母さんはいつもこの時間には起きてるわよ」
「へー、そうなんだ、凄いね」
「ご飯作ったりとか色々あるからね」
主婦ってのは大変なんだね。こんなに早くから起きて家事をしないとダメだなんて。
……わたしも、将来こうなるのかな?
「もうランニングに行くの?」
「うん」
「そう」
顔を洗ってスポーツウェアに着替える。
これから毎日これを着るのか……。
まずい、鏡に写った自分の姿を見るとお姉ちゃんへの怒りが出て来た。さっさと行こう。
「じゃあ、行ってきまーす」
「はい、気を付けてね」
外に出ると物凄い朝の空気だった。
「すごいねー、これが人のいない朝の空気かー」
少し体操をして身体を温める。
すごく健康体になった気分だ。
「よし! じゃあ、いくよー!」
1kmくらい走った。辛い、ものすごく辛い……。
日中の体育の時間ならともかく、寝起きの状態でのランニングは正気じゃないと思う……。
「はあ、はあ、はあ……なんで、こんなに朝早くから走ってるんだろう。帰ろうかな……」
「あれ? アリアちゃん?」
「へ?」
この、心の底から安心する声は……。
「さっちゃん!!」
わたしの心のオアシス、大切な親友のさっちゃんだ!
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