緊張して眠れなかったりはしたものの、無事に2日目の朝を迎えることができた。
夜のうちは特に変わったことも無く、平穏そのものだったそうだ。
私が朝食の準備をするためにテントを出ると、ルークも同じくらいに起きてきて、いろいろと手伝ってくれた。
あんまり手伝ってもらうのも悪いから、途中からは座ってもらっていたけどね。
四人で朝食を済ませて、今日は2階から探索することに。
1階は特に目ぼしいものも手に入らなかったし、2階からの成果に期待することにしよう。
ヒュォオオオオ……
2階に着くと、風の音が耳に付いた。
風の流れがあって、1階よりも少しだけ涼しい気がする。
「……風が、少し強いですね」
「はい、このダンジョンは風や水が常に巡っているのが特徴なんです。
1階はそうでも無いのですが、ここからはいろいろ循環してきますよ!」
いろいろ循環、って……何だか分かりやすいような、分かりにくいような。
風以外の違いといえば、壁の色や雰囲気は1階と同じものの、水滴が上から落ちてくる……くらいかな?
水滴が作った水溜りもあって、とても澄んだように見える。見ていて気持ちが良くなる透明度だ。
「水は綺麗そうですけど、濡れると風邪を引いてしまうかもしれません。
気を付けていきましょう」
「そういえば他の冒険者の話によると、階ごとに出る魔物も違うらしいですよ。
アイナ様もお気を付けください」
「他の冒険者、って?」
「夜番の途中で、声を掛けてくださった方がいるんです。
このダンジョンにはよく来ているそうで。サークルの勧誘も受けましたよ」
「……サークルの勧誘?」
「このダンジョンの愛好会らしいです。
情報を交換しながら、いつかは最深部を踏破したいと言っていました」
「へぇ、そういうのもあるんだ」
「もちろんお断りしましたが、それでもいろいろな情報を教えて頂きました。
私が起きた時には、もう先に行ってしまっていたようですが」
「でも、それは助かるね。
どこかで会ったら、お礼にお料理のお裾分けでもしようかな」
「料理と言えば、アイナ様のこともお話していましたね。こんなところで料理を作るなんて何者だ、と。
ここで作ったわけではないのですが、あまり情報を渡す必要も無いので笑って誤魔化しておきました」
確かにアイテムボックスがなんたら……とか言う必要は無いもんね。
必要が出たら、言えば良いだけだし。
「寝ている間にそんなことがあったんだね。
それじゃ、ひとまずは頂いた情報に感謝しながら進みますか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――魔物発見!
えーっと、ここは私の出番かな?」
ダンジョンを進んでいると、天井にぶら下がっているコウモリをリーゼさんが見つけた。
ただのコウモリにしてはヨダレを垂らしていて凶暴そうだし、恐らくは魔物なのだろう。
「わたしのシルバー・ブレッドでも攻撃はできそうですけど、天井を変に崩してしまいそうですね……」
「それじゃ私が弓矢で攻撃するから、エミリアさんは宙に逃げたところをお願い。
ルークさんは二人を護ってあげて」
「はい!」
「分かりました」
「えーっと、私は……応援してますね」
私の戦闘スタイルは、基本的に見守るだけ。
さぁ、みんながんばれー!!
改めて確認すると、コウモリの魔物は全部で10匹ほど。
リーゼさんの最初に撃った攻撃で1匹は倒したものの、それを見た他の魔物たちは一斉にリーゼさんに襲い掛かった。
しかし天井から離れてしまえばエミリアさんの攻撃が加わるわけで――
……そのまま二人の攻撃が宙を走り、次々と魔物を撃ち落としていく。
地面に落ちたあと、最後の力で襲い掛かってきた魔物はルークがあっさりと止めを刺していた。
戦闘はそんな感じで問題なく終了。
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様。うん、今日の最初の戦いとしては、ちょうど良かったんじゃないかな。
三人ともそれなりに動けたし、身体も少しは温まったし」
私的には結構動いていたように見えたけど、みんなにとっては準備運動くらいだったようだ。
「さて、それじゃ何かドロップはあったかな?」
消えゆく魔物を見据えながら鑑定スキルを使うと――
──────────────────
【斬撃の魔石(小)】
斬撃の攻撃力が1%増加する
──────────────────
「お、魔石がひとつありました。『斬撃の魔石(小)』……ですか、どこかで見たような」
「それは良くお店に売ってるやつですね。
スロットが空いてるなら、ルークさんが使っても良いかも?」
「そうですね。最後に配分しなきゃいけないし、そのときに決めましょう」
「了解。それじゃどんどん進みましょ」
リーゼさんは今回のドロップにあまり興味を示さず、先の道を促した。
狙いは大物、もっと凄いものが出てくれれば良いんだけどね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後はコウモリの魔物を倒しながら、新たに登場した蛇の魔物も倒しながら先を進む。
戦いを順調にこなし、ドロップもほどほどに拾っていく。細かい宝石とか、お店で見かけるような魔石ばかりだったけど――
「……とかやってたら、もう3階の階段ですよ」
「時間が経つのは早いね。
それじゃここで昼食をとって、午後は3階を進むことにする?」
少し戻れば調べていない場所もありそうだけど、階を下りるほど良いアイテムが手に入るかもしれないし……ここはさっさと3階に進むことにしよう。
「そうですね、それでは昼食にしましょう。
三人は休憩していてください」
「いやいや、わたしは手伝いますよ!」
「ありがとうございます。それじゃ、お願いしますね」
「アイナ様、私も何か手伝います」
「ええ? みんなに手伝ってもらったら、私が夜番を免除されている意味が分からなくなるけど……」
「まぁまぁ、良いじゃない。それじゃ私も手伝うよ」
「ぬあー!?」
最終的に、食事の準備は四人ですることになってしまった。
あれ? それじゃ私も、夜番に加わった方が良いんじゃないかな……?
食事と後片付けを済ませた頃、他の冒険者のパーティがやってきた。
どうやらルークが今朝話していた、このダンジョンの愛好会の面々らしい。
そのうちの一人がこちらに気付いて声を掛けてきた。
「ルークさん、また会いましたね!」
「昨晩はありがとうございました。
朝はもういなかったので、どんどん先に進んでいるかと思ったのですが」
「2階は2階でいろいろありますからね。
ほら、見てくださいよ。ついに『迷踏の魔石(中)』を見つけたんですよ!」
その冒険者はそう言いながら、嬉しそうに1つの魔石を見せてくれた。
それを自身の武器の魔石スロットに入れて、一歩だけ地面を踏みしめると――
ぷぎゅぅ♪
……なんだかご機嫌な音がした。
小だと『ぷぎゅ』で、中だと『ぷぎゅぅ♪』になるんだね。かなりどうでもいい情報だ。
それにしても――
「こんな浅い階層で、中の魔石が出るんですね?」
「そうなんですよ、統計によれば『迷踏の魔石』だけのようなんですが……。
ああ、アイナさんもこんにちは」
あれ、何で私の名前を……?
……いや。思い返せば昨晩、他のパーティに挨拶したときに会ったような気がする。
「こんにちは。……バーナビーさん、でしたよね」
「おお、覚えていてくださるとは!
昨晩は話し掛ける機会が無かったんですけど、遠くからあなたのダンジョン力を拝見させて頂きました!」
ダンジョンりょく……? もしかして、食事の話かな?
「ど、どうも……?」
「はい! おそらくは同じペースで進むことになると思うので、次はダンジョンについて語り合いましょう!」
「はぁ……。
えぇっと、バーナビーさんたちはこのダンジョンの愛好会……なんでしたっけ?」
「おっと、ルークさんから聞きましたか。
はい、私たちの愛好会は――」
「ちょっとちょっとリーダー! それは夜にしてさ、今はご飯~!!」
「早くしないと3階の時間が無くなるぞ!」
「……それに、そちらさんにも迷惑……」
バーナビーさんの話が長くなりそうになった瞬間、向こうのパーティの面々がツッコミを入れ始めた。
「おっと、すまない!
それじゃアイナさん、続きはまた夜にでも!」
「そ、そうですね? それでは、また改めて……」
「はい、アイナさんたちはお先にどうぞ!」
バーナビーさんたちが休憩する横で、私たちはひと休みしてから3階に進むことにした。
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