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『循環の迷宮』探索の2日目、午後は3階からスタート!
階段を下りて3階にやってきた私たちの目に入ってきたのは、川だった。
川と言っても、用水路や小川くらいの大きさかな?
「1階は池が何か所かあって、2階は水滴が滴ってきていましたが……今回は川ですか」
「風は、2階ほどは吹いていないようですね。
上から水滴が落ちてくることもなさそうですし、2階よりも過ごしやすそうです」
「確かに。川から魔物が現れない限り、濡れることは無さそうですよね」
そう言いながら川を覗きこむと、何やら怪しい影が見えた。
「……おっと、中に何かいるみたい」
「アイナ様、この階にはカエルの魔物がいるそうですよ」
「むむ、攻撃を受けたら濡れちゃうね」
「今まで通りに戦えば、濡れることは無さそうだけどね。
……ルークさん以外は」
リーゼさんは、ルークをちらっと見ながら言う。
エミリアさんとリーゼさんは遠距離から攻撃ができるし、私はそもそも戦っていない。
それなら、濡れる可能性があるのはルークくらいか。
「私は濡れるくらい大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ルークさんがまともに攻撃を受けたのはまだ見たことが無いし、それにまだ3階だから大丈夫でしょ」
……まぁ、確かに。
そもそもルークがまともに攻撃を受けたことって、今までにあったっけ?
強いて言えば魔物ではないけど、『疫病のダンジョン・コア』くらいなものだよね。
「それでは進みましょう。
アイナ様、そこに見えた魔物はどうしますか?」
「せっかくだし倒していこうか。えぇっと……ここはエミリアさん?」
水中に潜む敵に、こちらから攻撃を仕掛けるのだ。
ルークの剣も、リーゼさんの矢も、あんまり水に浸けない方が良いよね?
それならエミリアさんの魔法かな……って。
「はぁい。いきますよー、シルバー・ブレッド――」
「「あ」」
「え?」
ザパアアアアンッ……!!
エミリアさんの魔法が川に撃ち込まれると、水を叩くような大きな音が周囲に響き渡った。
そして川の水は宙を舞い、風に流されて雨のように周囲に降り注ぐ。
……おかげで全員、かなり濡れてしまった。
「ふぇ……?」
エミリアさんは困った顔で、私を見つめてくる。
「……こ、これは?」
「あの魔法さ、案外当たる面積が大きいんだよね。
だからこう……水面を手のひらで思い切り叩く感じになっちゃうっていうか」
「あー……、それは水が飛び散りますねぇ……」
「わたしも、水の中に魔法を撃ち込むなんて初めてでしたから……。
でもまたひとつ、賢くなりました!」
「すいません。濡れないで進めるところ、最初からやらかしてしまいまして……」
明らかな作戦ミス。
色々と考えず、ルークなりリーゼさんにお願いすれば良かった……。
「ま、こんなことはよくあるさ。
とは言えこのまま行くのも気持ち悪いから、少し乾かしていかない?」
リーゼさんの提案で、急きょ焚き火を起こして服を乾かすことになった。
その間にバーナビーさんのパーティがやってきて少し気まずかったけど、そこは空気を察してさっさと先に進んでくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、気を取り直してダンジョン内を進む。
カエルの魔物とオタマジャクシの魔物を倒していると、川の中に宝箱が沈んでいるのを見つけた。
「……沈んでますね」
「沈んでますねぇ……」
「沈んでます」
「沈んでるけどさ、それって全員で言うこと?」
リーゼさんからツッコミをもらったが、結局彼女も言っているのでおあいこだ。
「それじゃ、まずは罠を調べましょうか」
そういえば、2階では宝箱は無かったからね。
これが今日最初の宝箱になるわけだ。
それじゃ、かんてーっ。
──────────────────
【宝箱の罠】
水爆発
──────────────────
「……みずばくはつ」
なにそれ?
罠の効果をかんてーっ
──────────────────
【水爆発】
強力な水柱と水飛沫を上げる
──────────────────
……はぁ。
これはダメージを与えるというか、相手を濡らすだけの嫌がらせかな?
いや、濡れたままにしておくと体温が奪われるし、そういった罠……なのだろう。
「でもそもそも、川に沈んでいるわけですよね?
そこに行くまでに濡れるわけだから、あまり効果のある罠でも無さそうな……」
「川に入らない人が油断していなければ、そうですねぇ……」
ああ、水飛沫が思い切り上がったら、川に入らなくても濡れてしまうか。
とすると今回は、先ほどの教訓を活かして濡れなくて済むかもしれないから……さっき濡れたのは無駄じゃなかったんだね!
「それではここは、私がいきましょう」
名乗りを上げたのはルークだった。
水着とかがあれば私がいっても良いんだけど、残念ながら持っていないし。ここは素直にお任せしよう。
「ごめんね、お願いできる?」
「はい。ではできるだけ脱いでいきますので、魔物が現れたら援護をお願いします」
……
……
ズバパアアアアンッ!!
ザ――――ッ
ルークが川に入って宝箱を開けた途端、そこを中心に巨大な水柱と水飛沫が上がった。
それは見事なまでの水柱で、頂点に達した水たちはゆっくりと水滴となって雨のように降ってくる。
「……うわぁ、凄い。ルークは無事?」
雨を避けるようにして、私たちは少し離れた壁の影に隠れていた。
遠くに見えるルークはさすがに軽く吹き飛ばされていたが、特に怪我は無いようだった。
魔物の姿も特に見えないし、問題ないかな。
しばらくするとルークは宝箱の中に手を入れて、そしてこちらに戻ってきた。
「凄い水柱でした」
「ここから見てても凄かったからね……。痛くなかった?」
「水圧に負けて転んでしまいましたが、大丈夫です。
分かっていれば、結構面白かったですよ」
ルークはそう言いながら、小さな石を1つ渡してくれた。
私はそれを受け取りながらタオルを渡す。
「うん、ありがとう。冷えないうちに拭いちゃって!」
「はい、ありがとうございます」
「それで、この石は何でしょう? 宝石とは少し違うみたいですけど」
それじゃ早速、かんてーっ。
──────────────────
【水の封晶石】
水の力を増幅させる結晶体。高度な製造で使用する
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「――おっと、封晶石だ」
封晶石と言えば、以前ジェラードがミスリルを手に入れたときに『光の封晶石』をもらってきたことがあったよね。
今回は水だから、2属性目ということになる。
「へぇ、2階でも貴重なものが手に入るんだね。
私は使わないけど、その石は結構な値段で売れるよ」
「売るなら私が買い取りたいですね。まぁ、それも最後にしましょう」
「了解。さて、それじゃ先に進もうか」
リーゼさんは封晶石にもあまり興味を示さなかった。
どれくらいのものなら喜んでくれるんだろう? ……何となく、そんな興味が湧いてきてしまった。
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