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“ お 前 な ん か “
#1
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昼休み。
僕の机の上には、いつも通りパンと牛乳が置いてある。
ただひとつ違うのは——向かいに座る人。
「ねぇ、君それで足りる?」
「うん」
「ほんと?これあげよっか」
そう言って、彼は自分のデザートをぽんと置いた。
「いらない」
「えー遠慮すんなって」
「遠慮じゃない」
僕は淡々と答える。
「僕、もともと誰かと食べるの好きじゃないし」
その言葉に、彼は一瞬だけ目を細めた。
「……そっか」
軽く返す。でも、どこか探るような視線。
教室の端では、誰かが小さな声で話している。
「あの子さ、前七希くんと付き合ってたよね」
「うん。でも最近秋仁先輩と一緒に帰ってるらしいよ」
「え、まじで?乗り換えじゃん笑」
ひそひそ声。
僕は聞こえていないふりをした。
(……どうでもいい)
そう思おうとする。
でも、頭の奥に残っている。
——笑っていた顔。
——「もう無理」って言われた時の声。
(重いんだってさ)
自分では普通だったのに。
ちゃんと大事にしてただけなのに。
それなのに
「 ねえ 」
彼の声で、思考が途切れる。
「今日、放課後ヒマ?」
「別に」
「じゃあ帰ろ」
「……いいよ」
短いやりとり。
それだけなのに、彼は少し嬉しそうに笑う。
⸻
帰り道。
「さっきの話、聞こえてた?」
「どれ」
「元カノのやつ」
僕は少しだけ黙ってから答えた。
「聞こえてた」
「そっか」
「……別に、どうでもいい」
嘘だった。
でも彼は、それ以上は聞かない。
代わりに、ぽつりと言う。
「俺、あの子に告白されたんだよね」
足が止まる。
「……は?」
初めて、僕の声に温度が乗った気がする。
「最初は断ろうと思ってたけどさ」
「……」
「なんか必死でさ。君の話もしてた」
静かに、でも確実に、言葉を選びながら続ける。
「“優しいけど怖い”って」
その一言で、空気が固まる。
僕の手が、じわっと握られる。
「……それで?」
「付き合ってみた」
あっさりとした言い方。
まるで大したことじゃないみたいに。
でも。
「すぐ別れたけどね」
「……なんで」
「んー」
彼は少し考えるふりをして、笑った。
「やっぱり、いらないなって思って」
その言葉に、僕の中で何かがざらつく。
(いらない?)
(僕の隣にいたやつを?)
「……奪ったくせに」
ぽつりと漏れる。
彼は聞き逃さなかった。
「奪った?」
「僕のだったのに」
振り向いた僕の目は、静かに濁っていたらしい 。
「僕の一番近くにいたのに」
責めるでも、怒鳴るでもない。
ただ、事実みたいに言う。
彼はその目を、まっすぐ受け止める。
「うん、知ってる」
「……」
「だからだよ」
一歩、距離を詰める。
「一番近いの、そこだったから」
その言葉の意味を、僕は理解しきれない。
ただ——
「……最低」
そう吐き捨てる。
彼は、少しだけ笑った。
「そうかもね」
否定しない。
それが余計に、濮の中に残る。
⸻
それでも。
次の日も、その次の日も。
彼は変わらず隣にいる。
「ねえ 、これノート写した?」
「まだ」
「じゃあ貸してあげる」
「……ありがと」
「お、素直」
「別に」
軽い会話。
何も変わらない日常。
でも、少しずつ。
ほんの少しずつ。
「 ねえ 、今日寒くない?」
「普通」
「手、冷た」
そう言って、当たり前みたいに手を取る。
「……離して」
「やだ」
「なんで」
「そのほうがあったかいじゃん」
意味のわからない理由。
でも、強くは握らない。
逃げようと思えば逃げられるくらいの力。
——なのに。
(……離せない)
僕は気づく。
自分が、拒みきれていないことに。
(嫌いなのに)
(こいつ、最低なのに)
それでも。
「 ねぇ 」
「なに」
「俺さ」
少しだけ真面目な声。
「たぶん、けっこう好きだよ」
また、あっさり言う。
でも前より重い。
「……は?」
「君のこと」
「意味わかんない」
「いいよ、わかんなくて」
そう言って、彼は笑う。
「そのうち分かるよ」
その言葉が、妙に引っかかる。
⸻
帰り道。
隣を歩く距離が、前より近い。
触れてもおかしくないくらい。
(……なんで)
僕は思う。
(なんで、こいつなんだろ)
奪われて、壊されて、嫌いなはずなのに。
なのに——
「……ねえ 、 先輩 」
「ん?」
「なんでそんな普通なの」
「普通?」
「俺に嫌われてるのに」
彼は少しだけ考えてから、笑った。
「だってさ」
「?」
「嫌いなら、一緒に帰らないでしょ」
「……」
言い返せない。
その沈黙を見て、彼は少しだけ優しくなる。
「大丈夫だよ」
「何が」
「ちゃんと好きにさせるから」
冗談みたいな言い方。
でも、逃がす気は一切ない目。
僕はそれを見て
なぜか、少しだけ目を逸らした。
(……ほんとに)
(意味わかんない)
でもその胸の奥で、
“嫌い”じゃ説明できない何かが、ゆっくり広がり始めていた。
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連載ふえた
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コメント
1件
原作忠実に再現できてて凄い…✨ めちゃおもろいんてすけど、