テラーノベル
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困惑する私を見て、継母は歪んだ笑みを浮かべる。
「無能なお前の血が混ざれば、ロックハート家の次代は能力が下がるでしょ」
愉快だといわんばかりの声に、背筋が凍っていく。
私の子となれば、光を灯すことも出来ない憐れな子が生まれるかもしれない。それを企てようっていうのね。
でも待って。ロックハート家も由緒正しい魔術師の家系よ。その血を濃く受け継ぐかもしれないじゃない──って、そもそも、なんで結婚を通り越して子を成す話になっているの。確かに、結婚となれば、そういうことだろうけど。
ヴィンセント様は女嫌いって噂もあるわ。つまり、夜を共にすることがないかもしれない。
それにヴィンセント様は、魔術師団の長を務める方よ。私が魔法を使えないなんて、すぐ気付くわ。知られたら最後、離縁されるに決まっている。
恋愛小説すら読む暇がない日々を送ってきた私にとって、結婚と出産の文字は未知のもの。それでも、枕を共にすることが簡単でないことくらい分かる。政略結婚ともなれば、なおさらだわ。婚約前に魔力量を調べられたなんて話もあるらしいし。
魔法が使えない令嬢が求められるわけがないのよ!
奥歯を噛み締めながら、じっと継母の話を聞いていると、再び、お腹のあたりを扇子で叩かれた。今度は少し強く。
鈍い振動が、身体の奥に響く。
「無能な子を産むのよ。それがお前の役目」
「……役目とは、どういうことですか?」
「次男の婚約者は病に臥せっている。三男はまだ婚約を結んでいない……これで、無能な次代が生まれたら、ちょっとした騒動になるでしょ?」
ああ、やはりそういうことね。
私を騒動の種にして、継母、あるいはペンロド公爵夫人が何かを仕掛けようとしているのだろう。夫人はずいぶん昔からロックハート侯爵様を目の敵にしていると聞いたこともあるし、私のことは所詮捨て駒と思っているだろうから……。
継母の話がうっすらと見えてきて、背筋がいっそう冷えるのを感じた。
赤い唇がつり上がる。悪女と呼ぶに相応しい醜悪な顔だ。その手袋に隠れた指先も、きっと赤い唇と同じように染まっているのだろう。
扇子の端が、私の顎をくっと持ち上げた。
「ペンロド公爵夫人のためよ。無能なお前も、顔と体は良いのだから、女の武器を使ってロックハートの長男を骨抜きにしてきなさい」
「……わっ、私なんか、きっとすぐに離縁されます!」
「ふんっ。離縁されたら、お前は修道院行きよ。二度と、この家に踏み入ることが出来ないようにしてあげる」
修道院──そんなことになったら、セドリックのために何も出来なくなってしまう。
嫁いだ方が、まだ、外からレドモンド家を援助することだって可能だ。家同士の交流を理由に、この屋敷へ足を運ぶこともできる。でも、修道院に送られたら、待っているのは祈りの日々。新たに嫁の貰い手が見つからなければ、外との交流はなくなってしまう。
「無能なお前に、嫁ぎ先が見つかったのだから喜びなさい」
継母は高笑いしながら私に背を向け、部屋から出ていった。
不快な声が遠ざかり、その場で棒立ちになっていた私は膝から崩れ落ちた。
「ヴェルヘルミーナ様、お気を確かに」
控えていたダリアの声と、背中に添えられた手の温かさを感じて、辛うじて意識を保った。
どうしよう。私には嫁ぐしか道がなさそうだ。このままでは、継母に家をいいように扱われてしまう。 セドリックの為に、私が出来ることを考えなくては……。
混乱する私の耳元にダリアがそっと耳打ちをしてきた。
「侯爵様にお力添えを願いましょう。全てお話しするのです」
「えっ……でも、それは……」
「他に手はありません。早急に、ロックハート侯爵様とお会いしましょう」
ダリアの真摯な眼差しに促された私は、頷く以外に答えを見いだせなかった。
コメント
1件
あー、継母の歪み方がエグすぎて読んでてムカムカしたわ…!💢 「無能な子を産むのが役目」って、捨て駒宣言にも程があるよね。でもヴェルヘルミーナ、ちゃんとヴィンセント様の女嫌いとか魔術師団長の立場とか考えてるし、ダリアの「侯爵様にお力添えを」に頷くシーンでやっと動き出す感じ、すごくよかった。交渉がどう転ぶかめっちゃ気になる!次話も読むわ🔥
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