テラーノベル
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継母の持ち込んだ縁談騒動から一か月後。私は馬車に揺られていた。
今日までの日々を思い返すと、疲れがどっと押し寄せてくる。
あの日、私は早々にロックハート侯爵家へ書状を出した。継母と交わした王都での会話は、単なる社交辞令という可能性もある。そうであってくれと願いながら待った返事には、一度お茶会をしましょうと書かれ、日時と場所が指定されていた。
お茶会の場は、ロックハート領の東に位置するメートランド地方で一番栄える地方都市リリアード。レドモンド家の領地からは、馬車で三日ほどの場所になる。そこに、ロックハート侯爵家の別宅がある。
ロックハート侯爵の居城があるシェルオーブに赴くよりはまだ近い。あそこだと、レドモンド領からは馬車で十日もかかる。とはいえ、馬車で三日のリリアードも十分に距離があるし、お茶会の流れによっては滞在が伸びるだろう。
お父様が勤めていた魔術師第五師団の砦から近いこともあり、最初の面談には丁度いだろうと、ロックハート侯爵様が決められたのだが……。
そのまま婚約という流れだって可能性がなくはないのよね。
いろいろ考慮すると、溜息をつかずにはいられない。
「ヴェルヘルミーナ様、ご気分が優れないようですね」
「……色々考えたら、あの人が嬉々として縁談を進めようとした下心が見えてくるわ」
「と、申しますと?」
「ペンロド公爵夫人のためというのは建前ね。レドモンド家の財産を管理していた私がいなくなれば、好き放題できると思ったんじゃないかしら」
「お屋敷のことでしたら、ご心配には及びません。私の両親が中心となって政務も取り仕切れるよう態勢を整えました」
「えぇ、ダリアのご両親のことは信じているの。でも、それだけじゃなくて……」
馬車の窓から見える荒涼とした丘は、どこまでも続いている。赤紫色をしたヒースの花が風に揺れる姿は、まるで、私のざわめく心を現しているようだ。
「どうして、私なのかしら? 社交界に一度も出ていないのよ。顔だって知られてないわよ」
「何か訳があるのかもしれません。ですが、こちらとしては渡りに船ですよ」
「そうかしら……いくら、我が家から第三王子妃を出したとはいえ、ペンロド公爵家の家門に変わりはないのよ。火種になるんじゃない?」
「諸侯の中でも、ミルドレッド様の評判は上々です。ロックハート侯爵様だけでなく、フォスター公爵夫人との交流も持たれているとお聞きしました」
さらに、ペンロド公爵家に連なる良家の婦人とも交流まで持ち、その評判も悪くない。お姉様の立場はまるで二つの公爵家を橋渡しするようで、対立する第一王子と第二王子の緩衝材にまでなっているとか。それと夫婦円満で、第三王子の溺愛ぶりがすごいともっぱらの噂だったりむする。
社交界に出ていない私のところにも届くくらいだし、お姉様の評判は素晴らしいの一言に尽きるわ。
#溺愛
高瀬船
934
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
502
「だからこそ、私が汚点を作るわけにはいかないのよ」
「ヴェルヘルミーナ様……」
そう、お姉様は魔術アカデミーでも常に上位の成績を修め、同時に家の政務も行っていた。王城で王子妃として、しっかり役目を果たせるだけの実力を持っているのは、わかりきっていた。私には同じことなんて無理だろうけど、せめて、お姉様の邪魔になってはいけないのよ。
「……私も役目を果たさないと」
継母の、無能な子を作れという言葉が脳裏に浮かんだ。勿論、それは私の役目なんかじゃない。レドモンド家を守ることが第一の役目よ。お姉様の働きに比べたら、なんてことないわ。
だけど、自分に言い聞かせても、緊張で胸が締め付けられる。
「ヴェルヘルミーナ様、あの女の戯言などお忘れください」
「あの女って……」
いくら馬車の中にいるのが私たちだけとはいえ、思い切ったことを言ったものだ。思わずダリアの顔をまじまじと見てしまった。
涼やかなダリアの顔はいつもと変わらず、真剣そのものだ。
「商談に行く心づもりで、お願いします」
「……商談」
「ヴェルヘルミーナ様の目的は、あの女を追い出すことだということを、お忘れなく」
「それは忘れてないわ。全てはセドリックのため」
そう、この縁談を利用して、継母を追い出すのよ。
コメント
1件
うわ、すごくいい話数でしたね。馬車の狭い空間でヴェルヘルミーナの不安と覚悟が行ったり来たりする感じ、すごく伝わってきました。「商談に行く心づもりで」っていうダリアの言葉、めっちゃグッときました。彼女の芯の強さが垣間見える台詞ですよね。ヒースの花で心象を描く表現も美しくて。次、どうなるんだろう…続きが気になります。