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どんな話しをしていたんだろう。


舞台から降りた可馨クゥシンは、花びらが舞い落ちるように颯懔ソンリェンの所へと向かって行った。


親しげに笑い合う二人。


絵になるという表現があるけれど、正にそれだった。



やっと休憩出来る時間になり、食堂へと向かう途中で紅花ホンファと会った。さっき可馨と一緒に桃園から出ていったから、きっとお召替えの手伝いでもしに行ったのだろう。


「明明ちゃんは休憩?」


「はい。あそこにいるとお酒の匂いだけでも酔いそうですね」


「ふふ、あたし達でもお零れに預かれる事があるみたいよ。時々一緒に飲もうなんて誘われている子も居たから」


「良いですね。……あの、紅花さん。さっき可馨様と師匠と話しをされてましたよね」


「うん? そうだけど。気になるの?」


心の内側を見透かすように、紅花の金色の瞳が覗き込んできた。自分のした質問がおかしい事に気が付いて目をそらすと、悪戯げに笑ってくるりと回った。


「颯懔がこの服をあたしにくれるって」


「そうですか! よく似合っているので紅花さんが着るのが一番いいです」


私が持っていたって箪笥の肥やしだ。紅花に沢山着てもらった方が服も喜ぶ。

うんうん、と頷く私の耳元まで紅花がぐっと顔を引き寄せてきた。近すぎて表情は読めない。


「だからね御礼に、例の件についてもう一つ助言してあげる」


「?」


「トラウマの原因と向き合ってみるのがいいんじゃないかしら」


「トラウマの、原因……」


「そう。過去のその女ともう一度してみるの。上手くいったら、これ以上にない成功体験だと思わない?」


顔を離した紅花の口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。


「休憩行ってらっしゃい」


「は、はい……」


ヒラヒラと手を振って紅花は桃園へと戻って行った。


何をどこまで知っていて、どういうつもりで言っているのか。紅花の考えている事はやっぱり全然分からない。


とっぷりと日が暮れて、灯籠には明かりが灯る。

まだ桃園では宴をしているが、残って夜の花見酒を楽しむ者、屋敷に戻って休む者とそれぞれだ。颯懔が辺りが暗くなってきた頃に、早々に桃園から引き上げて行くのを見たので、きっと部屋でぐったりとしているだろう。

あれだけひっきりなしに仙女達に囲まれてたら疲れるよね。


やっと仕事から解放されて屋敷へと戻って来きたところで、お茶の準備に取り掛かった。


緊張の緩和、疲労回復、毒素の排出、むくみ防止……


うーん、白牡丹かな。


数ある茶葉の中から白牡丹の茶を選んで取った。お湯が沸くのを待ちながら茶器を揃えていると俊豪チンハオが覗いてきた。


「それ、颯懔様のところへ持って行くつもりか?」


「そうだけど」


「言い付けられたのなら別だけど、そうじゃないなら止めておけ」


「なんで?」


「普段滅多に会わない桃源郷中の仙という仙が集まってる。そんな夜に不用意に部屋を訪れるのは無粋だと言ってるんだ」


あーあ、そう言うこと。


お酒も入って盛り上がっちゃうよね、きっと。


「師匠は女嫌いだからそんな事ないと思うけど」


「男女の仲なんて何が起こるかわからない」


「……そうだけど」


「まっ、部屋に入る前に誰か来ていないかは確認するんだな」


水を一杯だけ飲み干すと俊豪は出ていった。


手取釜の注ぎ口から激しく湯気が立っている。

お茶の準備は出来た。


「まさか、そんなね」


茶器一式を盆に乗せて給仕室を出た。

自然と足が早くなるのは、湯が冷めてしまう前に行きたいだけ。それだけだ。

廊下の角を曲がれば颯懔が滞在している部屋。


柱から顔を出した瞬間、向こう側から女性がやってくるのが見えた。



あれって可馨様? だよね。



反射的に体を引っ込めて様子を伺うと、極短いやり取りの後にパタンと扉の閉まる音がした。


ドクドクと心臓がのたうつ。


茶器を落とさなくて良かった。


もし今、私があの部屋へ行ったら結果は変わるのだろうか?お茶を置きに行くのは何も悪いことでは無い。


進もうとして、頭に響く言葉に足を止めた。



『過去のその女ともう一度してみるの。上手くいったら、これ以上にない成功体験だと思わない?』



くるりと踵を返すと、来た道を辿って茶器を片付けに戻った。


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