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外に出ると、外は厚い雲におおわれて、不自然に暗い。今にも雨が降りそうだった。
むっとする湿気が体を包む。
あついなあ。プールに入りたいくらい。
体育館の横にある体育倉庫まで歩いてみたけれど、黒い生きものの姿は、もう見えなかった。
巣に帰っちゃったのかな。
明日ここで待ちぶせしてみようかなあ。
あきらめきれないわたしは、体育倉庫の裏まで回ってみることにした。
とたんになんだか、空気が重たく感じる。
それにこのにおい。
この香りを私は知っている。
霧島くんからかすかに香る、花の匂いと似てる。
けれど今感じてるのは、それよりもずっと濃い、むせかえるような香り。
胸の音が、どきん、どきん、どきんと体の中で響き出した。
まるで警戒のように。
、、、、、、この先に、近づいちゃいけない。
(霧島くんが言ったのに)
それでも私の足は、香りの元を確かめようと、前に進んでいた。
うちの学園の体育倉庫は、となりにある大きな体育館のかげになっているから、いつでも暗い。
校庭の端にあるから雑草も生えているし、あえて近づこうって思わない場所にあるんだ。
その場所に今、私は足を運んでいる。
ふだんいかない場所で怖いけど、香りにひきつけられて足が止まらない。
体育倉庫の裏に回ると、男子生徒と女子生徒が二人でいた。
男子生徒が女子生徒を、支えるように立っている。
女性生徒はくったりとしていて、ぶらんと白い腕がたれていた。
男性生徒は、そんな女子生徒の首すじに、顔をうずめている。
そこだけ時が止まったみたいに見えた。
心臓が、信じられないくらいの速さで、動きだす。
それはまるで、一枚の絵みたいだった。
映画のワンカットのようにきれいなのに、どこかおそろしい感じがするのは、女子生徒が死んでいるかのように動かないからだ。
(ここから、立ち去らなくちゃ、、、、!)
頭ではそうわかっているのに、私の足は凍りついたのように、動かなかった。
男性生徒は気配を感じたのか、ゆっくりと顔をあげた。
(うそ。目が、、、、、赤い!)
そう思ったのは瞬きをする一瞬で、次に目を開けたときは、普通の黒い瞳だった。
(見間違い、、、、?)
ふんわりした茶色い髪のその人は、この間見た霧島くんのお兄さん、コウ先輩なんだって、すぐにわかった。
モデルみたいに長い脚。小さな頭。
顔は見たことなかったけれど、それでもわかる。
ありえないくらいにかっこいいから。
大きな目は少したれていて、目元には泣きぼくろがあった。
通った鼻筋と唇のかたちは、霧島くんに似ている気がした。
だけど無愛想な霧島くんと違って、その唇はほほえみを浮かべた。
「じゃまするなんて、悪い子だね?」
霧島くんよりも甘い声は、親しみやすいはずなのに、なぜかわたしはこわいと思ってしまった。
死んでいるように見えた長い髪の女子生徒は、当然のように生きていたけれど、目覚めたばっかりって感じで、とまどっている。
わたしは自分の勘違いだったことに、ほっと息をついた。
(なんでそんなこと思っちゃったんだろう)
あの女の人、見たことがある。三年生の先輩だ。
確かバレエのコンクールで入賞したとかで、みんなの前で表彰されていた。
美人で有名なんだよって、みんながうわさしていた人。
コウ先輩とつきあってるのかな。
「もういっていいよ」
コウ先輩がそう言うと、その先輩はぼんやりした感じで、わたしとは反対方向へ歩いていってしまった。
「きみ、この間窓から落っこちそうになってた子だよね?セイが助けてた」
(、、、、、、わたしのことを、知っているの?なぜ?)
のどがごくんと鳴った。
コウ先輩は、なんか違う。
うまくいえないけれど、コウ先輩に感じる不思議さは、霧島くんに感じるそれとは種類がちがうんだ。
ゆっくりと、コウ先輩がこっちに向かって歩いてくる。
足元には雑草も、木の枝も落ちているのに、その上を歩くコウ先輩からは、足音一つしなかった。
それが不気味に感じられて、じわじわと不安が大きくなる。
「あの、あの、、、、、」
「セイとは、どういう関係?」
「関係なんて、、、、」
霧島くんに聞いたら、ぜったいに「無関係」って言うだろう。
想像したら、胸がズキンと痛んだ。
「まあ、いっか」
コウ先輩は聞いたくせに、興味ないって顔だ。
甘い顔の裏に、冷たさが見えかくれしているような気がした。
「きみがかわりでいいや」
「へ?」
「さっきの子のかわり」
それはつまり、、、、、わたしにさっきの先輩のかわりに、抱きあったりしろってこと?
「えええええええ!?無理!無理ですよ!」
「うるさいなあ。大きな声出さないでよ。だいじょうぶだよ」
(なにがだいじょうぶ、なのっ)
びっくりした拍子に、動かなかった足が、動くようになった。
「きみみたいにきれいな黒髪の子、好きだよ。瞳も大きくてかわいいね。」
わたしは目が真ん丸になった。
コウ先輩が首をかしげるようにして、いたずらっぽく見つめてくる。
男の子に「好き」だなんて、言われたのははじめてだ。
いつかは王子様みらいに素敵な男の子に、好きって言ってもらいたかった。
目の前にいるコウ先輩は、たしかに王子様みたいにかっこいい。
だけど。
私が言ってほしかった「好き」は、こんな軽いものじゃないっ
「遠慮しますっ」
わたしが一歩下がって、逃げ出す体勢をととのえると、コウ先輩はきょとんとした。
「あれ?「「魅了」」(てんぷ)の能力が効いてない?」
「テンプ?」
「おかしいな。そんな人間めったにいないはずなんだけど。きみ、何者なの?」
「、、、、、、、、っ、なんですか、テンプって!わたし、失礼しますっ」
くるっと方向を変えて、走り出そうとすると、目の前に人がいて、ぶつかりそうになった。
「わっ。、、、、って、霧島くん?」
ぶすっとした霧島くんが、そこに立っていた。
わたしが言うことを聞かなかったから、おこっているのかもしれない。
それなのに様子を見に来てくれたんだ。
わたしは霧島くんの言う事を無視して、ここまで来てしまったことを反省した。
私の後ろから、コウ先輩が声をかける。
「セイじゃん。人の獲物に手ぇ、出さないでよ」
「獲物!?」
聞き捨てにならない言葉に、思わず叫んじゃった。
けど、霧島くんもコウ先輩もわたしを無視した。
霧島くんはお兄さんのことをじっとにらんで口を開いた。
「うるせー。だれかれかまわず手を出してるのは、そっちだろ。また親父に怒られんぞ」
霧島くんが行った言葉の意味は、わからなかったけれど、コウ先輩がため息をついたところを見ると、お父さんにおこられるというのは、どうやら本当らしい。
コウ先輩は襟元のあたりまである長めの髪を、指先でいじっていた。
それから、少し考えるようにだまったあと、
「ま、いいか。またね。子猫ちゃん」
とわたしたちとは反対方向へ、歩いていってしまった。
(、、、、、、子猫ちゃん、だって!)
私が恥ずかしくなってつい、霧島くんを見上げると、霧島くんはいやな顔をした。
「コウのこと好きになったのかよ?」
「えっ、まさか!?さっきはじめてしゃべったんだよ!」
「、、、、、ならいいけど」
霧島くんに誤解されたくなくて、わたしは必死で否定してしまった。
(霧島くん、私のこと心配しにきてくれたの?)
「ねえ、なんできたの?霧島くん、わたしのこと嫌いなんじゃなかったの?どうしていつも助けれくれるの?」
期待がふくらんで、胸がはじけそうになっちゃったから、聞かずにいられなかった。
答えてくれるなんて、これっぽっちも期待してはいなかったけれど。
「べつに嫌いなんていってない」
「、、、、、、え?」
それなのに霧島くんは、私がびっくりするような答えをくれた。
「言ってないだろ?」
霧島くんはいぶかしそうに首をかしげる。
わたしは今までの霧島くんを思い返していた。
(たしかに言ってない、、、、、かもしれない)
でもあんな態度されたらさあ。
なんだ、わたし、霧島くんに嫌われてなかったんだ。
気持ちがふわふわと、浮き上がるのがわかった。