「……これで、終わりだよ」
イルミの針が、あなたの記憶に深く沈んだ。
あなたの身体は動かず、まるで命を抜かれたように静かだった。
けれど。
あなたの瞳だけは、閉じられていなかった。
その奥に、強い意志が灯っていた。
(思い出は、消させない……絶対に……!)
イルミの囁きも、優しいふりをした嘘も、
あなたの心には届かなかった。
(キルア……クロロ……)
記憶の奥底で、何度も繰り返し思い出す名前。
それだけが、あなたの心を守った。
けれど、その代償はあまりにも重かった。
体は動かない。声も出せない。
けれど意識だけは、しっかりと自分のもの。
イルミの腕の中で、あなたは涙を流した。
「……泣いてる?」
イルミが、驚いたようにあなたの頬を撫でる。
「記憶を消したはずなのに……どうして……泣いてるの?」
針は刺さっていた。命令は実行された。
なのに、あなたの心は、イルミに従っていなかった。
「……おれが足りなかったのかな。もっと深く……壊さないと」
そう呟くイルミの腕に、あなたは微かに力を入れる。
声にはならない、小さな拒絶。
(誰か……誰か、来て……!)
地下通路──
「こっちだ、あと少しで本部にたどり着く」
クロロの声に、キルアは無言で頷いた。
目には焦りと怒り、そして、涙のようなものが滲んでいた。
「姉ちゃんを……絶対、取り戻す。
オレの知らないところで、あんなヤツに壊されてたなんて……!」
「壊れていないさ、まだ間に合う。
彼女は強い。“自分”を守る力を持ってる」
クロロの言葉に、キルアの目が見開かれる。
「どうしてそんなこと、言い切れるんだよ……」
クロロは一瞬だけ目を閉じ、静かに答えた。
「——昔、彼女を選んだのは、ボクだから」
密室の中
イルミは、ぐったりとしたあなたをベッドに横たえ、目元をじっと見つめていた。
その瞳に、何かが宿っていることに、彼も気づいていた。
「やっぱり君は、ボクじゃなくて……」
次の言葉を紡ぐ前に、**ドンッ!!**と扉が破られる音が響いた。
「姉ちゃん!!」
キルアの叫び。
あなたのまぶたがゆっくりと動いた。
「動くな、イルミ」
クロロの冷たい声が、部屋の空気を一変させる。
イルミは笑った。
けれどそれは勝ち誇った笑みではなかった。
「おれが壊す前に……来たんだね」
「遅れてごめん、姉ちゃん」
キルアがあなたのそばに駆け寄る。
その瞬間──
あなたの目から、一筋の涙が零れた。
その涙は、イルミではなく、“キルア”の名を想って流れたものだった
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