テラーノベル
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翌朝、起きて一番に部屋の異常な静かさに 寒けがした。スズカは眠らない。 夜の間はどこかに行って、朝になると少々傷を増やして帰ってきて、俺の分のコーヒーを入れておいてくれる。
「スズカ…?」
そろそろとリビングへと入る。
いない。洗面所、キッチン、ベランダ、玄関、どこにも、いない。まだ探し足りないが、もう仕事の時間が刻々と近づいてきている。 今日は絶対遅れられない大事な収録、後ろ髪をひかれながらも家を出た。
スタジオについてすぐ、大量の仕事が後から後からなだれこんできて、息つく間もなかった。それでも頭の片すみにはスズカのことがチラチラとよぎって、気がかりでならなかった。
ヘトヘトになりながらもなんとか収録を終え、少々ぼーっとしながら次の仕事へ向かう。
あぁ、次は何だっけ、打ち合わせか。
「次は2階の会議室です。」
マネージャーの声を聞き流しながらふと窓の外を見た。と、その時見知った2つの人影が目に入ってきた。
一ー若井と、涼ちゃんじゃん。
二人は俺がいるのと同じ建物内の別館を歩いていた。
あれ…二人共今から打ち合わせのはず…
別館とこの本館は少し遠い。
今あそこにいると会議室には走ってこなきゃ間に合わない。 不思議に思いながらも、まぁ何か用事でもあったんだろうと飲み込んだ。
俺が更に驚愕するのは会議室に入った後だった。
「えっ…涼ちゃん…?」
「あっもとき!おつかれ様〜」
会議室にはすでに少しのスタッフと涼ちゃんがいて、涼ちゃんはもう資料に目を通しはじめているところだった。
「え、なんで?なんでいるの?」
「ええ?そんな僕が早く来るの珍しい?」
「いや、そうじゃなくて…」
「そういえば若井遅いね。いつも僕より早い のに。」
意味が、分からない。ついさっき二人は別館にいた。絶対に走って来なきゃ俺より早く着けない。
周りにいたスタッフの一人に涼ちゃんがいつ頃きたのかをきいてみる。答えは、十五分程前、つまり俺が二人をみたとき、涼ちゃんはすでに会議室にいたことになる。
見間違い?いや、そんなはずない。 絶対にあれは若井と涼ちゃんだった。
「ねえ涼ちゃん、今日別館いった?」
「別館ってここの別館? 行ってないよ。今日は本館だけ。」
どういうことだ…?じゃあ俺の見た涼ちゃは誰だった?…この、感じ、既視感がある。つい最近こんなことがあったような気が一ー
「すいません!遅れましたあっ!」
大きな音とともに、若井が肩で息をしながら入ってきた。
「若井が遅刻なんて珍しいじゃん、どうしたの?」
「いやぁ…、色々あって…」
涼ちゃんからの問いかけに曖昧に返事をしながら、若井も席に着いた。
仕方ないが、若井を問い詰めるのはまた打ち合わせが終わった後にしよう。
俺が少し考え込んでいたせいか、 どことなく空気がヒリついているのがよく分かった。しかし、そのおかげか今日決めてしまいたい所まですんなりと終わり、早めの解散となった。そのまま出ていこうとする若井をつかまえる。
「珍しいじゃん、遅刻なんて。 何してた?」
「いや前の仕事終わった後さ、 まだ時間あったから寝ちゃおうと思って。 そしたら思った以上に寝過ぎちゃってさ、」
「どこで?」
こちらの空気を察したのだろうか、 若井の声が少し緊張していく。
「…そのまま、楽屋で。」
「その楽屋ってここの本館だったよな、…俺この会議の10分前くらいにさ、別館歩いてるお前と涼ちゃん見たんだけど。あれ誰?」
分かりやすく若井の瞳がゆれた。
そういえば涼ちゃんが聞いていないだろうかとはっとして振り返ったが、トイレにでも行ったのか、すでにスタッフ数人しかいなかった。
「..俺、今日別館行ってないけど、もときの見間違いじゃね?」
昔から一緒にやってきたからだろうか、若井が何か隠していることは明らかに分かった。
「…いや、あれは絶対お前と涼ちゃんだった。 なぁ、何してたんだよ。」
「なんもしてねえって!そんな疑うなら涼ちゃんに聞いてみろよ。」
そう、それなんだよ。涼ちゃんがあそこにいたとしたら間に合っているはずがない。実際若井は間に合ってない。じゃああれは誰だ?
「す、すみません、大森さん、時間です、」
周りも俺達の少々険悪な空気に気がついたのか心配するようにこちらと見ている。
まだまだ腑に落ちていないが、マネージャーに止められ、苛立ちを隠すことなく一つため息をはいて、仕方なく若井を解放した。
マネージャーの後につづいて廊下を歩きながらも考え続けた。ふと、突然ある考えに到った。
ーースズカだ。
そうだ、謎の既視感はこれだ。涼ちゃんなのに涼ちゃんじゃない。今朝のイレギュラーで咄嗟には到れなかった。
だとすると、若井はなんでスズカを知ってる? 一緒にいたことは多分確実。だって若井は明らか何かを隠していた。若井にも、見えるってこと?スズカとすでにどこかで会ってた? じゃあなんでそれを俺に隠す必要がある!?
引き返して若井を問い詰めたいのも山々だが、こちらの仕事も疎かにするわけにはいかない。
止まるわけにはいかない。
ふぅ、と息をつく。スズカと会ってから、少しおかしい。こんなに感情的になるのはよくない。どうしてーー
ーーきゃっ
突然耳に入ってきた小さい、聞き慣れない音。悲鳴?多分、若い女性の、
何だか悪い予感がして、声のした方へと走り出す。そんなに遠くないはず…
廊下の先、たぶんあそこの角を曲がったあたり。何年ぶりだっていうくらい全力で走って、何とか曲がり、そこに広がる光景に、言葉を失った。
ーーデジャブだ…
あの時と同じ様に、涼ちゃんが苦しさで顔を歪めながら倒れていた。
若井様めちゃくちゃ書きやすい…
またも謎めいてきましたね
見て下さる人が増えてきて、とても嬉しいです☺️
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