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『なんだぁ、南雲ぉ! オレ、さっきから筋トレしてんだぞ! 邪魔すんじゃねぇよ! それともあれか!? オレ様をときめかせるモンスターでも出たのか? おおん!?』
協会本部では、ものすごい速さで話が纏まりつつあった。
求めている人材の求めている刺激が目下問題になっているモンスター。
この大好機を乗りこなせなければ、監察官の地位を返上しようと南雲は思った。
「木原さん! 急で申し訳ないうえに、説明をしている暇もないのですが! あなたが3年前に討伐したマグマアニマル! それが15体ほどダンジョンに出現しています! どうにかなったりしますか!?」
『南雲ぉ! てっめぇ! この野郎!!』
「ああああ! もちろん私も同行します! 半分! いや、頑張って6割は私が対応しますから!!」
『バカ言ってんじゃないぞぉ! マグマアニマルが15体!? ……そそるじゃねぇか!!』
「……ええ。あ、はい。もしかして、おひとりで相手をするおつもりで?」
『なんか知らんが、ちょうど筋肉が叫びたがってんだ!! すぐにダンジョンの座標を入力した【稀有転移黒石】持って来い! そんでお前は付いてくんな!! 邪魔!!』
木原久光。
8人の監察官の中で最強の称号を欲しいままにしている、ゴリゴリの戦闘狂。
彼の監察官室には、いつどこに強いモンスターが現れても良いように、常に装備を取り出せる準備がされている。
助手にAランク探索員の福田と言う男を付けているが、彼に与える仕事は装備のメンテナンスのみと言う徹底ぶり。
つまり、準備は既に整っていた。
大急ぎで【稀有転移黒石】を届けた南雲。
「お前ぇ! 分かってんなぁ! ちょうど上腕二頭筋辺りがうずいてたのよ!!」と、上機嫌でそれを受け取ると、次の瞬間にはもう転移していた。
南雲はすぐに監察官室へと引き返して、御滝ダンジョンの状況をサーベイランスで確認する。
幸いな事に、現在潜っている探索員はいないという事務所の記録を見て胸を撫でおろす。
続けて、木原監察官のサポートができるように、第3層へとサーベイランスを移動させた。
そこには、既にお楽しみを始めている木原の姿があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おおおおおう! うるぅあああああっ!! ダイナマイトぉ!!」
木原の両手には『日雷』と言う名のナックルダスターが握られている。
構造は実に単純。
体内の煌気を効率よく放出する。ただそれだけの装備である。
南雲が木原監察官の依頼を受けて作ったものだが、彼がこれまで手掛けた武器の中でも群を抜いてシンプルなものだった。
その『日雷』が、名に恥じぬ稲光をほとばしらせる。
木原のスキルである。
名前はない。彼が「付ける必要ねぇじゃんよぉ!」と言うので、仕方がない。
そのスキルの正体は、凄まじい煌気を纏った右ストレート。
モンスターをぶん殴る際に「ダイナマイト」と叫ぶので、そのまま『ダイナマイト』と呼ばれる事が多い。
「なんだ、おおおい! お前、しばらく見ないうちに弱くなっちゃってんじゃないかよぉぉ!! オレは悲しいぞ! うぉぉぉん! ダイナマイトぉ!!」
木原監察官の『ダイナマイト』は一撃必殺。
尋常ならざる煌気で対象を粉砕する。
そこに属性などと言った細かい理屈は存在せず、ただ殴るだけで、炎だろうと氷だろうと、有形であろうと無形であろうと、全てを破壊する。
協会には、「特異属性」として登録されている。
これまで多くの研究者が仕組みを解明しようと挑戦し、皆が返り討ちにあった結果、「もう意味が分からない属性と言う事で」と言う流れで決まったのだとか。
「クォォォォォォォォォンッ!!」
既に6体が消滅させられたマグマアニマルズ。
これ以上やられてなるものかと、ついに反撃の意志を見せる。
「あっちぃな! おおい! 良いぞ、そうだ! もっと熱くなれ!! 全然足りねぇぞぉ!!」
「クォォォッ!! ガァァアアァァァァルゥゥゥッ!!!」
マグマアニマルたちの体内にある核が臨戦態勢に入り、凄まじい熱気を放つ。
頑丈に出来ているはずの御滝ダンジョンの外壁が燃え始めていた。
「良いじゃないのぉ、お前たちぃ! いい汗かいちゃうぜ! ダイナマイトぉ!!」
木原の体も、有栖ダンジョンの六駆同様に高密度の煌気で覆われているため、普通の人間なら人体発火現象が起きて銀狼怪奇ファイル必至の環境に対応していた。
ちょっとサウナに入りに来たおっさんみたいな感覚で戦っていた。
100℃近いアミューズメントパークである。
逆神六駆以外にも頭のおかしいおっさんが、ここにいる。
「なんか数が減って来てないか!? おいおいおい! まだまだ暴れ足りねぇって!! ダイナマイトぉ!!! そぉら、もう一発ぅ! ダイナマイトぉ!!!」
『ダイナマイト』の一振りでマグマアニマルが1体消滅する。
ならば、2発振りかぶれば。
3発だったら。4発目は。5発。6発。
幼児が指を折って数を数えるように、木原の拳が振るわれる度にマグマアニマルが消滅していく。
そうして、12分と30秒が過ぎたところで、ゴングが鳴った。
「おおい! もういないじゃねぇのよぉ!? なんだよ、初めてやり合った時にゃ、もっと手応えあったのに! やっぱ2度目じゃ燃えねぇな!! 南雲ぉ、帰るぞ!!」
凄まじい勢いで未知のモンスターをこの世から消し去った木原監察官。
監察官最強の名は伊達じゃない。
六駆は千を超えるスキルで何通りもの戦い方を見せるが、木原はただひとつのスキルで全てを貫いていく。
彼らの強さは比較できるものではなく、オンリーワンであるがゆえ、どちらが強いのかと言う議論の答えは現時点で出すことが難しい。
ある程度の満足感を得た木原は、自分の監察官室へと引き上げて冷水のシャワーを浴びたと言う。
やっぱりサウナ感覚だったのか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「南雲さん。南雲さん。良かったっすね。とりあえず丸く収まって。逆神くんのアイデアも流石ですけど、木原監察官の戦闘データはいつ見てもヤベーっすね」
南雲は苦い顔をしてコーヒーを飲んでいる。
カフェイン摂らなきゃやってられないだ。
「私は思うんだけどね。木原さんが監察官になったのって、野良の探索員やらせとくとむちゃくちゃするからじゃないのかね」
「あー。それはアリっすね。なんだ! 逆神くんと同じじゃないっすか!」
「ヤメてくれ! 逆神くんはもう少し理性的だよ!!」
「そうっすね! 理性的にヤバい方が、よりヤバいっすね!!」
南雲は速やかに御滝ダンジョンの後始末をさせるべく、協会のしかるべき部署に指示を出す。
諸君に伝えておきたい事がある。
六駆や木原がやりたい放題して最強を誇っている陰で、南雲がひっそりと堅実な仕事をしているからこそこの世界は成り立っているのだと。
南雲修一監察官。
彼は戦闘力こそ前述の2人に及ばないが、総合力で見れば胸を張って彼らと肩を並べられる、兵《つわもの》であるとここに明言しておこう。
「南雲さん」
「うん。山根くんもコーヒー飲む?」
「いえ、逆神くんがすごく神妙な顔で手を振ってます。これ、何か起きてますよ。有栖ダンジョンの方で」
「1分だけちょうだい。コーヒーを味わう時間をさ。本当にお願い」
さあ、南雲監察官。
モニターの向こうで、悪魔が待っている。
騒動はまだ、始まったばかりなのだから。
コメント
1件
いやあ、木原監察官めっちゃ楽しそうですね!「ダイナマイト」一発でマグマアニマルが消えていく爽快感がたまりません。でも個人的にツボったのは、その戦闘を「ちょっとサウナに入りに来たおっさん」と表現したところと、南雲さんの「コーヒーを味わう時間をちょうだい」に全てが詰まってる気がします(笑)。裏でちゃんと動く人がいるからド派手なキャラが映えるんですね。次どうなるのか気になります!