テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『愛死体』
どんよりと沈んだ空気の中、視界はほとんど黒に塗りつぶされていた。
その中心にだけ、やけに鮮やかな赤が広がっている。
錆びた鉄のような匂いが、喉に張りつく。
その中で横たわる“それ”は、もう何も感じない身体になっていた。
「玲音…?」
自分で殺したくせに、まるで他人みたいに名前を呼ぶ。
理解が追いつかないふりをしている。
「……れん君」
かすれた声が、落ちる。
「俺、嬉しいよ」
玲音は笑っていた。涙と汗でぐしゃぐしゃになりながら。
「蓮君に殺されるの、すっごく嬉しい」
その言葉に、胸の奥が鈍く軋む。
どうして俺は、こんな形でしか人を愛せない。
触れていたかっただけなのに。
壊したかったわけじゃないのに。
「……愛したかった」
零れた言葉に、玲音は小さく息を吐く。
「俺は、愛されてたよ」
それが最後だった。
玲音の身体から、力が抜ける。
温もりが消えていくのと同時に、心の奥が凍りついていく。
手を伸ばしても、もう何も返ってこない。
愛したかった。
愛したい。
——愛死体。