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#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める
レイラは最近、街のあちこちを回っていた。
アリアの元気がずっと無いため、何か気晴らしになるようなものはないか……と探していたのだ。
「うーん……。これは……ダメかな」
骨董品屋でよく分からない置物を見つけるも、これは今ではない――と、元の位置に戻す。
いつもの元気なアリアであれば、ノリノリでツッコんでくれるとは思うけど……。
……レイラはふと、寂しさを覚えてしまった。
「アリア様は、普段は神職者の服を着ているし……。
アクセサリとかはダメだろうから……うぅーん……」
よくよく考えてみれば、レイラはアリアのことをよく知らない。
前世からの繋がりはあるものの、記憶は曖昧な部分がほとんどだし……。
……記憶が完全に戻れば、誰よりも愛される自信がある。
しかしそれにしても、アリアのまわりには、彼女のことを好きな人が多すぎる。
それがレイラの本心であり、自慢したい気持ちと嫉妬の気持ちが、ごちゃ混ぜになっていた。
「……はぁ」
「よぉ、お嬢ちゃん♪ 今、ヒマ~?」
「忙しいですー」
いかにも軽そうな男がレイラに声を掛けてくるも、彼女は見事なスルーを決めた。
しかし嫌な気配を感じて、右腕を慌てて引っ込めると――
……何も無くなった虚空を、男の手が掴んでいた。
「お……? 凄いな、気配を読めるのか?」
「よ、読めないですけど……。暴力は、反対です……っ!」
「そうだよな。平和にいかないとな?
だから、俺と一緒に楽しいことをしようぜ!?」
楽しいこと――……それをしてあげれば、アリアは喜んでくれるだろうか。
「それって、何をするんですか!?」
「ふふふっ。お嬢ちゃんも好き者だねぇ♪
それじゃ向こうに廃墟があるから、そこでやろうぜ!!」
嬉しそうに話す男に、レイラは明らかな嫌悪を感じた。
どう考えても、自分にとっては面白くないこと――
……アリアのことは喜ばせたいと思う彼女だったが、自分が嫌なものは……嫌なのだ。
「……あ、やっぱり帰ります」
「おいおい! 今さら、それはないだろう!?」
男は簡単に苛立ち、レイラに迫っていく。
このままでは自分が危ない……そう思ったレイラは、何とかこの場を収めようとする。
魔法は危ないから……こういう場合は痛くなりそうな場所を――
……レイラは、男の股間を杖で思い切り殴った。
「ぐおッ!? ぐあおおぉ……ッ!?」
「あ……。ごめんなさい、そんなに痛い場所だったんですね……!!
怪我をしてたら申し訳ないので、治癒薬を使わせて頂きます!!」
「……あぇぁ……? ……お……い? ちょ……っと、待って――」
――後ずさりする男の股間に、レイラは治癒薬をどぼどぼと掛けた。
そして男の絶叫が――切なく街に、響き渡っていった。
……レイラが宿屋に戻ると、既に夕食の時間は過ぎていた。
食堂のいつもの場所では、アリア以外の3人が何かを広げて遊んでいる。
「ただいま戻りました。……アリア様は?」
「さっきまでいたが、もう部屋に戻ったぞ」
ザインとメルヴィナの将棋の戦いを眺めながら、ガルドが言った。
「今日も、ですか……。ところでコレ、何をやってるんですか?」
「将棋……という、昔のゲームだ。アリアさんも、さっきザインを倒していったぞ」
「へぇ……。アリア様って、こういうゲームもやるんですね……」
「レイラもやってみるか? なかなか頭を使うゲームなんだ」
「えへへ。私、難しいことは苦手でして……」
「……魔法使いなのに?」
レイラはそのまま、しばらく舟を漕いでから……静かに寝入ってしまった。
アリアに好意を寄せて、感情のままに追い掛け続ける――レイラ。
これからのアリアのことを考えると、ガルドは複雑な気持ちになってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――数日後の朝。
食堂で全員が集まると、アリアとメルヴィナの目には薄いクマができていた。
アリアはまた夜更かしをしたのか……と思いつつ、レイラはいたわるように声を掛けた。
「アリア様、おはようございます。昨日も遅かったんですか?」
「おはよー。……うん、ちょっと話し込んじゃってねぇ」
話し込む……というのは、誰かしら相手が必要なことだ。
今回は状況的に、相手は……メルヴィナだったのだろう。
メルヴィナはといえば、無理に笑っているようにも見えるが、どこか沈痛なものを感じた。
何があったのかは分からないが、きっとふたりだけの、深い話をしていたのだろう……。
朝食後も、アリアの様子を見ながら追い掛けていると――
メルヴィナが、アリアの部屋に入るのを見つけた。
しばらく外で待っていると、メルヴィナは大きな紙を持って出てきた。
「メルヴィナさん、それは何ですかー?」
「あれ、レイラさん? ……これは、宿題です」
眉間にシワが寄ったような、頬が引きつったような……。
紙は折り畳まれてはいるものの、描いてあるものが少しだけ見えた。
一番外側の曲線から察するに……全体としては円。
その内部には、細かくいろいろと描かれている。
……つまり、この紙に書かれているのは――巨大な魔法陣だ。
「もしかして、アリア様から魔法を教えてもらってるんですか!?」
「ううん、そうじゃなくて……。
私の異能で、この魔法陣を寸分たがわずに出せるように……って頼まれて」
「ふえぇ……? そ、それは大変ですね……!?」
「……ええ、本当に。
やることが多いので、とりあえず部屋に戻りますね……」
そう言うと、メルヴィナは少しだけ肩を落としながら、静かに去っていった。
……あの魔法陣は何だろう?
今まで勉強してきた魔法の中で、あんなものは見たことが無い……。
だから、あれは……普通の魔法陣ではない。何か、特別な意味があるものだ。
そう感じたレイラは、勢いよくアリアの部屋に入っていった。
「アリア様!!」
「レイラ!? ……突然、どうしたの?」
「アリア様は、どこか危ない場所に行くつもりなんですか!?」
――メルヴィナからそう聞いたわけではない。
ただ、あの魔法陣と……自分の直感力から導かれた、ひとつの可能性――
アリアも何となく、そうであることを察していた。
「……はぁ。まぁ……そうだね」
「それなら、私も連れて行ってください!」
レイラの求めに、アリアは……いつもより素直に、きっぱりと断った。
「ダメだよ、今回ばかりは。本当に命の保証が無いの」
「それなら尚さら……。
私の才能が――『直感の才能』が、少しでもお役に立つと思うんです!」
「確かにそれは、あったら嬉しいんだけど……。
でも、誰もレイラのことを守れないの。きっと、そうなるから」
「私は大丈夫ですから……! お願いだから、連れて行ってください……!!」
レイラの必死の訴えに、アリアは優しい目を見せた。
レイラと出会ってから、向けたことの無い眼差し。
はた迷惑な子だと思っていたけど、前世の話なんて持ち出してくるけど、こんなにも思いをぶつけてくるなんて――……そんな、眼差し。
「あたしを大切に思ってくれて、ありがとう。
でも……あなたには、生きていてもらいたいの」
アリアは椅子から立ち上がって、レイラの前まで歩いていく。
そして……アリアはレイラの頭を、優しく撫でた。
……別れを惜しむように。……慈しむように。
「だから、これで――……さよなら」
――しかしその瞬間、レイラの中で何かが弾けた。
自分はこの手の温もりを……知っている。この言葉を、知っている。
これはまさに、彼女の前世……自分に向けられた、別れの瞬間の――
……そのときの光景が、鮮やかな視覚となって頭を満たしていく。
誰かに与えられた記憶ではない、自分だけの記憶。自分だけの感情。
かつては理解できなかった――オルビスという響きの存在。失ってしまった――目の前の存在。
「……わかりました、アリア様……」
レイラの両目から、大粒の涙が流れ出す。彼女はそれを、両手で必死に拭おうとしている。
隙間から零れる涙は地面に落ちていき、濡れた跡を広げ続ける。
「――アリア様。アリア様は――
……私たちの仇を……、討ってくださるんですね……?」
アリアは驚いた。
『私たちの仇』――……そんな言葉、普通であればレイラから出てくるはずがない。
アリアの頭を、疑問と仮定、推察と否定が駆け巡る。
「……レイラ?
あなた、もしかして本当に――」
アリアの言葉を遮り、レイラは涙を切りながら、何とか……満面の笑顔を作り出した。
……そして、アリアに別れを告げる。
「……私は、アリア様のために、生き続けます。
だから絶対に――アリア様も、絶対に生き残ってくださいね!!」
レイラはくるりと翻ると、そのまま走って去っていった。
突然の言葉に、アリアは――……そこから動くことを、心が拒絶していた。
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