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20
#あやかし
がくじゅつてき・あかげ
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ふぃる汰
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――レイラが去っていった。
ザインは宿屋の出口を見るたびに、そんなことを毎回思い出してしまう。
あの日……突然、荷物をまとめて、泣きながら挨拶をして出ていった。
困惑するメルヴィナとガルドと話していると、しばらくしてからアリアも部屋から出てきたが――
……その顔は、どこか疲れ果てていた。
いつも元気なアリアのあんな表情を、ザインは初めて見たような気がする。
今までは何だかんだで、上手くいっていたパーティだった。
それがこの街に来てから、徐々に変わってきたというか――
「――ねぇ、情報屋。今日は遊びに行かない?」
食堂でふたりきりでいると、アリアがそんなことを言ってきた。
遊びに……というのは珍しい。買い物でもなく、冒険でもなく、遊びに……?
「おう、行こうぜ! メルヴィナと旦那は大丈夫かな?」
「あー。今日はね、ふたりで。……ダメ?」
その言葉も珍しい。
ふたりでどこかに行くのは今までもあったが、今日は遊びで――
「も、もちろん構わないぜ?
よし、一緒に気分転換をしに行こう!!」
その後、それぞれ自分の部屋に戻って、準備をすることにした。
ふたりで外出することを念のため、メルヴィナとガルドにも伝えに行く。
「……そう、ですか。
私はやることがあるので、今日はお任せしますね」
「アリアさんは、いろいろ背負いこみすぎているからな。よろしく頼むぞ」
「お、おう……」
少しくらいは拗ねられたり、冷やかされたりすると思っていたが……。
ザインはふたりの反応に、少しだけ戸惑ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
約束の時間、ザインが宿屋の外で待っていると、少し遅れてアリアがやってきた。
「ごめーん、待った?」
「うんにゃ、全然――」
……ザインの言葉が止まった。
アリアはいつもの神職者の服ではなく、可愛らしい私服でやって来たのだ。
あどけない少女が、少しだけ背伸びをしているような……。
手を出せない可愛さと、手を出したくなる可愛さが混在している……というか。
「うん? どしたの?」
「い、いやぁ……。いつもと雰囲気、違うなぁ……って」
「あはは。いつもはこういう服、着ないからねぇ」
……中身はいつものアリアだった。
顔も身長も立ち振る舞いも、いつもの彼女……。
しかし、何かが決定的に違う――
「よっしゃ、今日は張り切っていくぞ!」
「ぼちぼちで良いよー?」
――ザインは考えた。
この雰囲気は……いわゆるデートである、と。
しかしアリアのことだから、恋愛感情は持っていないはず。
それは今まで一緒にいたからこそ、確実に察することができた。
……ただ、その結論に辿り着いて――ザインは少しだけ、自己嫌悪に陥った。
「……やっぱり、お祭りでもやってないと遊ぶところが少ないねぇ」
「そういうのと比較してしまうと、そうだなぁ。……カジノでも行く?」
「今日はそういう気分じゃないかな……。また、何かに巻き込まれそうだし」
「ははは。お前の行く先は、トラブルが続くからな」
「あたし自身は、平和に暮らしていきたいんだけどねぇ」
……神職者でなければ。……類まれな力を持っていなければ。
もしかしたら、アリアは普通の人生を歩んでいたのかもしれない……。
しかし、こんなアリアだからこそ――ザインは彼女に、出会うことができたのだ。
「そうしたいなら、そうすればいいさ。
手伝えることがあるなら、何でも手伝うぞ?」
ザインの言葉に、アリアは静かに笑った。
少しだけ、彼女の本心が見えたような……そんな気がした。
「……うーん。あたしもあんまり、遊んだりしないからなぁ。
とりあえず、お洒落なカフェでも行ってみますか」
「ほう……。今日は、量より質――もとい、雰囲気を重視する日か」
「なるほど……? それなら情報屋の服も、新調してみない?」
「えぇー? そこまでは別に……」
「まぁまぁ。歩いて~……とか、おやつ食べて~……とかは、いつもやってるじゃない。
今日は変わったことをしてみよ~♪」
アリアはザインの手を取って、そのまま走り出した。
ザインがどうにか付いていける速さ……アリアとしては、かなり抑えめの速さ。
……お互いがお互いのペースを知っている、というか。
この辺り、ふたりでいるのも長くなってきたな――……そう、ザインは思うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――夕方の広場。
中央には大きな池があり、少しだけ珍しい形をしていた。
池の横のベンチに腰を下ろして、冷たい風を感じながら、ふたりは喋っている。
「やっぱりあたし、お洒落なカフェは……合わないかも」
「いやいや。どちらかと言えば、俺のコーディネートがおかしかったんじゃないか?」
カフェに行く前、ふたりは先に服屋に寄っていて――ザインは流れのままに、私服を新調していた。
それが似合っていたかといえば、少し……微妙な選択だったかもしれない。
「あれはあれでカッコ良かったけどねぇ。……もう、着替えちゃったけど」
「やっぱり俺は、いつもの服の方が良いからな!」
「ふーん。……そうなんだ?」
アリアは膝に肘を置いて頬杖を突きながら、目を細めてザインを間近に見る。
不覚にも、ザインはドキッとしてしまった。
「お、おおお――……お前は、今日の服も良いと思うぞ!?」
「あはは、何それ~。あたしが言わせたみたいじゃん?」
屈託なく笑うアリア。
その顔は夕陽に照らされて、一瞬の存在のように感じさせてしまう……そんな儚さがあった。
ザインは目を逸らして、空の彼方を見つめる。
「さ、最近は元気がなかったみたいだけど……。
何か、あったのか?」
「あー……、心配させちゃったよね。ごめんね」
「心配するのは、お前と会ったときからの……宿命みたいなものだからな」
その言葉のあと、ザインの頬には軽く、アリアの拳が入っていった。
ただ、それもいつものことだ。
……しばらくの沈黙があり、次に口を開いたのはアリアだった。
「でも、あらかた――目途は立ったからさ。
あたしの旅も、もう少しで終わりだよ」
「そうなのか? それなら良かった――」
ザインがアリアの方を向くと、アリアもまたザインを見ていた。
ただ、その表情は――どこか寂しげで、悲しげで――ザインの心に、痛みが走ってしまう。
アリアはザインから目を逸らして、ベンチから立ち上がった。
そしてザインを振り返って、言葉を続ける。
「今日はありがとう。今まで楽しかったよ。
――でも、情報屋とはもうお別れ。あなたは平和に、ずっと暮らしていってね」
「は……?」
突然の、別れの言葉。
ザインにとって、どんな言葉よりも聞きたくなかった……言葉だった。
「――お、俺は、最後まで付き合うぞ……!?」
「ううん。今までとは比べ物にならないくらい、ずっと危険になるの。
それに、ここからはあたしの私怨。……そんなものに、情報屋を巻き込めないよ」
「……だから――レイラは、抜けたのか?」
ザインの言葉に、アリアは静かに頷いた。
レイラが自分から抜けるのは信じられないことだったが、彼女もきっと、アリアから別れを告げられたのだ。
「あたし、しばらくは宿屋には戻らないからさ。
その間に、情報屋は――」
……このままでは、アリアがいなくなってしまう。
自分の手から離れてしまう。もう一生、会うことは――
「のおおおお――んッ!!!!!!」
「ひゃぁ!?」
ザインは立ち上がりながら、絶叫した。
意味がまるで無い叫びに、アリアは怯んでしまう。
「俺はッ! お前とッ!! 一緒に行くッ!!!!」
動きの止まったアリアに、ザインの言葉が叩きつけられる。
……しばらくの沈黙のあと、呆然としていたアリアがようやく動き始めた。
彼女はザインの前まで歩いていき、下から静かに見上げる。
「ふふ……。そんなキミだからこそ――
……あたしも、今まで……楽しかったんだねぇ」
アリアは背伸びをして、ザインの額にコツン、と、自身の額をぶつけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ザインがアリアと広場で別れたあと、彼女はずっと、宿屋に戻って来なかった。
ガルド曰く――ザインがいなくなったあとに、戻って来るとのことだった。
……そして数日後、ザインの姿は宿屋から消えていた。
次の朝、全員が旅支度を整えて、宿屋の外に集まった。
「ふたりとも、お待たせしたねぇ。それじゃ、今日から北の方に向かうよ~」
「はい、頑張りましょう!」
「おう、任せておけ!」
――この街に来たときは5人もいたのに、今では3人になっている。
やはり正直、寂しいという気持ちが先に立つ――
「……ところでガルドさん。大きい荷物はあたしが持ちますよ?
帽子に入れていけば、楽ですし」
「あ、ああ……。いや、これはいいんだ」
ガルドの背中には、巨大な木箱が担がれている。
大人のひとりくらい、余裕で入りそうな……そんな大きさだ。
「ふーん? 中身、見せてもらってもいいですか?」
「いや、今はもう出発の時間だろう?」
「そ、そうですよ!
次の街ででも、確認すれば良いじゃないですか?」
「ですよね、お嬢さん!」
「そうよね、ガルド!」
「――はぁ……。
何だかもう、仕方が無いなぁ……」
アリアの言葉に、メルヴィナとガルドはほっと息をつく。
そんな彼らを見ながら、アリアは静かにガルドの後ろにまわって――
……ガルドの背中の木箱を、軽く蹴り上げた。
「うぉっ!?」
「あああ、アリアさん!? 何をするんだ!?」
立て続けに聞こえてくる、ふたりの男性の声。
その横では、メルヴィナも何やら焦っている。
「あー、もう……。
アリアちゃんと愉快な仲間たちは、もう解散かぁ……」
「な、何を言っているんですか! 私たちは、ずっと一緒ですよ!?」
「はい、はい……。『私たち』……ね」
アリアが木箱の方を見ると、ガルドと目が合った。
ガルドはバツが悪そうに、口笛を吹きながら目を逸らす。
「――もう、いいよ。それじゃ、出発しようか」
アリアとメルヴィナ、ガルドとその荷物は――静かに街を、後にしていった。
コメント
1件
あ〜、もうダメだこれ…!ザインがアリアに「一緒に行く」って叫ぶシーン、声が出そうになったわ。普段あんまり気持ちをストレートに出さないタイプの情報屋が、ああやって叫ぶって本当に追い詰められてたんだなって伝わってきた。 それにしても、木箱の中身……まさかとは思うけど、やっぱりザインだよな?エピソード通して「好きだけど伝えられない」もどかしさが全体に漂ってて、すごく刺さった。この後どうなるのか気になりすぎるわ🔥