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ーーー

平日の10時。いつもだったら学校で授業を受けている時間だが、ここは病室で、担任と友達の姿もあった。

「及川、両親は?」

木村は、いつも変わりない様子でそう問いかけて来た。

「帰ったよ」

僕が返事をする前に、蓮が答えた。

両親は朝早くから来ており、30分ほど前に蓮が来たときに帰ったのだ。

そうは言っても、蓮と一緒に居るのは気が楽だった。

両親は、できる限りいつもと変わらないように接してくれているが、どかこかぎこちないというか。ほんの少しの事にも反応するし、すぐに悲しそうな顔をする。

病気の事もあるが、家で倒れてしまった時、ある種のトラウマを植え付けてしまったようだ。

「どした?」

蓮が僕の顔を覗き込んでいた。

「なんでもない。…というか、動きにくいんだけど」

いつの間にか蓮が僕に抱きついて来ていたようだ。

「いいじゃん。ゆき痩せすぎだよ」

「それ今関係ない」

何日も寝ていたら痩せるのは当然だ。

「佐々木」

「なに?」

木村が蓮を呼んだかと思うと、蓮の腕を掴んだ。

「学校戻るぞ」

「え、嫌だ」

「今戻れば次の授業には間に合う」

「まだ来たばっかだし」

蓮は嫌そうにしていたが、木村とやり取りをしているうちに、押しに負けたのか

「ううっ、ゆき…じゃあね…」

と、わざとらしく泣き真似をしながら木村と病室を後にした。

僕はその2人の姿を見送りながら、木村とほとんど会話をしていない事に気がついた。

木村が僕の病気についてどれほど知っているかは分からないが、知っているというのは確かだろう。

今日は、蓮も木村も病気については何も触れて来なかった。だが、聞かれればもうこれ以上言い逃れはできない。

2人が去り、病室は静寂を取り戻している。

僕はベッドに横になった。

これからどうしようか。

9月に入り、僕の余命も既に3ヶ月を切っている。

死ぬまえにやる事と言えば、親孝行とか、やりたい事をする事だろう。だが、僕にはやりたい事なんかなくて、親孝行も何をすればいいのか分からない。それに、今までと違う態度を取れば更に心配をかけそうだ。

僕はまだ明るい窓の外を見つめながら、何度目かのため息をついた。





「君は、死ぬのが怖くないのか」

午後、佐藤が珍しくお見舞いに来たかと思うと、そんな事を聞いてきた。

怖い、とはどういう意味だろう。ホラーゲームに出てくるような不穏な空気とはまた別の意味なのは分かる。いや、ホラーゲームは面白いに入る。

「地獄に行くんだとしたら怖いかも」

「実際に死ぬ人が、そんな的外れな回答するの君ぐらいしかいないよ、」

今なら佐藤の気持ちが分かる。聞いた僕が馬鹿だった、。とかそんな感じだろう。

「…そういえば、何で分かったの?」

これは前から思っていた事だ。いくら病気に詳しいからと言って知っているはずがないのだ。

「知り合いに、居たんだよ。君と同じ病の人が。もう既に亡くなっているが」

なんだか複雑だ。

「知り合い、というか姉だが、彼女は病気にかかってからは随分と人が変わってしまった。明るかったのにいつも暗い顔をするようになった。まあそんな事はどうでもいい。今日はあとどれくらいなのか聞きに来たんだ」

話を強制的に終了させ、佐藤は僕に向き直った。

佐藤とは2年ほど前に仲良くなったが、姉が居たのは知らなかった。

「あとどれくらいって何が?」

「余命だよ」

これくらい察しろよ、とでも言いたげに佐藤は小さくため息をつく。

「んー、まあ、ハッピーニューイヤーが言える言えないかギリギリ」

「は、?」

意外にも驚いた顔をされ、嘘を付けば良かったのかと考える。

「ごめん、冗談だよ」

「…」

誤魔化してみたが無駄なようだ。

「佐藤」

「…」

「佐藤から僕に会いに来たのって初めてだよね」

「…帰る」

「え、何で」

「もう用は済んだ」

佐藤は立ち上がると、病室のドアの取手に手をかけ、「…君はそれでいいのか?」と捨て台詞を吐き去って行った。

「…何が」

そう言っても返事は返って来ない。

病室はまた静寂を取り戻した。



ベッドに横になり、ぼーっと天井を見つめていると、ふと、脳裏に疑問が過ぎった。

僕は、幸せだったのだろうか。

幼い頃は寂しい思いをしたし、目の前で友達を失った。そして、大切な人を傷つけた。

京介だけじゃない。母さんだって、ようやく苦労しなくて済むようになったのに、僕のせいで心労をかけ続けている。


僕は、僕が嫌いだった。

こんな病気にさえならなければ、僕は僕を好きになる事ができたのだろうか。

はは、それは無いな。

僕は1人、壊れたように笑った。

僕が誰かを嫌いになれないのは、誰よりも僕が僕を嫌いだから。

どうでもよかったんだ。僕の命なんて。

結月に川に突き落とされた時もそうだった。

ハルが死んだ時も、僕が先に死ねばよかったんだと後悔した。

そして今も。

苦しい。溺れているかのように、息が出来ない。

周りの音が途絶えた。

それなのに何故か、昨夜の結月の姿が浮かんだ。

「死ぬ前に、俺が殺そうか?」

笑みを浮かべる結月。

「xxxxx」

僕は月を見ていた。

「ゆき!!」

一瞬で、夢から覚めたような感覚になる。

目の前には京介の姿があった。

本気で僕を心配している顔。

ああ、だめだ。

目頭が熱くなり、視界が歪んだ。


やっぱり、僕は僕が嫌いだ。

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コメント

7

ユーザー

お久しぶりですね。 今回のお話も素敵でした。 佐藤がお見舞いに来たのが嬉しくて、つい声が漏れてしまいましたよ 毎度素晴らしい作品をありがとうございます!! もう寒くなってきましたので、無理せず頑張ってください!!

ユーザー

2ヶ月ぶりぐらいでしょうか。 すみませんでした…

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