テラーノベル
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「…………ん?」如月玲が目を開けると、そこは見知らぬ空間だった。
窓も扉もなく、部屋と呼ぶのも躊躇われる場所だ。
真っ白な壁に取り付けられているのは、異彩を放つ一枚の大きなモニターのみ。
「……なに、ここ?」
玲が立ち上がった瞬間、不意にモニターが明かりを灯した。
『ようこそ! 〇〇しないと出られない部屋へ』
『如月玲は、すべてのお題をクリアしないと、この部屋から出られません。』
「…………。」
数秒の沈黙のあと、玲はハッと我に返った。
「〇〇しないと出られない部屋!? なにその、同人誌御用達のいかがわしい部屋はっ!?」
魂のツッコミも虚しく、モニターは静寂の中で淡々と次の文章を表示していく。
◇
『第一のお題』
『白砂律を十秒間、見つめること』
「ん? 律……?」
次の瞬間、壁の一部がスライドするように開いた。
「玲?」
「律!?」
制服の上に萌え袖のカーディガンという、いつもの装いの白砂律がひょっこり姿を現した。
「ここは……?」
「私にも全然分からなくて……。」
玲がモニターを指差し、困惑気みに説明する。
「とにかく、このお題をクリアしないとここから出られないみたい。」
律は画面をじっと見つめると、小首を傾げた。
「ふーん。そんなに難しくなさそうだし、早速やってみよっか?」
向き合う二人。
「じゃあ、いくよ? せーの!」
掛け声とともに視線を交わす。
目の前にある琥珀色の瞳が、自分をまっすぐ映し出している。
――ダメだ。
意識すればするほど、居心地の悪さが募っていく。
全身を駆け巡るぞわぞわとした感覚に耐えかね、玲は途中で思い切り目を逸らしてしまった。
ブーーーーーー!!
部屋中に無機質なアラーム音が響き渡り、モニターにデカデカと『失敗』の文字が浮かぶ。
「分かってる! もう一回!」
ブーーーーーー!! 『失敗』
やっぱり同じように、途中で目を逸らしてしまう。
「ごめん律! 私、うまくできない……。」
あまりの恥ずかしさと申し訳なさで、玲は両手で顔を覆った。
そんな玲に対し、律はふわりと優しい笑みを浮かべる。
その表情はどことなく嬉しそうだ。
(だって、玲が俺を意識してくれてるってことだもん。)
「玲、いいこと思いついた!」
「えっ?」
声に引かれて顔を上げた玲に、律はニッコリと微笑んだ。
「このお題、『見つめ合う』じゃなくて『見つめる』って書いてあるよ!」
「ほんとだっ!!」
「俺は目を閉じてるから、玲は思う存分見つめてね!」
そう言うと、律はゆっくりと目を閉じた。
その姿をじっと見つめ始める玲。
(律って、睫毛が長いなぁ〜。こうやって見るとやっぱり可愛い。……なんかキスを待ってる顔みたい……って、危ない危ない! また視線を反らすところだった!)
ぐるぐると余計な思考が巡っていた、その時――。
ピンポーーーーーン!! 『成功』
モニターの表示が変わると同時に、パチッと目を開けた律と視線が間近でぶつかった。
ドキン! 玲の心臓が大きく跳ね上がる。
「もう、玲ってば……これだけで恥ずかしくなっちゃった?」
律が小さく首を傾げて、ふわりと楽しそうに笑った。
直後、壁から「律専用」と書かれた扉が出現した。
「じゃあね、玲。この後も頑張って!」
そう言うと、律はひらひらと手を振って部屋を出ていった。
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◇
余韻に浸る暇もなく、モニターに次のお題が出される。
『第二のお題』
『神城豪に「好きだ」と言わせること。(ただし、自分がその言葉を使ってはいけない)』
「えーっ! 私は『好きだ』って言葉は使えないってことか……。どうしよう……。」
そんな事を考えていると、また壁の一部が開き、豪が部屋に入ってきた。
「ん? 如月? こんなところで何やってんだ?」
「私も分かんないんだけど、このお題をクリアしないと出られないみたい。」
玲がモニターを指さすと、豪は首を傾げる。
「ん? お題? 俺には何も見えねーけど。」
(そっか! 豪にはキーワードが見えてないんだ!)
「豪にね、ここから脱出するために、ある言葉を言ってもらいたいんだ。」
「おう、分かった!」
「えーと……豪って何の食べ物をよく食べる?」
「食べ物? カレーとかハンバーグとかかな?」
「オムライスは?」
「オムライスも嫌いじゃないぜ!」
……失敗。
「じゃあ、じゃあ! よくするスポーツ! サッカーとか……どう思う?」
「サッカーは、俺にとっては夢だな! もちろん選手になりたいって思って練習してるけど、現実的なことを考えるとスポーツトレーナーの資格も取って、将来長く役立てたいなって思ってる。」
「へぇー。豪って意外としっかり考えてるんだね!」
「意外とってなんだよ!」
思わず二人で笑い合う。
(あっ、いけない。お題忘れて普通に会話しちゃってた。)
「あ〜、もう! どうしたらいいんだろ〜〜?」
頭をくしゃくしゃとかき回している玲に、豪は思わず、ぷっと吹き出した。
「もう何やってんだよ、お前……。いつも綺麗に整えてる髪をくしゃくしゃにして……。」
呆れたように言いながらも、豪の目元が柔らかく緩む。
「でも、澄ましたお前より、そんな感情剥き出しのお前の方が……俺は《《好き》》だけどな。」
その瞬間――。
ピンポーーーーーン!! 『成功』
モニターに大きな文字が表示される。
「えっえっ!?」
突然のことに驚きを隠せない二人。
「色々言いたいことはあるけど……とりあえず、お題クリアだぁ!!」
「えっ? 何? 結局、何だったんだ?」
よく意味が分かっていない豪を、玲は半ば強引に壁に現れた「豪専用」扉へと押し込む。
「ありがとう、豪! 詳しくはまた後で話すから!」
平静を装って扉を閉めたものの、不意打ちの「好き」という言葉に、玲の心拍数は上がりっぱなしだった。
◇
次に現れたのは絢だった。
「玲?」
不思議そうに辺りを見渡している。
『第三のお題』
『千早絢に「可愛い」と言わせること。(ただし、自分がその言葉を使ってはいけない)』
(うっ。これも恥ずかしいけど……。さっきよりは簡単にいけるかも!)
「絢! ここから脱出するために、言ってほしい言葉があるんだ! 協力してくれない?」
「もちろん、玲のためならいくらでも協力します。」
「えーっと、絢って何の動物が好き?」
「動物……ですか? それは玲も入りますか?」
「いやー、そういうのは無しで……。」
「そうですか……。それなら犬ですかね?」
「えっ? 意外! 絢はなんとなく猫派だと思ってた!」
「前はそうだったんですけど。玲を見てると、犬もいいなぁ〜って。」
「私を見て犬って……それは、どういうこと?」
「ふふっ。玲も犬も愛らしいということです。」
しれっと言う絢に、カッと赤面してしまう玲。
「もう、そんなふうに揶揄わないでよね?」
玲の照れ顔に、きゅんっと絢の心が疼く。
「玲こそ、そんな《《可愛い》》顔をするなんて反則ですよ? もういっそこのまま二人で閉じ込められても……」
その瞬間――。
ピンポーーーーーン!! 『成功』
と、野暮なアラーム音が絢の言葉をバッサリ遮った。
同時に「絢専用」と書かれた扉が壁から出現する。
「……もう終わりですか。残念です」
「と、とにかく出られて良かった。絢、ありがとう! また後でね!」
これでお題は三つクリア。
立て続けに萌えを供給され、玲の心臓は鳴りっぱなしだ。
「なんだろう? これ……。相当疲れるんですけど……。私、心臓持つかな?」
◇
次に壁から現れたのは、凌だ。
「あれ? 会長?」
「凌くん!」
「……なんだ、ここ?」
「……それが、全く分かんないんだよね。」
『第四のお題』
『黒崎凌にキスをすること。』
「うわーーー! 直接的なお題来ちゃったよ〜。どうしよう……。」
「な、なんだ!?」
突然頭を抱えて叫び出した玲に、凌は肩をビクッとさせる。
「うーん、うーん……キスキスキス……。」
「か、会長……どうした? ちょっと怖いんだけど。」
凌にはこのお題は見えてないらしい。
しばらく考えた結果、玲はあることを閃いた!
(きっと、これでお題はクリアできるはず!)
「凌くん! 受け取って!」
そう言うと、玲は唇に右手をそっと添え、チュッと音を立てて投げキスを凌に飛ばした。
「なっ……!?」
凌は金縛りにでも遭ったかのようにピシャリと身体を固まらせた。
数秒遅れて、見る見るうちに白皙の肌が耳の先まで真っ赤に染まっていく。
ピンポーーーーーン!! 『成功』
部屋に響くアラーム音。
「やったぁーー! 上手くいった!! ……って凌くん!?」
キャパオーバーを起こした凌は、湯気が立ちそうなほど真っ赤な顔のままフリーズしていた。
玲はひらひら手を振ってみたが、びくともしない。
仕方ないので、固まったままの凌の身体を「凌専用」扉へ強引に押し込んだ。
「ごめんね……。ありがとう、凌くん!」
それにしても、これらのお題は何なのか――。
(さっきからかなり恥ずかしい思いをさせられてるんだけど……心臓を試されてるのかなぁ?)
◇
そうこうしていると壁がまた開き、冴と烈が入ってきた。
「えっ? 二人!?」
『最終のお題』
『黒崎冴と鬼塚烈に抱かれること。』
「ぎゃーーー!! ついに来ちゃったよ!! こんな……しかもいきなり三人でとか無理だって!!」
玲は絶望のあまり両手を床について突っ伏した。
すると、二人はそっと玲の側に近づいた。
「玲、大丈夫だ。私たちに全て任せろ。」
「そうそう! 会長は力抜いて、そのまま俺らに身を委ねてくれればいいから!」
冴と烈がそれぞれ玲の腕を取る。
「えっ!? ちょっと、何? まだ心の準備が……!!」
玲が思わず目を閉じると、身体がふわりと宙に浮いた。
「えっ!?」
目を開けると、どこか満足気な冴の整った顔と目が合った。
玲の顔が一気に熱くなる。
(私……今、冴先輩にお姫様抱っこされてる!?)
そのままストンと降ろされると、今度は烈に脇の下を支えられて高く持ち上げられた。
「うわっ!?」
「ははっ! 会長、高い高い〜!」
「ぎゃーー、やめてーーー!!」
そっか……「抱く=抱っこする」ってことか!
自分の勝手な勘違いに顔から火が出そうになりながらも、玲はほっと安堵の溜息をつく。
烈から身体を降ろされると――
ピンポーーーーーン!! 『お題クリア』
モニターからファンファーレが鳴り響き、壁から『脱出口』という扉が現れた。
「玲、お疲れさま。お題クリアだ。」
「会長、出口はこっちだぜ。」
冴と烈に手を引かれながら、玲は白く光る扉をくぐった――。
◇
目を開けると、そこはいつもの生徒会室だった。
どうやら机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。
ガバっと顔を上げると、そこには律、絢、豪、凌、サクラ、ソノが玲を気遣うように覗き込んでいた。
「あっ、起きた!」
「玲、かなりぐっすり眠っていたようですね。」
「あぁ、呼んでも全然起きなかったもんな!」
「でも、なんかモゴモゴ寝言言ってたような……。」
「なにか夢でも見てたんですか?」
律、絢、豪、凌、サクラがそれぞれ声をかけてくる。
「夢……? そっかぁ、夢か〜!!」
(確かに、よく考えれば色々とおかしな設定だったもんね。)
玲は先程の胸キュンな出来事を思い出して、頬を染めながらふふっと笑った。
「……その顔は、なんか良い夢でも見ましたね?」
ソノがジト目で探るような笑みを向けてくる。
ピクッと玲は肩を震わせたが、すぐに人差し指をすっと唇に添えた。
「ふふっ、なーいしょ!」
玲にとって、嬉し恥ずかしい――でも、とても幸せな秘密の夢だった。
コメント
1件
わあ、番外編だ!✨ めっちゃ好きなやつ〜!「〇〇しないと出られない部屋」ってタイトルだけで既に胸熱なんだけど、玲のツッコミとか「同人誌御用達のいかがわしい部屋」に思わず笑ったw 律との見つめ合いクリア方法が可愛すぎてキュンとしたし、豪の無自覚「好き」は反則だよ…! 最後の「抱く=抱っこ」もズルいほど優しいオチで、夢オチなのも含めてほっこりした。シリアスな本編の合間にこういうのがあると、キャラの別の表情が見えてすごく嬉しい。高天原さん、素敵な番外編ありがとうございます🥀💕