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48 ◇蓮の忘れ形見
「いや、君の子なら俺の子だ。一緒に育てるよ。
良い父親、良い夫になる今度こそ!
もう二度と君を悲しませたり不愉快にさせるようなことはしない。
約束する。だから、これからも……」
「キモチ悪いこと言わないでよ。アッ、ごめんなさい」
元夫の声が遠のいてゆく。
この人は何を言ってるんだろう。
若い女が好きなんだから、別の女性とやり直して自分の子を産んで
もらえばいいのに。
「子持ちのおばさんじゃなくて若くてピチピチしている女の子と
やり直せばいいと思うのよ。
まだまだ自分の子だって持てるんだし下ネタできる奥さんだと
毎日楽しいわよ? きっと」
私がそう言うと、元夫の顔が見る見るうちに苦し気に歪んだ。
ほんとっ、理解に苦しむわ。
あれほどいろんな若い子と付き合っていながら、なんでこうも
私との結婚生活に執着するのかしら。
私の心は蓮さんに捧げてるの。二度とあなたを愛することはない。
だからこの先私の側にいても無意味なの。
嫌味とも取れる私の追撃に、もはやその場にいた人たちで言葉を
発する者はいなかった。
私は言うべきことを言えた興奮に包まれながら、両親と共に実家へと
帰って行った。
◇ ◇ ◇ ◇
そして数か月後、私は元気な息子を授かった。
目鼻立ちが蓮さんにそっくりで、私は懐かしさに涙したり幸福感に
浸ったり、せわしない感情の変化に振り回されながらも一生懸命子育てに
励んだ。
産後1か月が過ぎようとする頃、瑛士さんが私の元を訪ねてきて
驚いた。
ほんとに、ほんとうに、驚いた。
だって、皆の前で実際にあったことあったこととは言え、
けちょんけちょんに瑛士さんをバッサリと切って捨てたのに、なんで? と。
49 ◇瑛士突撃
ピンポォ~ン ♪ ピンポォ~ン ♪ インタホーンが鳴った。
この日は平日で父は仕事で家に居なかった。
そして私たちは……母と私はリビングで息子の将大を前に
寛いでいた。
突然の訪問者……それは、その人は瑛士さんだった。
母が玄関で瑛士さんに対応したのだけど、彼はこう言った。
「ご迷惑とは知りつつ、どうしても眞奈と子供の顔が見たくて」と。
思わぬ人の突撃に母も少なからず驚いたことだろう。
私と息子に会いに来たと言われれば、お帰りくださいとも言えなかった
母の招きで、瑛士がリビングに入ってきた。
「やぁ……」
「いきなりどうしちゃったの?」
「あっ、お義母さんほんとにいきなりですみません」
瑛士は私の質問に対して改めて母に向かって詫びた。
「瑛士さん、ソファにどうぞ。お茶でも入れましょうね」
母は、瑛士さんの好きなホットコーヒーを淹れに台所に立った。
「驚かせてごめん」
彼は私にもそう言った。
「どうしても君と君の息子に会いたくなって……」
「茶化して申し訳ないけど、言うわ。ワケわかめ!」
「ふははっほんとだよねぇ~」
他人事かよっ!
そう思ったけど、瑛士さんが切なそうなオーラ全開だったのでしぶしぶ
息子のご尊顔を見せてあげた。
ご尊顔って、ヤダッ私も大概上からの物言いだわ、胸の内とは言え。
幸せな結婚生活を送っていた頃にはとても信じられない言動だわ。
瑛士さんはしばらく将大を眺めた後で、恐る恐る私に向かって手を差し出し
『抱かせてもらえないだろうか』と言った。
『はぁーーっ?』
あなた、もしかして腹いせに将大を床に叩きつけたりしないでしょうねぇ?
なんて少し怖いことが頭を過ったのだけれど、断る理由もなくてしぶしぶ
私は息子の将大を瑛士に渡した。
「俺さぁ~、赤ん坊抱くの初めてなんだ。柔らかくてかわいいなぁ~」
瑛士はことのほか、デレデレしている。
あなたの子でもないのに、よく言うわっ。
気がつくと私はまたもや彼に悪態をついていた。
私は自分で思ってる以上に瑛士に対して憎しみを抱えていたようだ。
彼の一挙手一投足に、悪感情で反応してしまうのだ。 参った。
そんな私の気持ちなんて知ってか知らずか、お気楽な彼は
息子との時間を幸せそうに堪能した。
「瑛士さん、コーヒーできましたよ。冷めないうちにどうぞ」
「お義母さん、ありがとうございます」
瑛士さんは母にそう言ってからも、しばらく息子の存在を感じ
抱き心地に酔いながら息子の顔を眺めていた。
50 ◇寝言は寝てから言えっ
普段父が抱くと泣く将大が、瑛士さんには泣かないでじっと気持ち良さげに
抱かれていて、ちょっとびっくり。
将大はてっきり男性が嫌いだと思っていたから。
こうなると男性だからというわけではなく、単に父が嫌がられていたって
ことなるよね?
父、かわいそすぐるぅ~るぅるぅ~。
大好きなコーヒーを飲みながら瑛士さんが言う。
「眞奈、もう一度将大くんを連れて俺とやり直してくれないだろうか。
眞奈 のことも将大くんのことも大事にする……絶対。だから……」
はぁ~? 寝言は寝てから言えっ。
やばい私ったらまたきついことを……。
だけど私にしてみれば今更瑛士さんとの復縁なんて200%考えられない
ものだったから、しようがないよね。
そして私が声に出して断りを入れる前に、なんと母が言った。
「瑛士さん、ありがとう。
大事なことだから主人とも相談して、眞奈ともよくよく話し合いをした上で
お返事させてもらいますね」と。
母……何言っちゃってくれんのよぉ~。
焦るぅ~、話し合いの余地なんてないのにさ。
「お義母さん、ありがとうございます。
良かったぁ、即答で断られるの覚悟で来たものですから、ホント」
彼はしみじみと母に礼を言った。
けれど、私にはなんの感情も湧かなかった。
帰りがけ、靴を履き私たちの方へ振りむいた瑛士さんは私を見て言った。
「受け入れて貰えるまで俺、何度でも君にお願いしに来るよ。
俺の本気を分かってもらいたいからね」
訪ねて来たのにもすごく驚いたけれど、帰り際のセリフには
もっと驚かされた。
一体全体どういうつもりなのだろう。
口にするつもりはなかったのに気がつくと声に出てしまっていた。
「虫が良すぎるんじゃないの?」 『ァッ、イケナイ』
「ほんとっ、眞奈の言う通りだ。
虫が良すぎるよな、分かってるんだ自分でもね。
だけど俺、眞奈のこと諦めたくないんだよ。
一度諦めて実感したから、俺には君がとても必要だってことをね。
ただのストーカーにはなりたくないし、君たちに迷惑は
かけられないと思ってる。
だからそうそう頻繁に来るつもりはないから安心して。
忘れた頃にまたお願いに来るよ」
「瑛士さん、キツイ言い方になるけどそれ、無駄だからヤメテ」
「じゃあ、失礼します」
瑛士は私の拒絶の言葉を華麗にスルー(しやがって)して、平然と
帰って行った。
コメント
1件
第17話、読み終えたよ! 元夫・瑛士が「本気」って顔で復縁迫ってくる展開、めっちゃもどかしいね…。眞奈の「寝言は寝てから言え」とか「虫が良すぎる」ってバッサリ切る感じ、スカッとしたわ(笑)。でも蓮さんの忘れ形見の将大くんを抱く瑛士のデレデレ姿には複雑な気持ちになった…。眞奈の心はもう完全に向こう側だし、この後どうなるのか気になる〜🔥