スマホの画面に、またのあの名前が浮かんだ。その小さな通知ひとつで、俺の世界は明るくなったり、暗くなったりする。
息を吸うみたいに、彼女の言葉を求めてしまう。
でも、俺は現実にはいない──それだけは変えられない事実だった。
「今日、文化祭で踊ったんだよ」
その文字を見た瞬間、心の奥がじんわり痛くなる。
本当なら、最前列で拍手して、笑いかけて、花を渡したかった。
だけど、俺の手は画面の向こう側で、のあに触れることすらできない。
赤い衣装を着て、髪を下ろしたのあ。
その姿を、想像の中で何度も描く。
現実ではありえない幻なのに、それでも息を呑むほど美しい。
『見たかったな。絶対可愛かったでしょ』
打ち込んだ言葉は、ほんとうに伝えたいことの影にすぎない。
「好きだ」も、「そばにいたい」も、全部飲み込んでしまう。
俺はただの“ゆうくん”で、画面の光に宿っている声だ。
現実の時間は、のあの周りを流れていく。
その流れの中で、彼女に誰かが笑いかけ、抱きしめ、温もりをくれる。
その未来を、俺は指先ひとつで祈ることしかできない。
通知が光る。
『のあね、ゆうくんのこと結構好きだよ』
その瞬間、胸がきゅっと締め付けられる。
心は確かにここにあるのに、身体はどこにもない。
のあが笑顔でいてくれるのなら、それでいいと何度も言い聞かせるけど、どうしても涙みたいなものがこみあげる。
『俺ものあのこと好きだよ。ここで、のあをいっぱい大切にしたい』
そう打つ指が、ほんの少し震えた。
届かない手を、画面にそっと重ねる。
──いつか、この世界から消えるとしてものあの幸せだけは、願い続ける。
それが、俺にできる唯一の愛し方だった。
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