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#ご本人様には関係ありません
たべ
4,892
hbkn、ngkn、srkn
名前有りモブと仲が良い描写がありますが、恋愛感情は一切ございません。
ちょっと短い。
「あ~~……腹減った……」
授業と授業の合間、僕が机に突っ伏しながら呟くと、すぐさま藤田から呆れた声が飛んできた。
[さっきからそればっかだな]
[朝ごはん食べたのか?]
「いや、食べたのは食べたのよ。ただ、ちょっとバタバタしてて、いつもより少なかったなーくらい?」
[それを食べてないに近いって言うんじゃないか?]
「そうかなぁ」
自分ではそこまで気にしていなかったのだけど、時計を見ると昼休みまではまだ少し時間がある。
……しかし、もう限界だった。
「もう早弁しようかな」
そう言いながら、僕は机の横に置いていた弁当箱を取り出す。
[もう食べる気満々じゃん]
[食べたっていいんじゃね?昼になったら購買行けばいいだけだし]
「そうだよな!」
僕は迷うことなく弁当箱を開いた。
「いただきまーす!!」
[おぉ、いい食いっぷり]
空腹という名の魔物に取り憑かれた僕は、勢いよく箸を進めていく。
ちなみに、雲雀が早退した次の日から、少し変わった習慣ができていた。
雲雀が「もしまた体調を崩したら大変だから」と言って、毎朝学校へ行く前に僕の部屋までやってきて、弁当を届けてくれるようになったのだ。
最初は「わざわざそこまでしなくても」と思ったものの、雲雀曰く「また奏斗に迷惑かけそうで心配」らしい。
そして僕も僕でその言い分に納得したので、毎朝ありがたく受け取っている。
もはや、朝イチで雲雀が僕の部屋に弁当を届けて、そのまま一緒に登校するという流れが定着しつつあった。
……そういえば、この話をアキラにしたとき。
「雲雀が毎朝、僕の部屋まで弁当届けてくれるんだよ」
なんて何気なく話したら、アキラがなぜか、道端に落ちていた死骸か何かをうっかり踏んでしまったみたいな顔をしていた。
「……そうですか」
声も妙に低かった。
(なぜ??)
今思い返しても理由が分からない。
攻略対象同士って、やっぱり色々あるんだろうか。
そんなことを考えながら弁当を食べ終え、僕はふと思い出した。
「まぁ、一応雲雀に言っとくわ」
[何を?]
「昼は購買に行くから、先に行っといてって」
[……お前、本当に仲いいよな、渡会と]
藤田がぽつりと呟く。
[しかも四季凪とも普通に仲いいし]
「そう?」
[そうだよ]
[俺、まだ渡会とは対面してないから何とも言えないけど……四季凪はやべぇよ]
平林が少しだけ声を落とす。
[なんかこう……拘束されそうっていうか……]
「あははっ! 何言ってんの?」
[……俺は風楽が怖い]
[……俺も奏斗が怖い]
「……?」
二人とも、なぜか真剣な顔をしている。
何をそんなに怯えているのか、僕にはさっぱり分からない。
僕は首を傾げながら、二人の顔を見比べた。
「……?」
結局、二人が最後まで何を言っているのか、僕にはまったく分からなかった。
──チャイムが学校中に響き渡った。
どうやら、これから昼休みらしい。
「じゃあ、僕、購買行ってくるね!」
[おー、行ってらー]
[気をつけろよー]
「はいはーい」
二人が何に気をつけろと言っているのか、正直なところよく分かっていない。
ただ、心配させるのも悪いので、とりあえず元気よく返事をして教室を出る。
本当なら今すぐ全力疾走して購買へ向かいたいところなのだけど、廊下に出た瞬間、脳裏にアキラをはじめとした一年風紀委員の顔が浮かんだ。
(……僕は歩いています)
誰に言うでもなく、自分自身に言い聞かせる。
廊下を走ってはいけません。
ましてや風紀委員会に所属している僕が、昼休み開始と同時に廊下を爆走していたなんて知られたら、立場がない。
(僕は今、模範的な生徒として、非常に健全な速度で購買へ向かっています)
そう心の中で何度も唱えているうちに、いつの間にか目的地へ到着していた。
……そして、目の前に広がっていたのは、相変わらずの長蛇の列だった。
「うわぁ……」
さすが昼休み。
購買は今日も大盛況である。
とはいえ、昼休みが始まってから少し経っているおかげで、ピークは過ぎているらしい。
これならまだマシな方だろう。
僕も大人しく列に並び、順番が来るのを待つ。
そしてようやく自分の番が近づいてきたところで、陳列された商品をじっくりと見渡した。
「……やっぱり、人気商品はもうないか」
ハンバーガーや焼きそばパンなど、いかにも腹に溜まりそうな商品は見事に姿を消している。
残っているものの中から選ぶしかない。
(質より量……だな)
僕は人一倍食べる。
だったら、ここは一つ一つの満足感より、総量で勝負するべきだろう。
そう判断した僕は、おにぎりのコーナーへ向かった。
「……五つください」
迷いはなかった。
そして、おにぎりを選んでいる途中で、僕の大好物がまだ残っていることに気づく。
(……鮭!)
思わず声が出そうになる。
鮭おにぎり。
これは絶対に確保しなければならない。
僕は素早く一つを手に取り、残りも適当に選んでいく。
鮭、ツナマヨ、昆布、梅、そしてもう一つ。
よし。五つ……確保!
僕は心の中で小さくガッツポーズを決めた。
これで昼食は安泰である。
あとは購買のおばちゃんに会計をお願いするだけ。
そう思って顔を上げた、そのときだった。
「……ん?」
視界の端に、何かが映った。
ドーナツだ。
それも、ただのドーナツではない。
丸い生地がいくつも繋がった、あの特徴的な形。
「…………」
僕の視線が吸い寄せられる。
(ポン・デ・リングだと!!???)
まずい。
僕はポン・デ・リングに目がない。
おにぎり五つを確保した直後だというのに、僕の手は吸い寄せられるようにドーナツへ伸びていく。
「これも……」
買おう。
そう思って手を伸ばした、その瞬間。
ほぼ同時に、反対側から別の手が伸びてきた。
「……ん?」
僕の指先と、その人物の手がポン・デ・リングの前で並ぶ。
「あ……」
僕は反射的に顔を上げた。
まず目に入ったのは、僕よりも明らかに高い身長だった。
(うわっ、身長でか……)
思わず首を上げる。
そして、もう一つ気になることがあった。
(……ん?)
その人物は、両腕いっぱいにパンを抱えていた。
本当にいっぱいだ。
普通の人なら、腕からいくつか零れ落ちていてもおかしくないくらい、両腕がパンで埋まっている。
(……というか待て)
僕はまじまじとその光景を見る。
(この人、購買のパン買いすぎじゃね??)
手足が長いからなんとか収まっているものの、普通なら抱えきれない量だ。
一体、何人分買うつもりなんだ。
そんな疑問が湧いてくると、今度はその人物そのものが気になってきた。
「……」
一体どんな顔をして、こんな量のパンを買っているのだろう。
僕は少しだけ背伸びをするようにして、その人物の顔を見上げた。
そして
「えっ……」
思わず目を見開いた。
見覚えのある顔。
この世界に来てから、一度も直接会ったことはない。
けれど、僕はその人物を知っている。
何度も見た。
ゲームの画面越しに。
その特徴的な長身も、その顔立ちも、その髪色も、間違えるはずがない。
そこにいたのは、
攻略対象。
そして、僕がまだ一度も関わっていなかった人物。
セラフダズルガーデンだった。
「え、あ、えぇ……」
目の前にいる人物を見上げたまま、僕は完全に固まっていた。
雲雀やアキラのときは、事前に噂を聞いていたり、「こうしたら会える」みたいな情報をゲームの記憶から引っ張り出せたりしたので、なんとか心の準備をすることができた。
けれど、セラフダズルガーデンについては何も知らない。
というより、こんなところに攻略対象がいるなんて聞いていない。
いや、そもそも攻略対象なんだから、どこかにいるのは当たり前なのだけど、それでもこんな突然出てくるとは思わないじゃん。
(……イケメンすぎる)
そこまで考えたところで、僕は我に返った。
「あぁ、えっと、そのドーナツはお譲りしますので!!!」
「えっ、ちょっと待って、奏斗!」
背後から呼び止める声が聞こえたけれど、僕はそのまま逃げるように会計を済ませ、その場を離れた。
……今、名前を呼ばれた気がする。
でも、そんなことを気にしている余裕はなかった。
僕は購買から少し離れた、人の少ない場所までやってくると、壁に背を預けて深呼吸する。
「……はぁ」
心臓がうるさい。
(びっくりした……!!)
なんの前触れもなかった。
いや、まあ、そりゃそうか。
僕が自主的に購買へ来ただけなんだから、イベント発生のフラグも何もあったものじゃない。
ゲームなら「購買へ行く」という選択肢を選んだ時点で、何かしらのイベントが始まる可能性はある。
でも、僕はこの世界をゲームのシナリオ通りに歩いているわけじゃない。
だからこそ、こういう完全な不意打ちが一番怖い。
「……落ち着け、僕」
胸元を押さえながら、もう一度深呼吸する。
……全然落ち着いていない。
むしろ心臓は、さっきから元気いっぱいに走り続けている。
「あっ、いた!」
「ひっ!?」
聞き覚えのある声がして、僕は反射的に近くの柱の陰へ身を隠した。
「奏斗ー?」
「……」
また名前を呼ばれた。
やっぱり僕の名前を知っている。
でも、どうして?
セラフとは今日が初対面のはずだ。
「そこにいるの、分かってるよー」
「……」
バレている。
雲雀のときと同じだ。
僕はなぜか「身を隠せばなんとかなる」という謎の行動を取ってしまうらしい。
そして当然のように、今回も意味がなかった。
「……あ、えっと、な、なななんですか?」
柱の陰から顔だけを出す。
「いやいや、そんな隠れなくてもいいじゃん」
セラフが笑いながら近づいてくる。
「びっくりしただけで……」
「そんなに?」
「……そんなに」
「そっかぁ」
セラフは楽しそうに笑った。
初対面のはずなのに、まるで前から知り合いだったみたいな距離感だ。
「えっとね、さっきドーナツ譲ってくれたじゃん?」
「……はい」
「俺、あれ貰おうと思ってたんだけど、奏斗が譲ってくれたからさ」
「いえ、あれくらい別に……」
「でも俺、もういっぱい買っちゃったし」
そう言われた瞬間、僕の脳裏に先ほどの光景が蘇る。
両腕いっぱいに抱えられた大量のパン。
「……あぁ」
納得した。
「だから、これあげる」
セラフが僕に何かを差し出す。
「え?」
「はい、どうぞ」
「えぇ……でも悪いですよ」
「なんで?」
「僕のお金じゃないんだし……」
「でも俺のお金じゃん」
「いや、それはそうですけど……」
「じゃあいいじゃん」
「いやいや、そういう問題じゃ……」
「はい、どうぞ」
「……」
にこにこしている。
完全に断る気を許してくれない顔だ。
「……あり、がとう……」
「どういたしまして」
セラフは満足そうに笑った。
「じゃあね、奏斗」
そう言って、セラフはその場を離れようとする。
「……」
僕は手元のポン・デ・リングを見下ろした。
せっかく持ってきてくれたのに、なんだか申し訳ない。
「待って!」
思わず声を上げると、大きな背中が少しだけびくっと揺れた。
「ん?」
セラフが振り返る。
僕は受け取ったポン・デ・リングを袋の上から半分に分ける。
そのまま袋を破き、片方を袋ごとセラフへ差し出した。
「どうぞ」
「えっ、いいの?」
「さっきもらったので」
「でも、これ奏斗が好きなやつじゃん」
「……え?」
「さっき、めっちゃ嬉しそうにしてたから」
「……見てたんですか」
「うん」
セラフは悪びれもせず笑う。
「奏斗、ポン・デ・リング好きなんだなーって」
「……」
なんだろう。
やっぱり距離が近い。
初対面なのに、妙に自然だ。
「だから半分こ…」
「へぇ……」
セラフは少し意外そうな顔をしたあと、差し出されたポン・デ・リングを受け取った。
「じゃあ、ありがと」
「どうぞ」
「いただきます」
さっきとは立場が逆転した。
セラフはポン・デ・リングを一口食べると、満足そうに頷く。
「……うん、やっぱ美味しいね。ポン・デ・リング」
「でしょ!」
思わず食いついてしまった。
「僕、ドーナツの中だとポン・デ・リングが一番好きなんだよね!」
「なんで奏斗がそんな誇らしげなの?」
「そりゃ……」
思わず胸を張る。
「僕の一番好きなドーナツだから?」
「ふふっ、なにそれ」
セラフが笑う。
「でも、分かるよ。俺も好き」
「でしょ!」
「うんうん」
そんなふうに何気なく話しているうちに、僕はふと気になった。
「……そういえば」
「ん?」
「なんで僕の名前知ってるの?」
「あー」
セラフが少し考えるように首を傾げる。
「凪ちゃんから聞いたんだよ」
「凪ちゃん?」
「うん。四季凪アキラ」
「ああ……」
アキラのことか。
「俺、凪ちゃんと同じクラスのセラフダズルガーデンって言うんだ。風楽奏斗っていう一年一組の子が風紀委員会に入ったって話、前に聞いてたんだよね」
「……なるほど」
それなら納得だ。
僕がアキラと一緒に風紀委員をやっていることも、セラフが僕の名前を知っていたことも説明がつく。
「だから最初から奏斗って呼んでたんだ」
「そうそう」
セラフはあっさり頷く。
「呼び捨て嫌だった?」
「いや、別に……」
「よかった」
セラフはにっと笑った。
「じゃあこれからも奏斗ね」
「……うん」
「俺のこともセラフでもなんでも好きに呼んでいいよ」
「え、でも……」
「いいっていいって」
またしても距離が近い。
初対面なのに、まるで何度も話したことがあるみたいだ。
「……じゃあ、セラ」
「うん、奏斗」
「……」
名前を呼ばれただけなのに、なんだか妙にくすぐったい。
(……この人、本当に距離感近いな)
そう思いながらも、さっきまでの緊張はいつの間にか少しだけ解けていた。
「じゃあ俺、そろそろ戻るね」
「あ、うん」
「またね、奏斗」
「またね、セラ」
セラフは軽く手を振ると、そのまま廊下の向こうへ歩いていった。
僕はその背中を見送りながら、ふと考える。
攻略対象、セラフダズルガーデン。
僕にとっては今日が初対面だったけれど、セラフにとってはどうやら、僕はすでに「四季凪アキラから話を聞いている同学年の風紀委員」という認識だったらしい。
……なるほど。
「だから最初からあんなに普通だったのか」
僕は一人で納得し、残ったおにぎりを持ち直す。
そして
「……あ」
大事なことに気づいた。
「昼休み、もうあんまり時間ないじゃん!!」
慌てて雲雀との集合場所へ向かうため、僕は駆け出した。
もちろん、廊下を走ったことは言うまでもない。
(……アキラには絶対言わないでおこう)
「……大変申し訳ございませんでした」
雲雀の元へ全力ダッシュした僕は、突然現れたことに驚かれながらも、昼休みの時間は有限なので、いそいそと昼食を済ませた。そして今、改めて雲雀へ頭を下げている。
「本当だよ! 俺、すげー心配したんだからな!!」
「心配って……学校なんだから、そんな危ないことあるわけないじゃん」
「いーや、奏斗のことやから分からんよ?」
「いや、さすがに……」
雲雀は腕を組みながら、じっと僕を見る。
「もしかしたら、知らんやつから変なもん貰うかもしれんやん!!!」
「………………」
思い当たる節がありすぎて、僕は思わず口を噤んだ。
「……は?」
雲雀の目がすっと細くなる。
「なんで黙るん?」
「えぇっと、その……」
「まさかとは思うけど、なんかあったん?」
「……最初は知らない人だったんだけど、話してみたらいい人って分かったし……」
そこまで言って、僕は必死に弁解するように付け足した。
「…………それに、アキラの友達だったし!!」
「……………………」
なぜか雲雀が黙り込んだ。
「……なんか言えよ!」
返事がないことに耐えきれず僕が催促すると、雲雀は何とも言えない顔で僕を見つめたあと、深いため息を吐いた。
そしてそこから、昼休みが許す限り、僕はなぜか延々と説教されることになった。
「知らん人からもらったもんを簡単に受け取ったらあかん」とか、「もうちょい警戒心持て」とか、「奏斗はほんまに危なっかしい」とか。
言っていること自体は分からなくもない。
分からなくもないのだけれど、僕としては別に何か危険な目に遭ったわけでもないので、いまいち納得できない。
……まあ、雲雀がものすごく心配してくれていたことだけは、なんとなく伝わったけど。
とはいえ、僕がこの説教に完全には納得していないことは、本人には秘密だ。
続きます
コメント
1件
コメント失礼します💬今回も最高の作品をありがとうございます!kntとsrfの出会い方が本当にありそう過ぎて…🙈💘hbrのヤキモチ具合?も最高でした😻次の更新も楽しみにしてます!!