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午後1時に起きたらベランダにあび子さんが珍妙なポーズでもたれかかっていた。


「…….何してんですかあび子さん?」


「おお、ハヤト。よく眠れたかの? なぁに、ちょっと日光浴をしておっただけじゃ。布団の付喪神としてのサガというやつじゃの。」


僕の部屋のベランダで着物を着た美少女が布団みたいに干されていた。最悪通報されてしまうんじゃないか?


すごく目立つし近所の人に見られでもしたら変な噂になりそうだから早く止めて欲しかった。


「…….ハヤトくん?」


ベランダの窓越しに信じられないものを見たといった顔の管理人さんと目があった。


まずい、通報される。


「や、違うんです。この子は…….。」


「おー!!管理人どの!!!昨夜ぶりじゃのぉ。昨日は安眠できたか?」


状況を理解してないのか、あび子さんは呑気に管理人さんに挨拶していた。


かくかくしかじかであび子さんが管理人さんに事情を説明した。


「…….つまり、あび子さんは布団の付喪神で、ハヤト君とあび子さんは昨日夢の中で化物に殺されそうになっていた私を助けてくれたわけね。」


説明を聞き終えた後管理人さんはうーん、と眉間にシワを寄せながらそう返事をした。


付喪神に妖魔という非現実じみた存在を受け入れられない様子だ。無理もない。僕もまだあび子さんという非現実的な存在を受け止めきれていないのだから。


「その通りじゃ。」


あび子さんは胸を張りながらそう言った。


「信じられないかも知れませんが、本当なんです。」


僕はおどおどした表情でそう言った。


「分かった。信じるわ。私も昨夜の夢はよく覚えてるもの。化物に襲われた恐怖も押し潰された時の痛みも、助けてもらった時のああ助かった…..!!!って気持ちもよく覚えてる。

ハヤト君達が助けてくれたのね。ありがとう、ハヤト君、あび子ちゃん。」


そう言って管理人さんは聖母のように微笑んだ。


「いえ…..僕は別に…..全部あび子さんの力ですし …….。」


「なぁに、礼には及ばぬ!!困ってたらお互い様じゃ!!!」


「良かったらお礼に今日の昼食のシチューをごちそうさせてくれないかしら?」


「いいんですか!!?」


「勿論よ、二人は私の命の恩人だもの。」


そう言って管理人さんは管理人さんの部屋に戻っていった。


あび子さんは僕の横でニカッと笑った。


「やはり人助けをするといい縁に恵まれるものじゃのぉ。」


「…..ですね。」


「おまたせー。」


しばらくすると管理人さんがダークマターのような物質を持ってやってきた。


あれは…..僕達の知っているシチューなのだろうか?


「はいっ、二人の分のシチューよ。」


管理人さんは曇りなき眼でそう言った。


「あ….どうも……。」


管理人さんからの善意を断りきれなかった僕は管理人さんからシチューを受け取った。


「またね、ハヤト君、あび子ちゃん。」


手をふりふりさせながら管理人さんは管理人の部屋へと戻っていった。


「…….どう思う、ハヤト?」


「見た目はあれですが、もしかしたら味はいいかもしれません……。」


「奇遇じゃのハヤト、ワシも同じ考えじゃ。じゃぁせーので食うぞ。」


「……はい。」


「「…….せーの。」」


人類には早すぎる味だった。


忌憚のない意見を言わせてもらうと死ぬほどまずかった。


僕とあび子さんは気を失いお互いのおでことおでこをごっつんこさせた。


……..目が覚めると、路地裏のような場所にいた。見上げると空が紫色で、ここが現実ではないことは明らかであった。


「…….ここは、誰かの夢の中ですかね?」


「……どうやらそのようじゃの。…..とんでもない目に合ったわ。….うぷっ。」


さっきのシチューの味を思い出し、あび子さんが路地裏の隅でゲロを吐いていた。


「…….さて、夢の世界に来たことじゃしついでに妖魔でも探すかのぉ。」


あび子さんはそう言って周りをキョロキョロと見回した。


「…..!!?ハヤトッ!!!あぶないっ!!!!」


突然、あび子さんに突き飛ばされた。


地面から勢いよく青髪の女の子が現れた。


「あれー?君たちここの夢の中の人じゃないよね?…….まぁいいや。私と友達になってよ。」


青髪の女の子は禍々しいオーラを放ちながら

ボクサーのようにステップを踏み、拳を構えた。


「気をつけろハヤト….。コイツは妖魔じゃ…..!!!しかも昨夜の妖魔とは比べ物にならんほどの化物じゃ….!!!」


そう言ってあび子さんは僕に取り憑いた。


僕は羊の角が生えたペストマスクの黒い化物になった。


「私はね、誰かと仲良くなるためにはお互いのことを知る必要があると思うの。だからまずは!!!おにいさん達のこと教えて欲しいなッッ!!!!」


百目鬼と名乗る妖魔の少女はそう言って勢いよく僕に殴りかかってきた。その動きはとても洗練されており、一瞬で間合いを詰められてしまった。


「ハヤトッッ!!!そやつの拳から得体の知れない寒気がするッッ!!!そやつの攻撃を絶対にくらってはならん!!!」


あび子さんがそうやって叫んだ。


僕は百目鬼のアッパーカットをギリギリで躱して距離を取った。


「…….あはっ♡今のを躱すんだ?すごい反応速度だねー。でも動きはまるで素人だ。まるで 戦闘経験がないみたい。もっと知りたいな。もっともっと教えて? 」


気の狂ったような笑顔を浮かべながら百目鬼は連続でパンチを繰り出した。僕は百目鬼の猛攻を捌ききれず腹に強烈な一撃を食らった。


「かはっ!!?」


僕は派手に吹き飛ばされた。


「ハヤトッッ!!!」


あび子さんが叫んだ。


「…….大丈夫……です…..。あび子さん…..。」


腹を思いっきり殴られたのに不思議とそこまで痛みはひどくなかった。しかし、僕の心には奇妙な喪失感があった。まるで何か大切なものを取られてしまったかのような奇妙な喪失感。


「…….へぇ、お兄さん喜島隼人っていうんだぁ?」


「!!?なんで僕の名前を!!??」


「私はね、一度殴った相手の記憶を読むことが出来るの。ふぅん、ハヤトお兄さん。本名喜島隼人25歳童貞。大学受験に失敗し一浪した後大学に通うも周りに馴染めず大学を中退。入った派遣会社でスマートフォンの販売をするも上司からの度重なるパワハラにより退職。現在無職。趣味はなくただひたすらにYoutube を惰性で眺め続けるだけの空虚な毎日。好きな女の子のタイプは黒髪の綺麗な巨乳の女の子。好みのアダルトサイトは……。」


「やめろ!!!やめてくれ!!!!」


僕は羞恥心と怒りでわなわなと震えた。


「うん!!可哀想で可愛いねハヤトおにいさん。人間って感じで私は好きだなー。……これで私達は半分友達になったね。」


「ふざけるなっ!!!こんなの友達じゃないっ!!!」


怒りのあまり僕は声を荒げた。


「そんな悲しいこと言わないでよハヤトおにいさん?私はハヤトおにいさんの苦悩も挫折も絶望も叶えたかった夢も苦い失恋も好きなコンテンツも全部全部全部ぜぇーんぶ知ってるんだよ? ……..これってもう親友じゃない?」


「そんなわけ…..あるかぁ…..!!!」


話がまるで通じない。僕は今目の前にいる百目鬼という少女がどうしようもないほどおぞましい化物であることを嫌と言う程理解した。


「ハヤトおにいさんと仲良くなるにはもっと私のことを知ってもらわないとね。私はね、二回相手を殴ることで相手の記憶を改竄して友達に出来るの。だからハヤトお兄さん。あなたを殴って私は貴方の唯一無二の親友セリヌンティウスになるね?」


駄目だ。このままだとこの化物に命よりも大切なものを、思い出を、人間としての尊厳を

奪われる。


決して、もう二度と、百目鬼の攻撃を受けるわけにはいかない。


「聞こえるかハヤト。お主は一人で戦っておるわけじゃない。いつだってワシがついておる。そのことをゆめゆめ忘れるな。」


頭の中にあび子さんの声が響く。


「あび子さん……僕に力を貸してください。」


「勿論じゃ。我が主よ。」


「さあッッ!!!!!!大人しく私の友達になりなさい!!!!!」


百目鬼が叫ぶと百目鬼の肌がみるみるうちに赤く染まり目は黒目になった。腕には夥しい数の目が生えてあたりをギョロギョロと見つめている。


百目鬼が大きく振りかぶって渾身の一撃をお見舞いしようとした。


「ひつじがいっぴき。」


「!!?消えた!!?」


百目鬼の拳は勢いよく空を切った。


百目鬼は目を見開いて驚いていた。


「羊が二匹。羊が三匹。羊が四匹。羊が五匹。」


そう唱えながら僕は素早く移動し続け、百目鬼の周りを夥しい数の残像が覆った。


「嘘でしょ!!??私の目で追いきれないなんて…..!!??」


僕は百目鬼の間合いに潜り込んだ。


そして僕はありったけの殺意をこめて拳を放った。


「眠れ。」


「かはっ!!!????」


百目鬼は白目を剥き、その場に倒れんだ。


百目鬼が少女の姿に戻った。


「やったか….?」


息を切らしながら僕は百目鬼をじっと見た。


もう体力は残っていない。


今ので仕留められなければもうおしまいだ。


「は……はははははははははは!!!!!!!

素晴らしいわ喜島隼人!!!!!貴方はもう親友を超えて家族!!!!私のお兄ちゃんとして認めてあげるわ!!!!」


……何を言っているんだこいつは?


「でも…….私の身体もそろそろ限界ね……。あー楽しかった。またあそぼうね、

ハヤトお兄ちゃん。そしてあび子お義姉さん。」


そう言って百目鬼は地面を潜ってどこかへと消えてしまった。


ずっと体力の限界だった僕は地面に突っ伏した。


あび子さんは憑依を解除し僕を見下ろした。


「はは……災難じゃったのぉ。ワシももう限界じゃ。帰って休もう。」


「そう…..ですね。そうしましょう。」


そうして僕達は夢の世界から元いたアパートへと戻った。


僕が眠ろうとすると、あび子さんが添い寝をしてきた。


やっぱり落ち着かない。


「…..なぁ、ハヤト。さっき百目鬼とやらがお主は黒髪の少女がタイプだと言っておったが、……それは誠か?」


後ろから抱きつきながら、あび子さんが僕にそう問いかけた。


「えっ、あっいやあれは ……。」


「….誠か?」


振り替えると、あび子さんがじぃっーと僕を見つめていた。あび子さんの長い黒髪が揺れた。こうやって見ると、あび子さんは超絶可愛い。僕は思わず顔を反らした。


「……はい。」


「……そうか。」


あび子さんはそう言って僕の背中に顔をうずくめた。


あび子さんの心臓の音が背中越しに聞こえた。


その日はよく眠れなかった。


翌日。


「おっはよーおにいちゃん!!!!遊びに来たよーー!!!」


百目鬼蛍がなに食わぬ顔で僕のアパートにやってきた。


「百目鬼……なんでお前がここに….?」


「だって私お兄ちゃんの妹だもんっ!!!」


そう言って百目鬼はにぱーっと笑った。


「どういうことじゃ……何故妖魔であるお主が現実世界に干渉できておる?」


信じられないという顔であび子さんは百目鬼の顔を見た。


「簡単だよ。お兄ちゃんを殴った時に付喪神のあび子さんの記憶も読み取ったんだー。それで私も付喪神になったら現実世界に干渉出来るんじゃないかなって思ったんだー。それでとりあえず、私のいた夢の世界の女の子の部屋にあった制服に取り憑いて妖魔から付喪神にジョブチェンジしてみたよ!!ついでに女の子とその家族全員をなぐって親友にして押し入れに住まわせてもらうことになったよ!!やっぱり持つべきものは心の友だよねー。」


そう言って百目鬼蛍は頬に手を添えてくねくねしていた。


あび子さんと僕は絶句していた。


「お主…..ワシの記憶まで読んだのか…..???」


あび子さんは恐怖と羞恥心の混ざったような顔をしていた。


「安心してよ、私は人間を襲う蛮族な妖魔と違って人を殺すような愚かな真似はしないから。これからよろしくね。 あび子お義姉さん。ハヤトお兄ちゃん♡」


そう言って、百目鬼蛍は僕に抱きついてきた。


こうして、僕に人外の妹が出来た。


僕はこの妹には逆らえない。弱味を握られているから。




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