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矢颪の治療をするため、鳴海たちが医療部隊のアジトへ向かっていた頃…
場所を移動していた他の面々の戦いも、それぞれの地で勝敗がつき始めていた。
そんな中でいち早く事を済ませた無陀野は、地下から戻る途中で秘書へ連絡を入れる。
「はい、無蛇野…じゃなくて斑鳩です!」
《こっちは片付いた。そっちの状況は?》
「こっちもいまさっき終わったよ。何とか勝ったけど碇ちゃんは腕の損傷と大量失血で重症。現場で応急処置だけして、今医療部隊のアジトに向かってる」
《そうか。お前自身は無事だろうな?》
「もちろん!無人くんもケガしてない?」
《…大丈夫だ。》
少しの間を怪しく思いながらも、鳴海は無陀野と会話を続ける。
このまま合流して一緒に医療部隊のアジトへ向かうかと思われたが、どうもそうではなさそうだ。
《矢颪の方だが、応急処置は終わってると言ったな。》
「うん。」
《なら一旦医療部隊に預けて、お前は俺と一緒に来てくれ。》
「”来てくれ”って、どこに?」
《四季のところだ。相手の桃太郎は恐らく格上、対抗しようとした四季が暴走する可能性がある。そうなったら、いくら真澄でも荷が重い。》
「確かに。…わかった!俺も無人くんの方に行くね!」
《いや、もう着くからお前はそのままそこにいろ。》
そう言って電話を切った無陀野は、更にスピードを上げ鳴海の元へと向かった。
一方で鳴海は今の会話と、自分が戻るまで矢颪の処置を医療部隊にお願いしたい旨を並木度に伝えた。
そうして並木度や同期たちと別れてから1分と経たないうちに、戦いを終えた無陀野が姿を見せる。
「あ、無人くん!」
「悪い、待たせた。」
「全然!さっきうちの子達が来て、近くのビルに野次馬が集まってるって教えてくれたよ。屋上で爆発音が聞こえたみたいで…」
「間違いなくそこだな。すぐに向かうぞ。」
「うん!…って、無人くん待って!」
「ん?どうした?」
「”どうした?”じゃない!ケガしてる!」
鳴海からの情報を受け、走り出そうとした無陀野だったが、すぐにその手を掴まれる。
顔を向ければ、そこには少し怒ったような表情を見せる鳴海がいた。
“大したケガじゃない”と伝えても、鳴海の表情は変わらない。
むしろ険しくなる一方だ。
「…無人くんは確かに強いけど、ケガをしたら他の皆と同じ…俺にとっては、治療が必要な1人だよ。前に言ってくれたよね?俺が倒れたら沢山の人が困るって。無人くんだってそう。無人くんがいなくなったら、もっとたくさんの人たちが困るし俺が未亡人になる。だから今は大人しく俺の言うこと聞いて…!そんなに時間かけないから」
「…お前に散々注意しておいて、自分がそれを守れてないんじゃ説得力がないな。」
「無人くん…」
「左肩から斜めに斬られてる。多少治ってきてはいるが完全じゃない。頼めるか?」
「うん!」
ようやく笑顔が戻った鳴海に連れられ、無陀野は近くの空き部屋に移動する。
ソファに横になった無陀野の治療を始めた鳴海だったが、彼の態度や言葉からは想像も出来ない程、ケガは酷いものだった。
この傷でよくあそこまで普通に動いていたと、鳴海は呆れるやら感心するやら複雑な表情を見せる。
「無人くんってロボか何か?これ普通の鬼なら動けるレベルじゃないよ」
「鍛えてるからな。お前ほどではないが」
「(それだけじゃ説明できないような…)」
「…だが最後の最後で踏ん張りがきくのは、鳴海がいるからだ。」
「!」
「俺たちにはお前がいる。…ありがとう。」
そう言いながら、鳴海の手の甲にキスを落とす無陀野。
そしてそれからゆっくり体を起こすと、改めて治療のお礼を伝えるのだった。
ケガの治療を終えた鳴海と無陀野は、偵察部隊から聞いたビルへ向かうためアジトを出発した。
現場が近づくにつれて辺りが段々と騒がしくなってくる。
人が集まっている方へ進んで行くと、そこには屋上から爆発音が聞こえてくるビルが建っていた。
「随分派手にやってるね…」
「これじゃ隠しようがないな。」
「それな…あ、真澄くんどこ?」
「恐らく同じぐらいの高さのビルだと思うが…」
2人がビルを見上げながらそんな会話をしていると、ひときわ大きな爆発音と共に上階の窓ガラスが吹き飛んだ。
と同時に飛び出してくる2つの影。
1つは白っぽい服を着た長髪の人間だと分かるが、もう1つは様子がおかしい。
かろうじて人の形はしているが、その動きはとても人間とは思えないようなものだった。
「無人くん、あれってもしかして…」
「四季だな。最初の時よりもだいぶ暴走の度合いが激しい。」
「あの調子でビルを壊し続けたら、周りの人たちも危ない…!」
「急ぐぞ。真澄ももう向かってるはずだ。」
「うん!」
暴走した四季の攻撃は止まることを知らず、ビルの上階は見事に吹き飛び瓦礫の山と化した。
人混みをかき分けながら、鳴海と無陀野はトップスピードでビルの内部へと向かった。
一方その頃、皇后崎はと言うと…
人気のない路地に建つ廃ビル内で、深夜を追い詰めていた。
あの姉妹をはじめ、何の罪もない一般市民を数多く巻き込んだ深夜に対し、皇后崎は怒りを露わにする。
人を人とも思わず、自分の私利私欲のためなら、誰が死のうが苦しもうが関係ない。
そんな彼に少し前の自分が重なる皇后崎。
あの日の無陀野と同じ感情が、彼の口から吐き出される。
「大っ嫌いだよ…!テメェみてぇな奴は…!お前は生かしておいちゃいけねぇ…鬼にとっても…人にとっても…だから俺が殺す!」
そう言って、狼狽える深夜に詰め寄って行く皇后崎だったが、床の一部を踏んだ瞬間…仕込んでおいた爆弾が爆発した。
室内が煙に包まれる中、深夜はこの隙を狙って逃げようと動き出す。
が、何事もなくスッと横に現われた皇后崎によって彼の首には大きな裂け目ができ、大量の血が噴き出した。
「お前は本当に汚い奴だな。だから想像しやすかった。お前みたいな奴は必ず何か仕組んでるって。お前は色んな人を巻き込んだ。そして嘲笑った。その結果がこれだ…無様だな。せめて地獄では罪を悔いろ。」
血まみれになりながら苦しむ深夜を冷たい目で見下ろしながら、皇后崎はそう告げた。
決着がつき、アジトへ戻ろうと歩き出した彼は、最後にもう一度深夜を振り返る。
「最後に1つ教えといてやるよ。俺たちには、背中を守ってくれる奴がいる。手足が千切れようが、内臓が破裂しようが、生きてさえいればそいつが治してくれる。後ろにそういう奴がいることの大切さが分かるか?分かんねぇだろ。だからお前には負ける気がしねぇ。」
廃ビルを後にした皇后崎の頭には、あの日鳴海から言われた言葉が鮮明に思い出されていた。
“いつか迅ちゃんが前線に出てボロボロになって帰って来たら、俺がすぐ治してあげる!その時には、俺のありがたみが痛いほど分かると思うよ?”
言葉だけじゃない。
その時の明るい声も、元気な笑顔も全部がハッキリ焼き付いている。
「……早く会いてぇ。」
無意識に漏れたその声は、誰にも聞かれることはなかった。