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「――分かったら下がれ」

「……は、はい……」


これ以上話すことは無いという意思表示なのか、そっぽを向いた巴さんに下がれと言われた私は頷くと部屋を出た。


そして、廊下を曲がったところでその場に立ち止まる。


「……見るな、って」


小さく呟いてから、はっとして口を噤む。


誰もいないはずなのに、どうしてか聞かれてはいけない気がした。


巴さんは、さっきの言葉をどんな意味で口にしたのだろうか。


自分の専属メイドが他の男の人と話すことは、そんなにも気に入らないのだろうか。


(分からない……)


初めは横暴な人だとは思っていたけど、関わりが深くなるにつれて、少し言い方や人との距離感を取るのが苦手なだけで、悪い人では無いと思っていた。


(でも、さっきの発言は、横暴以外の何物でもないような気がする……)


巴さんの発言は戸惑いの原因となって、私の中で深くなっていく。


それから数日後の夕方、来客があるということで準備で人手が足りず、私と本堂くんで買い出しをすることに。


本来なら一人で済む仕事だったけれど、買う物の数が多いこともあって男手が必要だろうという配慮から、それならばと本堂くんが車を出してくれることになったのだ。


(巴さんは外出してるし、そもそもこれは如月さんから頼まれたことだもん、仕方ないよね)


「やっぱり、車に乗せるなら女の子の方がいいよなぁ~」


彼の運転する車の助手席に乗っていると、急にそんなことを言い出した。


「……あまり、そういう言い方は」


誰が聞いている訳では無いけれど、今は仕事中だからとやんわりと注意するも、彼はきょとんと目を瞬かせた。


「え? あ、ごめん、別に変な意味で言った訳じゃないんだ……」


本堂くんには悪気がない。


本当に、これっぽっちも。


だからこそ、強く言えない。


「うん、それは分かってるけど、やっぱり仕事中に発言することじゃないと思うからさ」

「そっか! 来栖さんって結構真面目なんだね」

「そんなことは無いよ」


本堂くんはこういう人なのだ。


異性だからという意識が薄いから、無意識のうちに踏み込んでくる。


それを分かっているからこそ、私が気をつけなければいけない。


買い物を終え、駐車場から荷物を運んでいると、ちょうど玄関先に巴さんが立っていた。


視線が一瞬で私たちを捉えたその時、


「来栖さん、重いでしょ? 俺が持つよ」


私が持っている荷物が重いことを気遣った本堂くんが当然のように荷物を持ってくれる。


あくまでも善意の行動だけど、巴さんに見られている中での行動とあって、背筋が冷えるのを感じていた。


その瞬間、玄関先に立つ巴さんの視線が私ではなく本堂くんへと向けられていることに気づく。


遅れてそれに気づいた本堂くんは抱えていた荷物を胸に引き寄せたまま、笑顔を凍らせて黙り込んだ。


「……随分と仲が良いようだな」


低く抑えた声。


怒鳴ってはいないのに、はっきりと分かる苛立ちが滲んでいるのが分かる。


「お前は確か本堂だったな。運転手として雇われているはずだが……女と私語を交わせと教えられたか?」


本堂くんがびくりと肩を震わせた。


「す、すみません! 荷物が重そうだったので、つい……!」

「“つい”で済む話じゃない。勤務中の私語は慎めと教えられていないのかと聞いている」


一歩、巴さんが近づくとそれだけで本堂くんは反射的に後ずさり、怯えた顔を隠そうともしなかった。


「き、如月さんに呼ばれてますので! 失礼します!」


逃げるようにその場を去っていく背中を、私はただ見送ることしか出来なかった。


残された私は、何か言わなきゃと思うのに喉が張り付いたみたいで声が出ない。


「……言ったはずだ」


視線を逸らしたまま巴さんが短く息を吐く。


「他の男を見るなと。その意味が分からなかったか? 見るなというのは、勤務中に仲良く話すなという意味も含まれている。それとも――俺の前でわざと男と仲良くしているのか?」


胸が、どくんと強く鳴った。


言われていることが理不尽だと分かっているのに、心臓は怖いくらいに高鳴っている。


(……なに、これ)


次の瞬間、腕を強く掴まれた。


「来い」


有無を言わせない声。


振りほどくこともできないまま私は引きずられるようにお屋敷へ連れて行かれ、廊下を抜けて巴さんの部屋の前へと辿り着く。


扉が開き、閉まる音が静寂に響いた。


ようやく腕を離された私は小さく息を吸う。


「あの……巴、様……」

「お前は俺の専属メイドだ」


淡々とした声で、けれど逃げ場のない言葉。


「俺のものに、他の奴が近づくのが気に入らない。そう思うことは……面倒か?」


それは、紛れもない嫉妬だった。


けれど本人は、それに気づいていないのか――あるいは認める気がないのだろう。


突然突きつけられた独占欲に、私は言葉を失ったまま立ち尽くす。


怖いはずなのに、息が詰まるほど苦しいのに、胸の奥では別の感情が確かに熱を持っていた。

愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心

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