テラーノベル
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部屋の空気が重くて静かで逃げ場がない。
巴さんは私を見下ろしたまま、まるで答えを待つみたいに黙っている。
「……面倒、ではありません」
ようやく絞り出した声は自分でも驚くほど震えていた。
「ただ……少し、驚いただけです」
私の言葉に巴さんはわずかに眉を寄せる。
怒っているというより理解出来ないものを前にしたような顔をしていた。
「驚く? 何に」
「その……私が、巴様の……」
“ものの様な扱い” その言葉を口にするだけで胸が締めつけられる。
巴さんは一瞬考え込むように視線を落として低い声で言った。
「事実だろう。お前は俺の専属で俺の世話をする為にここにいる」
淡々とした口調で、そこに愛情があるなんて普通なら思わないけれど――。
「……それだけ、ですか?」
気づけば、そんな問いかけが口をついて出ていた。
巴さんの視線が私に戻る。
「それだけ、とは」
「本堂くんと話していただけで……あんなふうに怒るほどのことだったのかと」
言ってしまったと心臓が大きく音を立てていく。
怒られるかもしれないけど、どうしても聞きたかった。
すると巴さんは黙り込み、長い沈黙のあとでゆっくりと口を開く。
「……分からない」
その言葉は意外なほど正直だった。
「見ていて不快だった。胸の奥がざわついて……理由は分からないが、お前の傍にあいつがいるのが気に入らなかった」
それは感情を説明する術を知らない人の言葉で、名前のつかない衝動をそのまま吐き出しているみたいだった。
(……これって)
胸の奥がじんわりと熱を持つ。
これはきっと自惚れではないことくらい、私でも分かる。
嫉妬や束縛、そんな言葉を巴さんはきっと知らないのかもしれない。
「巴様……それは……独占欲、だと思います」
「独占……?」
「自分だけのものだと思う相手を、他の人に取られたくないっていう気持ち、です」
説明しながら胸がドキドキする。
それを自分に向けられていると思うと不思議だし、どこかむず痒い気持ちだった。
巴さんはしばらく黙っていたものの、やがて小さく息を吐いて、
「……理解出来ない感情だな」
そう言いながらも私から目を逸らさない。
「だが、不快なのは事実だ。お前が他の男と親しくするのは……嫌だ」
言い切る声に迷いがなくて、私は思わず息を呑んだ。
やっぱり巴さんは、気づいてないのだ。
それが、恋だということに。
私を特別に見ているということに。
その事実に胸の奥がぎゅっと締めつけられながらも、
「……私は巴様の専属メイドです」
慎重に言葉を選ぶ。
「でも、私には私の気持ちがあります。巴様がそうやって縛るような言い方をすると……私は困ります」
それは本音だった。
巴さんはわずかに目を見開いた。
「何故だ?」
「私は、ものでは無いからです」
「それは当たり前だろう?」
「そうです。でも、先程の巴様の言動は、自分のものだと言っているように聞こえてしまうんです」
「…………」
私の言葉を聞いた巴さんは再び黙り込み――どこか困ったように視線を逸らした。
「……そうか」
低い声だけど、怒りではなく戸惑いが滲んでいる。
「なら……どうすればいい?」
そんな巴さんを前にした私は小さく微笑んでしまった。
「そうですね、まずは、相手を思いやる気持ちを持つこと……です。何でも頭ごなしに否定するのではなくて、相手の意見にも耳を傾けてください。それが、相手を知る一歩だと、私は思います」
「……譲歩する」
偉そうなことを言ってしまったかもしれないのに巴さんは責めることもなく、私の話にきちんと耳を傾けてくれたことが嬉しかった。
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