テラーノベル
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「よし、そうと決まれば早速準備に取り掛かる。タルサ、お前はまずセネルに潜入してパーティーの情報を探れ。それと、恐らく既に招待する人物には裏で招待状が送られているだろうから、パーティーに参加する人物の事も全て調べてくれ」
「畏まりました。それでは、私はこれで失礼致します」
「泊まっていかなくていいのか?」
「はい。少し諸用もありますので」
「そうか。それじゃあ頼む」
「任せて下さい。それでは、ギルバート様、エリス様、また近々」
今後の話を済ませたタルサは、もう日も暮れて暗くなっているにも関わらず泊まらずに帰っていく。
「あの、こんなに暗いのに、タルサさん、大丈夫でしょうか?」
ギルバートと二人、タルサを見送ったエリスはこれから帰る彼の身を案じたものの、
「アイツならば問題無い。ほら、中へ入るぞ」
「は、はい」
ギルバートは全く心配していないようなので、エリスも今一度タルサが歩いて行った方向に視線を移したものの、納得してすぐに家の中へ入って行った。
その夜、夕食や入浴を済ませた二人は寝る支度を整えて共に同じベッドへ入る。
初めこそ同じベッドというのは緊張もあったものの、ここ最近ではこれが普通の形になっていた。
ギルバートが傍に居る事でエリスは安心して眠りに就けるらしく、最近は悪夢に魘される事も少しずつなくなっていた。
ベッドに入ってから暫く、エリスの規則正しい寝息が聞こえてくる中、ギルバートはタルサとの会話を思い返していた。
ギルバートには、エリスに言えない秘密を抱えている。
決して彼女を裏切るような内容では無いものの、それを明かすのは今では無いと思っている。
(俺の秘密を明かす時、エリスは、周りはどのような反応を示すのだろうか――)
目を閉じて、そう考えながら眠りに就いたギルバート。
考えていた内容が良くないものだったせいか、彼は夢に魘される事になった。
暗闇の中、何かから必死に逃げている自身の姿。
まだ子供だった頃、ギルバートは不遇な環境に置かれていた。
生まれた頃は幸福だったはずなのだが、いつからか、状況は一変した。
『お前は不幸を呼ぶ人間だな』
『顔を見せるな』
『ああ、いっそのこと、居なくなってしまえばいいのに』
気付けば、よくそのような言葉を浴びせられたり、裏で言われたりしていた。
それでも、気にせず過ごしてきた。
けれど、周りはいつまでも疎ましい存在である彼をそのままにしておくはずはなく、ある時から命の危険に晒されるようになる。
賢いギルバートはいち早くその事態に気付くも、当時まだ子供だった彼に出来る事などそう多くはなく、何度か殺されかけることになった。
そんな中、最大の危機が彼を襲う。
子供一人に屈強な男たちが襲いかかり、彼の命を狙う事件が起きたのだ。
その日の事は今でも夢に見るギルバート。
傷を負いながら必死に逃げ惑った結果――ギルバートは崖から身を投げ、一か八かに懸けたのだ。
「――ッ!!」
ここ最近はその夢を見なくなっていたのだが、今日は色々な条件が重なったらしく、額に大量の汗を滲ませたギルバートは勢いよく身体を起こすと、それを気付いたエリスもまた、目を覚ました。
「ギルバートさん?」
「……ハァ、ハァ……」
「ギルバートさん、どうされました?」
いつもと様子の違う彼を前に焦ったエリスは身体を起こすとギルバートの背を撫でながら問い掛ける。
「大丈夫ですか? 汗が……」
眉尻を下げて心配そうに見守るエリスにギルバートは、
「――悪い、少しだけ、こうさせてくれ」
エリスの身体を抱き締めながら、暫くこのままで居させて欲しいと懇願した。
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