テラーノベル
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カシャリ。
無機質なシャッター音が、俺だけの世界に静かに響く。
ファインダーの先、
帝丹高校の教室。
窓際の席で頬杖をつく姿は、一枚の絵画のようだ。
退屈そうな表情、ふと細められる知的な瞳、
隣の幼馴染に向けられる柔らかな微笑み。
その全てを、俺は逃さない。
「…いい顔するじゃん、名探偵」
ビルの屋上、冷たい風に吹かれながら、
俺――黒羽快斗はカメラを構え続ける。
俺の心を奪った宿敵、工藤新一。
怪盗キッドとして月下で対峙するだけでは、もう足りなかった。
もっと新一が知りたい。
俺だけが知っている新一が欲しい。
その歪んだ独占欲は、
俺をストーカーという名の犯罪者に変えた。
彼の家の向かいのマンションの一室を借り、通学路を見渡せる建物をいくつか押さえ、高性能な盗聴器をカバンに忍ばせる。
我ながら、その手際の良さには感心する。
大怪盗のスキルは、こんなところでも役に立つらしい。
イヤホンからは、今日も聞き慣れた声が流れてくる。
新一『――だから、この仮説は成り立たない。』
蘭『えー、そうなの?新一、すごーい!』
新一『バーロ、当たり前だろ』
毛利蘭との、気安い会話。
ファインダー越しに見える、
照れたような新一の横顔。
その度に、胸の奥が黒い炎で焼かれるように痛む。
嫉妬だ。わかっている。
その顔は、俺だけに見せろよ。
カシャ、カシャリ。
無意識に、シャッターを切る指に力が入る。
モニターに映るデータが、
また一つ、また一つと増えていく。
放課後
蘭と別れ、一人で歩き出す新一の姿を捉え、
俺はすぐに行動を開始する。
機材をまとめ、ビルの端からハンググライダーで飛び立つ。
風を読み、彼の帰り道へと先回りする。
路地裏に音もなく着地し、帝丹高校のものではない、近隣の高校の制服へと瞬時に着替える。
全ては計算通り。
角を曲がってきた新一と、偶然を装ってぶつかる。
快斗「うわっ!?」
新一「おっと、わりぃ!」
派手に転んでみせると、案の定、優しい名探偵は慌てて手を差し伸べてくれる。
新一「大丈夫か?ごめんな、こっちこそ前を見てなくて」
快斗「いーや、平気平気。ありがとうな!」
顔を伏せたまま、散らばった教科書を拾ってもらう。
心臓が早鐘を打つ。
もっと話したい。
でも、今はまだその時じゃない。
新一「…ん?君、どこかで会ったことあるか…?」
鋭い。
さすがは名探偵だ。
何かを感じ取ったのかもしれない。
これ以上は危険だ。
快斗「あっ、じゃあ、俺急ぐから!」
無理やり会話を打ち切り、その場を走り去る。
背中に突き刺さる探るような視線が、
たまらなく快感だった。
借りているマンションの一室に戻り、撮りためた写真を確認する。
PCのモニターには、数百、数千の工藤新一。
笑う顔
悩む顔
真剣な顔
その全てが俺の所有物だ。
一枚の写真に、目が留まる。
俺とぶつかった後、訝しげな表情で俺の去った方向を見つめる新一の写真。
快斗「…もう、俺の存在に気づいてるのかなぁ、名探偵」
もしそうなら、最高にゾクゾクする。
それは、新一が俺を『意識している』ということに他ならないからだ。
ピンポーン。
その時、タイミングを見計らったかのように、部屋のインターホンが鳴った。
こんな時間に誰だ?
モニターを覗き込み、そこに映っていた人物の姿に、俺は思わず口角を上げた。
そこに立っていたのは、紛れもない。
工藤新一だ。
新一『すみません、この部屋の黒羽さん、いますか?先ほど会った者ですが、あなたの落とし物を預かっています』
新一の手に握られていたのは、俺がわざと落とした生徒手帳。
全ては、俺の描いたシナリオ通り。
モニター越しの新一の瞳が、まっすぐにこちらを見据えている。
まるで、俺がこの部屋にいること、そして俺の正体さえも、
全てお見通しだと言わんばかりに。
快斗「…ははっ、さすがだな、名探偵」
乾いた笑いが漏れた。
これはもう、一方的なストーカーじゃない。
俺と新一の、新たなゲームの幕開けだ。
ゆっくりと、玄関のドアノブに手をかける。
さあ、始めようか。
お前を完全に俺だけのものにするための、
最後の仕上げを。
1話終わり~
え、結構うまくなってきてね??
てか!やり方変えた!たくさん改行した!!
どう?前か今どっちが読みやすい.ᐣ
コメントで感想聞かせてね!!
新しいストーリーの方も❥
コメント
2件
いつも見てます!★今回もサイコーな作品ありがとうございました!!私的にはいまの方が読みやすいかもです!!