テラーノベル
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ガチャリ、と重い錠前の音がして、目の前のドアが開かれた。
現れたのは、先ほど路地裏で会った、見知らぬ制服の男。
生徒手帳に書かれていた名前は、黒羽快斗。
快斗「わざわざ届けてくれるなんて、ご親切にどうも」
人懐っこい笑みを浮かべる黒羽に、俺――工藤新一は内心で警戒レベルを最大に引き上げていた。
先ほどの衝突。
それは偶然ではなかった。
この男が一瞬だけ見せた瞳の奥に、俺は見覚えのある光を感じ取っていた。
月下で幾度となく対峙した、
好敵手のそれと全く同じ光を。
新一「いや、困るだろうと思ってな。…それより、少し話いいか?」
快斗「話?俺と?」
黒羽は心底不思議だと言わんばかりに小首を傾げる。
完璧なポーカーフェイス。
だが、その芝居がかった仕草が、逆に俺の確信を深めさせた。
新一「ああ。お前、俺のこと知ってるだろ」
快斗「さあ?有名な高校生探偵さんだから、顔くらいは。それが何か?」
あくまでとぼけるつもりらしい。
ならば、こちらも直球でいくまでだ。
新一「お前…キッドだろ」
その言葉を放った瞬間、黒羽の顔から笑みが消え、瞳が鋭く細められた。
ほんの一瞬の、しかし見逃すはずのない変化。
ビンゴだ。
快斗「…ははっ、ご冗談がお好きで。何のことかな?」
新一「とぼけんな。お前が俺をストーカーしてることも、とっくに気づいてるぞ」
これはカマをかけただけだった。
最近感じていた視線の正体までは掴めていなかった。
だが、目の前の男の反応、そしてこの状況。
点と点が線になり、全ての辻褄が合った。
俺の言葉に、黒羽は観念したように、ふっと息を漏らして笑った。
もう人の良い青年の仮面は剥がれ落ち、
月下で見せる不敵な怪盗の顔がそこにあった。
快斗「…参ったな。さすがは名探偵。どこから俺だと?」
新一「確信したのは今だ。お前のその反応でな。…で?何の用だ、怪盗キッド。わざわざ一般人のフリまでして俺に近づいて。お前の狙いは何だ?」
俺が問い詰めると、快斗は一歩下がり、まるで舞台に主役を招き入れるように、部屋の中へと手で示した。
快斗「立ち話もなんだし、まあ入れよ。ゆっくり話してやるぜ、工藤新一」
罠の匂いがぷんぷんする。
だが、ここで引き下がるのは俺の性に合わない。
俺は覚悟を決め、快斗の部屋へと足を踏み入れた。
そして、その光景に言葉を失った。
部屋の壁という壁に、びっしりと貼られた俺の写真。
学校にいる俺
事件現場に立つ俺
喫茶ポアロでくつろぐ俺
蘭と笑い合う俺
あらゆる場所、あらゆる時間の俺が、この部屋を埋め尽くしていた。
新一「…これ、は…」
快斗「ああ、俺の宝物(コレクション)。すごいだろ?」
快斗は悪びれる様子もなく、むしろ誇らしげにそう言った。
その瞳は獲物を前にした捕食者のように、ギラギラと欲望の色をたたえている。
背筋を冷たいものが走り抜けた。
新一「気味が悪い…。これが、お前の目的か」
快斗「目的、ねぇ…。まあ、そうなるのかな。俺さ、新一のことが好きで好きで、たまらないんだよ」
好き、という甘い響きとは裏腹に、その声には狂気的な執着がべったりと張り付いていた。
快斗「だから、新一の全部が欲しくなった。他の誰も知らない新一の顔。他の誰も見てない新一の姿。その全てを、俺だけのものにしたくなったんだ」
新一「…狂ってる」
快斗「最高の褒め言葉だぜ」
快斗がゆっくりと距離を詰めてくる。
俺は後ずさるが、すぐに背中が壁にぶつかった。
逃げ場はない。
快斗「最初はさ、遠くから見てるだけで満足だったんだ。でも、もう我慢できねぇ。ファインダー越しじゃなくて、この手で、直接お前に触れたい」
その手が俺の頬に伸びてくる。
俺は咄嗟にその手を強く振り払った。
新一「ふざけるな!誰がお前に触らせるか!」
快斗「つれないなぁ。でも、そういう抵抗するところも、そそるぜ」
楽しそうに笑う快斗の顔が、目の前に迫る。
まずい。こいつは本気だ。
本気で俺をどうこうするつもりだ。
快斗「なあ、新一。もうゲームは終わりだ。ここからは、ただの『黒羽快斗』として、お前をめちゃくちゃに愛でてやるよ」
新一「誰が…っ!」
抵抗する俺の腕を、快斗はいとも簡単に片手で壁に押さえつけた。
鍛えているとはいえ、純粋な身体能力ではこいつに敵わない。
快斗「大丈夫。痛くはしねぇからさ。…お前が俺だけのものになる、最高の瞬間を、これからじっくり味あわせてやるよ」
耳元で囁かれた言葉と同時に、首筋に柔らかな感触が落ちてくる。
それは、これから始まる長い長い夜の、
絶望的な始まりの合図だった。
2話終わり~.
やっぱ愛が重いっていいねー、、➹♥︎
コメント
2件
名探偵は迫られるのが似合ってますね!!最高です!