コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「分かった。それじゃあ西園寺くんには私から伝えて来よう。千鶴はここで待っていなさい」
「はい、ありがとうございます」
佐伯は千鶴と話をする為、蒼央にその事を伝えに行った。
「西園寺くん」
「社長、お疲れ様です」
「お疲れ。今日は千鶴の撮影を見させてもらったよ」
「……すみません、このところ、調子が悪いようでスケジュールも遅れてしまって」
「いや、それは仕方がない。千鶴も色々と疲れが出ているんだろう。それでな、今日はこれから千鶴と話をしようと思うんだ」
「話……ですか?」
「まあ、なんだ、千鶴の不調の原因やらを探れたらと思ってな」
「それでしたら、俺も同席します」
「いや、悪いが今日は千鶴と二人で話をさせてくれ」
「……それは、もしかして、千鶴の希望……だったりするのでしょうか?」
佐伯が蒼央の申し出を断った事で、勘の良い蒼央はもしかしたら二人で話したいというのが千鶴の希望なのでは無いかと勘ぐるも、
「いや、そうでは無いよ。あくまでも私の希望だよ。悪いね」
佐伯が「あくまでも自分の希望だ」と答えた事で、それ以上の詮索が出来ずに納得するしか無かった。
蒼央と佐伯が会話をする様子を離れた場所から見ていた千鶴は、時折こちらへ視線を向けて来る蒼央から逃れるように、二人が見えない位置まで歩いて行ってしまう。
そして、
(……どうしよう、佐伯さんにきちんと話をするべきかな……。話をして、暫く蒼央さんから離れたいって、伝えるべき、かな……)
佐伯と話をするにあたり、千鶴は今ある悩みの全てを話すべきか、掻い摘んで話すべきか、それとも何も話さずに『大丈夫』と伝えるべきか悩んでいた。
「千鶴、待たせたね。それじゃあ行こうか」
「あ、はい!」
蒼央と話をつけた佐伯が千鶴の元へ戻って来た事で、考えが纏まらなかった千鶴は悩みを抱えたまま佐伯と共にスタジオを後にして、駐車場に停めてあった佐伯の車に乗り込んだ。
暫く車を走らせた佐伯は、高級住宅街にある一軒の小料理屋の敷地駐車場へ車を停めた。
「事務所じゃ本音を話づらいだろう? まあ食事でもしながら話をしよう」
「はい、あの、お心遣いありがとうございます」
普段来ることの無い高級感溢れる店に萎縮しつつ、佐伯の後に続いて店に入って行く千鶴。
個室に通され、佐伯が料理を頼み終えたタイミングで、
「――単刀直入に聞くが、西園寺くんと何かあったのかな?」
そう話を切り出された千鶴は、一瞬動揺するような表情を見せた後で、小さく頷いた。
「やはりそうか。その、西園寺くんに何かされたとか、そういう話では、無いのかな?」
「それは勿論……。蒼央さんが何かして来たとか、そういうことでは……」
「それを聞いて安心したよ。まあ西園寺くんはそういう人間では無いと思っているから、それは無いと思っていたがね。まあ、理由は話しづらいかもしれないけど、何かあるなら話して欲しい。デビュー前から大きな期待を掛けていたせいで、千鶴はプレッシャーを感じることも多かったと思う。その中でも西園寺くんという存在は大きいものだったのでは無いかと私は感じていて、彼に任せれば安心だと思っていたが、それは少し、私のミスだったのかもしれないね……」
「そんな! 社長のせいじゃないです! それに、蒼央さんが悪い訳でも……無いんです……私が……私が、悪いんです……っ」
佐伯の言葉を否定した千鶴は言葉を詰まらせて俯いた。
言ってしまうべきか、どうすべきかを迷っているから。
けれど、佐伯の次の言葉に、千鶴は驚き、顔を上げた。
「――千鶴、お前は西園寺くんのことが、好きなんじゃ無いのかな?」
「……え?」
「まあ、それは西園寺くんの方も同じなのかもしれないし、それが恋愛感情の『好き』なのかまでは私には分からないが、二人が互いを想い合っているのは近しい人間なら、傍目に見ても分かるよ」
「…………っ、」
佐伯に気持ちを言い当てられた千鶴は、ポロポロと涙を零しながらポツリポツリと思いを口にしていった。