テラーノベル
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昼過ぎ。
翔太は縁側に座っていた。
隣には阿部。
庭では、小さな妖怪たちが阿部の祠の周りをうろうろしている。
「また増えてる」
「何が?」
「供え物」
祠の前。
花。
木の実。
綺麗な石。
それから。
よく分からないもの。
阿部が少し笑う。
「毎日増えるんだよね」
「人気者じゃん」
「困ってる」
「嬉しいくせに」
阿部が少し目を逸らす。
「まあ」
「ちょっと」
翔太が笑った。
その時。
薬指。
赤い輪がふっと熱くなる。
「あれ」
阿部も気付く。
「どうしたの?」
「涼太」
翔太は目を閉じる。
縁。
いつもなら。
穏やかな気配。
でも今は。
薄い。
弱い。
「……涼太」
翔太が立ち上がる。
「翔太?」
「ちょっと行ってくる」
「俺も行く?」
少し迷って。
首を振る。
「大丈夫」
それから。
「……多分」
阿部が少し笑う。
「分かった」
翔太は山へ向かった。
水の音。
いつもより強い。
山の奥。
川。
その先。
涼太。
立っている。
いや。
立とうとしている。
赤い神力。
水脈。
山の中。
何本も乱れている。
「涼太!」
涼太が振り返る。
「翔太」
いつもの顔。
でも。
明らかに顔色が悪い。
「何してんの」
「水の流れが少し変だったから」
「少し?」
翔太が周りを見る。
「これ」
「少しじゃないじゃん」
涼太が少し笑う。
「もう終わる」
その瞬間。
身体が揺れた。
「涼太!」
翔太が駆けて。
倒れる前に腕を掴む。
「大丈夫」
「大丈夫じゃない」
「もう少しで」
「いいから止めろ」
強い声。
涼太が少し止まる。
「でも」
翔太は涼太の手を取る。
赤い輪。
熱い。
神力を使いすぎている。
「俺の前で」
「大丈夫って言うな」
涼太が目を瞬く。
「帰るよ」
「まだ」
「帰る」
「翔太」
「俺がいるから」
涼太が黙る。
翔太は少し眉を寄せる。
「たまには」
「俺にも心配させろ」
涼太の表情が少し変わる。
「……うん」
翔太は涼太の腕を肩へ回す。
「歩ける?」
「歩ける」
「本当?」
「今度は本当」
翔太が少し睨む。
「信用ないから」
涼太が笑う。
「ごめん」
「笑うな」
「翔太が怒ってるから」
「怒るよ」
二人でゆっくり屋敷へ戻る。
部屋。
翔太は涼太を布団へ座らせた。
「横になって」
「神様だから」
「寝なくても」
翔太がじっと見る。
「……横になります」
「最初からそうして」
水。
布。
必要はほとんどない。
それでも。
人間だった頃の癖で用意する。
涼太が少し笑った。
「何?」
「翔太にこうされるの」
「珍しいなって」
「嫌?」
「嬉しい」
翔太が顔を逸らす。
「じゃあ黙って休んでて」
額へ手を置く。
神力が乱れている。
翔太の白い神力が静かに広がる。
治す力ではない。
でも。
乱れた神力も。
無理に張っているものも。
少しずつ緩めていく。
涼太が目を閉じる。
「楽?」
「うん」
「ならよかった」
しばらく。
静か。
翔太は隣にいる。
手はずっと繋いだまま。
赤い輪が淡く光る。
少しして。
涼太が目を開ける。
「翔太」
「何?」
「ごめん」
「何が」
「心配かけた」
翔太が少し眉を寄せる。
「次から」
「一人でやらないで」
「うん」
「本当に?」
「本当に」
少し安心する。
でも。
まだ何か。
涼太の中で揺れている。
「涼太」
「何?」
「まだ何かある?」
涼太が目を逸らす。
「別に」
「嘘」
「翔太」
「何」
「そういうとこ鋭いよね」
翔太が呆れる。
「縁あるんだから」
「分かるよ」
「そっか」
翔太は急かさない。
涼太が話すまで。
待つ。
長い沈黙。
「翔太」
「何?」
「俺」
「ずっと少し怖かった」
翔太が目を瞬く。
「何が?」
涼太は繋いだ手を見る。
「翔太が」
少し間。
「いつか」
「人間だった方がよかったって」
「思うんじゃないかって」
翔太が黙る。
「……何それ」
「かなり前から」
「そんなこと」
「ずっと考えてたの?」
「うん」
「なんで言わないの」
「言ったら」
「翔太が気を遣うと思った」
涼太は静かに続ける。
「翔太は自分で選んで」
「俺のところに来てくれた」
「それは分かってる」
「でも」
「村もなくなって」
「人間だった時間も遠くなって」
「もし俺があの日」
「翔太を連れてこなかったら」
「別の人生があったのかなって」
白い神力が少し揺れる。
「俺が」
「翔太の人生を変えたから」
「それで本当によかったのかなって」
翔太はしばらく何も言わなかった。
あの日。
白い着物。
縄。
山。
村人。
そして。
涼太。
最初は嫌いだった。
信じてもいなかった。
でも今は。
長い時間を一緒にいる。
翔太は繋いだ手を強く握る。
「涼太」
「何?」
「俺が今ここにいるの」
涼太が見る。
「涼太に無理やり連れてこられたからじゃないよ」
「うん」
「俺が選んだから」
赤い神力が少し揺れる。
「人間だった方がよかったって」
翔太は少し考える。
「一回も思わなかったって言ったら」
「多分嘘」
涼太の表情が少し曇る。
「人間だった頃を」
「懐かしいって思う時はある」
「村の料理とか」
「昔の景色とか」
「でも」
翔太は涼太を見る。
「戻りたいとは思わない」
涼太が息を止める。
「今の俺」
「嫌いじゃないし」
「神様になったことも」
「悪くないって思ってる」
「それに」
翔太が少し顔を逸らす。
「涼太いるし」
赤い神力が一気に柔らかくなる。
翔太がすぐ気付く。
「分かりやす」
「嬉しいから」
「まだ終わってない」
涼太が少し笑う。
翔太はまた見る。
「俺さ」
「もしもう一回」
「あの日に戻っても」
少し間。
「多分」
「最初はまた涼太のこと嫌いって言うと思う」
涼太が笑う。
「そこは変わらないんだ」
「知らない神様だし」
「うん」
「でも」
翔太は赤い輪を見る。
「最後は」
「また選ぶと思う」
涼太が完全に黙る。
翔太が少し恥ずかしくなる。
「何」
「……嬉しい」
「知ってる」
「翔太」
「何」
「もう一回言って」
「嫌」
「なんで?」
「恥ずかしいから」
涼太が少し残念そうにする。
翔太はため息をついて。
身体を少し前へ。
涼太の着物の袖を掴む。
「翔太?」
そのまま。
短く。
唇が触れる。
ほんの一瞬。
すぐ離れる。
涼太が固まっている。
翔太の顔が少し赤くなる。
「……何その顔」
「翔太からだった」
顔を逸らす。
「だから何」
「嬉しい」
「知ってる」
「もう一回」
「しない」
「なんで?」
「調子乗るから」
涼太が少し笑う。
翔太も。
その笑顔を見て笑った。
「でも」
「何?」
翔太はもう一度手を握る。
「俺」
「ここにいるから」
「うん」
「自分で」
「選んで」
「涼太の隣にいる」
涼太の目が柔らかくなる。
「だから」
翔太が眉を寄せる。
「勝手に不安になるな」
「難しいかも」
「なんで」
「翔太が大事だから」
白い神力が大きく揺れる。
涼太がそれを見る。
翔太がすぐ睨む。
「見るな」
「見える」
「見んな」
涼太が笑った。
翔太は少し照れながら。
その肩へ寄りかかる。
いつも。
支えてもらう側だった。
でも今日は。
自分が涼太を支えた。
心配して。
怒って。
手を握って。
ずっと隠していた不安を聞いた。
「涼太」
「何?」
「次」
「しんどくなったら」
「ちゃんと言って」
「俺いるから」
涼太が手を握り返す。
「分かった」
赤い輪。
二人の薬指。
静かに光る。
あの日から。
ずっと。
涼太が翔太を守る側だった。
でも。
もう。
それだけじゃない。
今度は。
翔太が涼太を守ってもいい。
支えてもいい。
選ばれたから。
隣にいるんじゃない。
今日も。
自分で選んでいる。
「……もう大丈夫?」
「うん」
「本当に?」
「本当に」
翔太が少し笑う。
「ならいい」
涼太も笑った。
今度は。
どちらか一人が守るんじゃない。
疲れた方を。
もう一人が支える。
長い時間を。
そうやって。
二人で生きていく。
コメント
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おはようございます☀ 一気に読みました。 ❤️💙の出合いから話し相手の事尊重して 待ったのですね。 滅多に口にしないからたまに本音を言う 嬉しさと照れと 微笑ましい 守られてばかりではない素敵💓
うわ、もう胸がいっぱいです……。涼太がずっと抱えてた不安、「翔太が人間だった方がよかったって思うんじゃないか」ってところでグッときました。でもそれに対する翔太の「最後はまた選ぶと思う」とか「自分で選んで涼太の隣にいる」って返しがもう、完璧すぎて……。守る側だけじゃなくて、支え合う関係になった二人が本当に愛おしいです。今回も最高でした、みらさん!
kaede🍁
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908
#mmab
七瀬⛄️
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