テラーノベル
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───💎side───
水「…ねえまだ?」
白『あともーちょい』
水「…」
玄関先で強引に目隠しをつけられてから随分と時間が経った。
手首を通じて伝わる引力を頼りにひたすら足を動かす。
久々に感じる日光の暖かさがじんわりと心地良い。
白『…うし、まあええかな』
『外すで?』
水「ん…」
すくい上げられた前髪が重力に従ってパサリと額に落ちた。
急激に開けた視界に目が眩む。
つんと鼻をつく潮の香りと,ぼんやり広がった水色の景色。
………これって,
水「……勿忘草、?」
辺りを見渡すと,そこには真っ青な海と空を背に無数の勿忘草が風に吹かれて揺れていた。
あまりの美しさに不覚にも感嘆の溜息が漏れる。
白『…今年も上手に咲いたな,お前ら』
ふっと口許を緩めて足元の1輪に片手を添えた初兎ちゃん。
それに釣られるようにして無意識に隣にしゃがみ込む。
朝露に濡れて少し花弁が下がったその姿がただただ可憐で,僕は一瞬呼吸の仕方を忘れてしまった。
白『いつかもう1回,いむくんにこの景色見せるために毎年様子見に来ててん。』
『…綺麗やろ?』
水「………うん。すっごく。」
───🐇side───
生まれつき大きな瞳をゆっくり瞬かせながら目の前の美景に夢中になるいむくん。
溶け込むように淡い水色の髪の毛がふわふわとと靡く度に,幼い頃の姿が重なって浮かび上がった。
水「ん……なに?」
白『…』
気づけばくせっ毛で軽く跳ねた毛先を愛でるように撫でていた。
突然の僕の動きに驚いたように顔を上げる。
その仕草ですらどうしようもなく愛おしくて,一回り小さい華奢な体を流れるように抱きしめた。
水「……え」
「ちょっと…?ほんとになに───」
白『いむくん』
水「…、?」
白『…やっぱり,これ見ても思い出してくれへんの?』
水「…」
勿忘草は,昔からいむくんが1番好きな花だった。僕の髪とお揃いで可愛いって口癖みたいに呟いては,太陽みたいに明るい笑顔で優しく手を引いてくれたんや。
両腕にぎゅっと力が篭もるのと同時に少し苦しそうに呻いたいむくんは,いつもの態度と一変して戸惑っている。
崖の傍ギリギリまで咲き乱れた花々の中で,僕はひたすらに願った。
白『…寂しいよ、いむくん。』
水「……しょうちゃ…」
「…っ…?」
「う…」
白『……いむくん?』
水「…ッはぁ…はぁ……」
白『…!』
突如息遣いの荒くなったいむくんを慌てて開放すると,その場に崩折れながら頭を抑えて苦しみ始めた。
真っ白な肌にじんわりと脂汗が滲んでいる。
…そうだ。今日はいつもよりおきる時間が遅くなって,朝の分の薬を飲んでいない。
まろちゃんが友達に鑑定をお願いした,あの薬。
だからだろうか。だとしたらまずい。
白『…ま、まろちゃ…そうや,2人を呼んで…』
『はよせんとまた…っ』
『…みーつけた』
白『………え』
背後から突然,どこか聞き馴染みのある声が鼓膜を揺らした。
まろちゃんでも悠くんでもない。
これは…
白『…ない……ちゃん?』
桃『…』
『悪趣味だね。こんな所に隠れるなんて。』
───🍣side───
黒いスーツに黒い革靴。白髪によく映える菫色の瞳。幼さの残った特徴的な声。
背丈を除いて,彼の姿はあの日のままだ。
桃『…そこに蹲ってるの,いむでしょ。』
『すごい苦しそうだけどどうしたの?』
俺が1歩2人に近づくと,ハッとしたような表情で瞬時にいむを抱えて後ろに飛び退いた。
腕の中のいむは血色の無い顔で小刻みに震えている。
桃『……あぁ、そうゆうこと』
『薬飲んでないんだ。だからか。』
白『…っ』
『あの薬…ないちゃんが渡したん?』
桃『…そーだよ。』
『あれが1番よく効くから。』
白『……何のために』
『効用は何や』
桃『…ふふ』
『そんなのちょっと考えれば分かるでしょ』
白『…』
ゆるく弧を描いた眉を寄せて下唇を噛む。
おおよそ予測はついた…という所だろうか。
桃『俺ならいむを楽にさせてあげられる。』
『だから早くこっちに…』
『…!』
桃『……派手なご登場ですこと。』
『昔より好戦的になったんじゃない?』
碧『…チッ』
死角だった位置から繰り出された飛び蹴りを片腕で受け止める。
端正な顔つきには似合わない治安の悪い舌打ちを打った後,ぐるりと体を反転させていむ達を庇うように立ちはだかった。
碧『ようやっとの再会やな,ないこ。』
桃『そうだねぇ…6年ぶり?かな』
『元気してた?』
碧『…誰かさんのせいで散々よ』
桃『……そ。なら俺と一緒だわ。』
碧『…』
心底不愉快そうに顔を顰めていた”まろ”は,俺の一言で更に険しく眉根を寄せた。
きつく張り詰めた空気の中で思う。
俺はどこで道を間違えたのか。
…いや,どこで間違えさせられたのか。
桃『いむを返して。』
『用はそれだけだから。』
碧『…やったら帰れ。その要求は呑まん。』
桃『……力技で取るしかなくなるんだけど』
碧『はっ、上等や。』
『…初兎,ほとけ連れてアニキのとこ行け。』
『俺はここに残る。』
白『っわ…わかった』
ザクザクと草を踏み分けながら”初兎ちゃん”が別荘の方へと駆けていく。
この場はいよいよ俺とまろだけになった。
桃『久々の手合わせだからさぁ、あんまり銃とか使いたくないんだよね。』
碧『俺は最初っから丸腰のつもり。』
『ごちゃごちゃ言わずにさっさと来いや。』
桃『…さすが』
『猫宮家で重宝されてきた後継ぎなだけある…ね…っ!』
碧『…!』
助走をつけてまろに殴り掛かると,すんでのところでそれを躱して,間髪入れずに下段蹴りを仕掛けてきた。
バク転で後ろに下がり,顎下を狙って拳を振る。
それも片手で薙ぎ払われ,もう片方の手によって首へ飛んできた手刀をしゃがんで回避しつつ,そのまま回し蹴りを脇腹に叩き込んだ。
碧『 “…ッ』
『っ…くそが”…ッ!』
桃『……った…w』
真正面から鳩尾を狙って突き出された右足をどうにか腕でガードした瞬間,骨が嫌な音を立てた。
折れてはいない…はず。
桃『…ふは,強くなったじゃん。』
『これが教育の賜物ってやつ?』
碧『…さあな』
1拍置いてそう吐き捨てると,ふっと俺から目を逸らして花畑の方を見やる。
碧『……いい加減目ぇ覚ませや。』
『親父さんはもう死んだやろ。』
…一瞬の沈黙。
そんな所まで調べがついてるとは思わなかった。
桃『…死んでないよ』
『あの人の命は俺の中で生き続けてる。』
『俺が死ぬまで,あの人は死なない。』
碧『…』
『…病気やお前。』
『普通やない。』
桃『…そんくらい知ってるよ。』
『俺をこうしたのはあの人だから。』
───🦁side───
数分前。インターホンが鳴って,後片付けで手が離せない俺の代わりにまろが玄関へ出ていった。
俺はてっきり初兎かほとけが帰ってきたんだろうと思い込んでいたが,
扉の開く音は確かにしたというのに誰の声も聞こえない。
静かすぎる。
黑『…まろー?』
黑『…』
何かがおかしい。そう思った。
濡れた両手を布巾で拭い,反射的に銃を握る。
足音を潜めて廊下の入口まで移動した。
数メートル先に人の気配がする。
あの3人の内の誰かなら,さっきの俺の呼び掛けに反応しているはずだ。
警戒心を最大限に強め,低姿勢で勢いよく飛び出す。
前へ進むにつれて逆光で見えなかったそいつの顔が露になった。
黑『………は?』
これは夢かなんかやろうか。
赫『……まろはいむ達のとこに行った。』
『一緒に来たの。ないくんと。』
黑『…』
ぽつぽつと言葉を落とす目の前の男。
…というより青年。
ルビーのように赤い艶のある髪と,整ったアーモンド型の目が特徴的だ。
上等なスーツに身を包み,俺を見上げる形でぽつんと立ちすくんでいたのは,
黑『…りうら』
6年前に生き別れた実の弟だった。
赫『……話を聞いて欲しい。』
『俺はいむを取り返しに来たわけじゃないから。』
黑『…』
声変わりが進んだのか,あの頃よりも重厚感のある男らしい声。
あまりにも呆気ない再会に言葉が出ない。
銃が鈍い音を立ててその場に落下する。
その直後に響いたのは,俺がりうらの右頬を思い切り殴り飛ばした音だった。
以外にも抵抗はなく,りうらはその衝撃に身を委ねて,玄関の壁にぶつかる。
足元がふらつき,殴られた頬を撫でるようにして俯いた。
逃げも隠れもせず,涙も出さず,うつろな瞳で床を見つめている。
黑『…今までどこで何してたん。』
赫『…』
黑『……答えろや…』
『俺らがどんだけ探し回ったと思って…ッ!!』
勢いのままにりうらの胸ぐらを掴み上げる。
シワのよった襟元と俺の顔を交互に見て,ふっと肩の力を落とした。
…殴りたいなら好きにしてくれとでも言うように。
黑『…』
『入れよ一旦。』
『話はそれからや』
踵を返しつつ声をかけると,『うん』と芯のない返事が返ってきた。
床に転がった相棒を片手で拾い上げ,ズボンのポケットにしまった後,ほとけがここへ戻ってきた時と同じようにりうらをリビングへ誘導する。
力なく腰を下ろすその立ち居振る舞いは,あの頃のりうらとは似ても似つかないものだった。
黑『…アイツはどこや』
『初兎のとこか』
赫『…うん』
『ここに着いてすぐに走ってったから』
黑『……そうか』
ふと天井を見やると,先程まで射し込んでいた光は曇天に包まれ,どんよりとした重い灰色だけが残されていた。
赫『……さっきも言ったけど,りうらはアニキと話をしに来たの』
『あの日のこと…ちゃんと話したくて』
黑『…』
赫『…あのね,』
『本当はりうら──』
白『悠くん…!!!!!!』
『大変や!!いむくんが…っ』
黑『!』
赫『!』
廊下から切羽詰まった悲鳴のような声が響く。
どたばたと床を踏んでリビングに初兎が入ってくる。
その腕の中では,明らかに様子のおかしいほとけが苦しそうに呻いていた。
…まろの言った通りやな。
白『今日まだ薬のんでないさかい,早う飲まへんと今度こそ助からん!!』
『せやから…っ』
黑『落ち着け初兎。』
『薬はもうこれ以上飲まさんでええ。』
白『……は、?』
『なんやそれ!?いむくんのこと見殺しにする気か!?』
黑『そうやない!!』
『頼むから話聞いてくれ!!』
白『んな悠長に聞いてられるか…っ!!(泣)』
半狂乱の初兎の目からぼろぼろと涙が零れる。
無理もない話だ。
ほとけを抱いたまま薬はどこかとパニックを起こす初兎を制そうと腰を上げる。
だが,隣に座るりうらがそれを阻んだ。
赫『…初兎ちゃん』
白『…』
刹那,はっとしたような表情で俺らを振り向く初兎。
ゆっくりと瞬きし,覚悟を決めたようにりうらが立ち上がる。
赫『……いむなら大丈夫だから。』
『薬が投与されてない状態に体が慣れてないだけ。』
『…もう少し待てば絶対に落ち着くよ。』
───🐇side───
やたら時間がゆっくり進む。
混乱した頭で認識できたことは2つだけ。
1つは,今のいむくんは危険な状態ではないということ。
…本当かどうか知らないけれど。
それともう1つは,目の前の彼が僕のよく知る旧友だということだ。
白『………りうちゃん』
赫『…』
りうちゃん…って懐かしい響き。
何時ぶりだろうか。この名前を口にしたのは。
赫『…急に押しかけてごめん』
『いむのことについて皆に話しておきたくて』
白『…』
『…話しておきたい?』
赫『…うん』
僕より少し目線の低い彼が,カリッと手首に爪を立てる。
緊張している時にいつもやっていた…昔からの癖。
どんなに憎んでいても,こうゆうことに限って覚えているのだから人間って不思議だ。
白『……ふざけんのも大概にせえや』
『今更僕らに何を話すゆうねん。』
赫『…ごめ──』
白『いむくんは…!!!!!』
『僕のたった一人の家族なんや…ッ!!』
『なんで奪ったん…!?なんで取り立てたん…!?』
『僕らの事情はりうちゃんやって知ってたやんな!?』
『なあ!!どうゆう了見やねん!!』
いむくんをきつく抱きしめながら,裏返った声でそう捲し立てていく。
その間,りうちゃんはずっと黙ったままだった。
今にも飛びかかりそうな僕を悠くんが必死に押さえ込む。
いよいよ悠くんを振り払おうと体制を立て替えた瞬間,ぽつりとりうちゃんが呟いた。
赫『…6年前』
赫『……りうらはいむが好きだった。』
白『……………は?』
そのことも含めてちゃんと説明させてほしい。
深々と頭を下げるりうちゃんに,もはや言葉も出なかった。
──────ᴛᴏ ʙᴇ ᴄᴏɴᴛɪɴᴜᴇᴅ──────
コメント
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6人で家族ってのが違うなら、🍣と🐤、🐇と💎、🦁と🤪、それぞれこのペアで家族で、この家同士で幼馴染だった、、とか? 違うかな、それだとそこまで複雑じゃない気がするし。 そういえば、勿忘草の花言葉調べてみたら、「私を忘れないで」と、「真実の愛」って出てきました‼︎ 🐇ちゃんの気持ちとおんなじだぁ どう言う関係かとか、🐤ちゃんの話も気になる!続き楽しみです♪