テラーノベル
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一瞬の出来事だった。一匹のゲンティリスが、ヴァルナとルークスの守りをすり抜け、王様とネドちゃんを目掛けて突っ込んできた。焦ったルークスが魔法を使い、2人に突っ込むゲンティリスを墜落させようとしてくれた。でも、彼はこの戦いで、初めて魔法を外した。
俺は何を思ったのか、2人とゲンティリスの間を左手で遮った。人の体に大穴を開ける攻撃を俺が腕一本で止められる訳がないのに。俺の腕は消し飛び、王様もネドちゃんも一緒に貫かれて終わりなのに。ただ目の前の人間を見殺しにはしたくなかった。だから、俺が出来るのはこの程度くらいだ。一瞬の判断として、固まるよりはマシだろう。
ゲンティリスの嘴が俺の腕へと到達した。俺の腕で回転するそれは、腕の肉ごと掻き回し、千切り、骨までも削る。嘴が腕の皮膚を突き出そうとした時、やっとで脳が痛みを受け取った。今までに感じた事のない痛み。灼けるような鋭い痛みと、内側から軋むような鈍い痛みが広がる。
俺の血飛沫が床に落ちようとしたその時。目の前にいるゲンティリスも含め、この部屋にいるすべてのゲンティリスが、金属を擦り合わせたような甲高い悲鳴をあげた。痛みで引き攣り、涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔の俺は、滲む視界の中でとんでもない光景を捉えた。
漏れなく左翼が地に落ちていたのだ。俺の腕と同じように。
「あぁ、誰かがやってくれたんだ」
王室の床を染める赤が増えていく。俺もゲンティリスも、かなりの出血をしているんだ。俺は視界が歪み、赤い水溜りに倒れた。
「ユーヤさん!!!!すみません…私のせいで…!!!」
1人の少女が駆け寄ってくる。
「よかった…無事だったんだね」
ネドちゃんの頬を涙が伝う。会って少ししか経ってないのに、俺のために泣いてくれているのかな?俺は左手で涙を拭いてあげようとした。…あ、そうか、左手はもう無いんだった。
「…グランヴェルは…?」
「…あの人ならもう大丈夫です。今、ルークスさんとヴァルナさんが…。それより、もうこれ以上喋らないでください!今治療しているので、安静にしてください!!」
…ネドちゃんに怒られちゃったな。彼女の能力のお陰で血は止まりつつあるが、流れた分の血までは補充できるのか?そんな事を考えていたが、強烈な眠気が襲ってきた。
「あぁ…俺…ここで死ぬんだろうな…」
弱すぎてほとんど聞こえないような俺の声は、誰かに届く事もなく、血に染まった王室に消えていった。最期に人助けをして死ぬんだから、まぁいいとしよう。
俺は静かに目を閉じた。
道連れ勇者様 ー完ー
次に目が覚めると、俺はただ真っ白で何も無い空間にいた。
「どこだここ…」
思わず声に出して言ってしまった。
その時、視界の端に“何か”が見えた。俺は“それ”に焦点を合わせ、観察した。
“それ”は白く乾いた骨のような肌の小さな人型で、丸い頭部に、目や口と言うには黒過ぎる、三日月型の穴が3つある。何かをする事もなく、ただ不気味な笑みを浮かべて、胡座をかいてこちらをじっと見つめている。思えば、俺はずっと変な体験をし続けている。ま、もう死んだ奴が何言ってんだって話だけど。だから、俺はもっと慎重に行動するべきなんだろう。でも、好奇心には勝てないのが俺だ。てか、勝てるんならこんな事になってない。俺は警戒心0で“それ”に近付いた。“それ”の目の前まで来た時。
“それ”は掠れたような、とても弱々しい声で、その言葉を発した。
「いや、ホラゲーかよ」
俺は思わず声に出してツッコんでしまった。
ぱきっ
枝を折るような音が、俺の背後で聞こえた。振り返ると、そこにはもう一体の“それ”がいたのだ。しかし、“それ”の首は人間なら既に死んでいるような角度に曲がっていた。
なんで俺はこれを人間に例えたんだ?まぁ、確かに俺は例で言ったが、わざわざ人間を出すか?…てか、なんで俺はこれに疑問を持っているんだ?
考えれば考えるほど、意味が分からなくなってくる。
まただ。次は左から聞こえてきた。声の元を見ると、また首が折れたやつがいる。
たすけて
今度は後ろから。
たすけて
次は少し離れたところから。
至る所から声が聞こえる。女の声、男の声、子どもの声、老人の声、か細い声、叫びに近い声…。そしてその後は必ず、ぱきっという音がする。みんな、首が折れていくんだ。
気が狂いそうだ。頭が痛くなる。眩暈がする。吐き気もする。俺はその場でうずくまった。
「誰か…助けてくれ…」
その言葉が俺の口から漏れ出したとき、音が鳴る玩具の電源を切ったように、急に辺りがしんとなった。何事かと顔を上げると、大量の首が折れ、ニタニタと笑っている白い奴らが俺を取り囲んでいた。すると、俺の目の前にいる奴らだけが突然立ち上がり、一体だけを残して立ち去った。
その一体とは、他の個体と違い、ただただ無表情であった。いや、無表情とも言い難いな。光が吸われるくらいの黒くて丸い穴が3つ空いているのだ。そいつを見ていると、先程までの体調不良がすぅっと引いていくような気がした。
静寂が数分間続いた後、そいつは人差し指を立て、俺に向けて差し出した。それは赤子のように小さく、短い手だった。その瞬間、そいつの周りの白い奴らが消え、赤子のような手が、巨大で禍々しく、爪の長い老人のような手へと変化した。先程までは俺と距離があった人差し指も、今では俺の顔に当たりそうな程大きくなっている。
その一言が聞こえた。すると、巨大な手は人差し指で俺の頭を触り、そのまま俺を潰した。
最期に見たのはそいつの顔。最初は白い不気味な胡座をかいた人型で、この世の者とは思えないやつだったが、俺が最期の最期で見たものは、俺と同い年くらいの
コメント
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うわあ……第5話、めちゃくちゃ読み応えありました。ユーヤが自分の腕を犠牲にしてまでネドちゃんと王様を守ろうとしたシーン、胸が締め付けられました。そこから一転してあの真っ白な空間でのホラー展開……「たすけて」が次々と重なる不気味さと、最後に現れた人間の男の顔、鳥肌が立ちました。これまでと全然違う雰囲気で、続きが気になりすぎます!