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【花吐き病(もとぱ)】の続き:藤澤ルート阿部END
*F視点*
「ごほっ、ごほっ。」
「涼ちゃん?!」
咳き込むと同時に、僕の口から花が零れ落ちた。
「その花は…。」
僕は悪戯っぽく問いかけた。
「誰だと思う?」
吐き出された花は
緑色のラナンキュラス
そんな舌噛みそうな名前の花があるなんて、この病気になるまで知らなかった。
「緑…?誰?」
若井と元貴は首をかしげる。
「ふふ、じゃあ帰るね。」
二人を残してマンションを後にした。
僕の片思い拗らせ相手
それは阿部亮平君
相手はトップアイドル。見た目もパーフェクトながら中身もパーフェクト。今時こんな完璧な人いるの?ってくらい物語の中から出てきた王子様のような人だ。
(僕って結構乙女趣味だったんだな….。)
チーム内の役割として僕は比較的女性的な衣装やヘアメイクをする。だからと言って女性になりたいわけじゃないし、普段着は男っぽいものも多い。でも、亮平君と付き合ったらどんなだろうとか、デートならこういうところかな、などと想像するのはまるで思春期の女の子のよう。
(アラサーが何やってんだか…。)
心の中で苦笑した。
本当は若井と服見に行く予定だったけど、今日はどっかでご飯でも食べて帰ろうかな。
『~♪』
LINEの着信音。開いてみると
『阿部:お疲れ様です。』
亮平君からだった。
『阿部:涼架君。今、〇〇通りにいたりする?』
『藤澤:お疲れ様です。うん、今〇〇通りにいるよ!』
亮平君も近くに居るのかな?そう思って周りを見渡すと
「!」
雑踏の中何故かそこだけスポットライトが当たったみたいに浮いて見えた。帽子とマスクをしてるけど、間違いなく亮平君だった。
「よかった。やっぱり涼架君だった。声かけて違ったらどうしようって思ってラインしたんだ。」
やって来た亮平君は安心したように言った。
「亮平君今日は休み?」
「今仕事終わって、とくに予定ないからブラブラして帰ろうかなって。明日は夜だけだしゆっくりできるし。涼架君は休み?」
「うん。若井と服見に行く予定だったんだけど、急に若井予定はいちゃって一人でブラブラして今から帰るところ。」
「じゃあご飯行こうよ。」
「いいねぇ。どこ行く?」
「何か食べたいものある?」
「なんでもいいよ。ガッツリ系でもさっぱり系でも。亮平君は何がいいとかある?」
「うーん、ナポリタンとか?」
「あ、じゃあ元貴から教えてもらった美味しいパスタ屋さんが近くにあるからそこにしようか。」
元貴は菊池さんから教えてもらったらしい。一度メンバーで行って美味しかったからたまに一人でも行っている。
「いいね。そうしよう。」
ということで、元貴から教えてもらったパスタ屋さんに来た。
「亮平君はナポリタン?」
「うん。涼架君はこれでしょ?和風きのこのパスタ。」
「すごい!なんでわかったの?」
「あはは、なんとなく?」
注文して待っていると、胃に異物感が現れた。これ、花吐くサインだ….。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね。」
「うん。」
トイレに行って花を吐く。トイレには流せないので、手を拭くペーパー用のゴミ箱に入れ、その上にペーパーを乗せてなんとなく隠す。
一応薬は飲んでるけど、若井と出かける予定だけだったから軽い薬しか飲んでない。たまに亮平君と仕事が重なったりする時は強めのものを飲んでるけど、今日は持ってきていない。
「…今日、無事に帰れるかな。」
席に戻るとすでに料理が到着していて、亮平君は待っててくれていた。
「先に食べててよかったのに。」
「涼架君に教えてもらった店だもん。一緒に食べたいじゃん。」
亮平君にとってはなんてことない行動でも、今の僕にとっては花を抑えるのに必死だった。
何とか食べ終わって店を出る。
「涼架君。体調悪い?」
「え?」
「顔色悪いよ。」
「あはは、歳かな。最近忙しかったから疲れが出たみたい。」
「さっきちょっとあたっちゃってビックリしたんだけど、手もめっちゃ冷たいし。」
そう言って亮平君は僕の手を握った。
あ、無理
「うっ…。」
終わった。僕だけならまだしも、亮平君にも迷惑かけてしまった…。
「涼架君、こっち。」
え?と思っていると、亮平君に引っ張られ路地裏のビルの陰に来た。
「ここなら表通りから死角になってるから吐いても大丈夫だよ。」
蹲った僕の背中を優しくなでてくれる。
本当、そういうとこだよ。
*A視点*
「ごほっ、ごほっ。」
涼架君の口から葉っぱが零れ落ちた。
「涼架君?!」
パスタのバジルなんてレベルじゃない。一見するとアーティチョークのようなものを涼架君は複数吐き出した。
「え?マジで大丈夫?!」
「…ごめん、亮平君。今日は帰るね。」
「送るよ。」
「…実は結構限界だったから、お言葉に甘えようかな。」
こんな時でもにっこりと笑う涼架君に、胸が苦しくなる。タクシーに乗り、涼架君が住むマンションへ。
「大丈夫?」
結構ふらふらの涼架君を支えながら部屋へ入った瞬間、涼架君は再び吐き出した。葉っぱかと思っていたがどうやら緑色の花のようだ。
「亮平君、花には触らないでね…。」
「もしかして、花吐き病?」
「!?」
涼架君は驚いた表情で俺を見る。詳しいことは知らないけど、噂で聞いたことがある。花を吐くということも意味が分からないが、発症原因が”片思い拗らせたら”というのも意味が分からなかった。
「涼架君って…。」
拗らせちゃうくらい片思いの人がいたんだね…。
「…笑っちゃうでしょ?こんなおっさんが乙女チックな病気なんて。」
力なく笑う涼架君は今にも消えてしまいそうだった。
「笑わないよ。拗らせちゃうほど好きなんでしょ?そんなに思ってくれるなんて、相手は幸せだよ。」
俺がその人になりたい
そうすれば、君の側に居られる
「勝手に思われて迷惑だよきっと。」
「そんなことないよ。」
「亮平君は優しいね…。」
涼架君にだけだよ
そう言ってしまいたかったけど、更に君を苦しめることになりそうだから、言うのはやめておこう。
「歩ける?とりあえずベッドに行こう。」
「ご迷惑をおかけします…。」
涼架君に肩を貸し、寝室へと入る。当たり前なんだけど、涼架君の匂いがしてあらぬ想像をしてしまう。
(涼架君が苦しんでる時に何を馬鹿なこと。)
上着を脱いだ涼架君はそのままベッドに倒れこんだ。
「涼架君、大丈夫…?」
返事がない。呼吸と脈を確認したけど少し早いくらいなだけだったので、ただ疲れて眠ってしまったのかもしれない。
「花吐き病か…。」
片思いを拗らせるということは、相手は普通に付き合うことはできない人物。人妻とか彼氏持ちとか?そう言えば涼架君のチームに昔女性メンバーがいたな。その人とか?
スマホでその人物のことを調べる。特に仲たがいしてやめたわけじゃないらしいし、結婚してるわけでもなさそう。彼氏持ちかまでは流石にわからないが、拗らせる程の障害があるようには思えない。
とすれば別の…例えば同性とか…?
すぐに大森さんの顔が思い浮かんだ。色んな現場で見かける度に、大森さんは涼架君にぴったりくっついてることが多い。最初は”仲いいなぁ”と思っていたけど、近すぎる距離にだんだんと嫉妬するようになっていった。もちろんそんな自分の気持ちはみじんも表に出さないけど。
大森さんの次に浮かんだのは若井さん。二人は同居してる時期があったからもしかしてその時から…?
「いっそ嫌いになれたら….。」
なんて無駄なことを呟く。だって、それが無理だから今もこうして君の寝顔を眺めている。
花吐き病のことをスマホで調べるが、発症例が極端に少ないのか、公にしている人が少ないのか、詳しく書かれているサイトはあまりなかった。
「『片思い拗らせてる者が花吐き病患者が吐いた花を触ると感染する』?」
俺が涼架君の吐いた花触ったら感染して俺も花を吐くんだろうか?
涼架君を見る限りとても辛そうだから積極的に感染したいとは思わないけど、花を吐くというどこか背徳的で神秘的な行為を試してみたい気持ちも少しあった。
「『両想いになったら白銀の花を吐いて完治する』『完治しなかったらそのまま体力力を奪われて死んでしまうこともある』」
え?死ぬ病気なの?!思わず眠る涼架君の手を握る。まるで氷を触ってるかのように冷たい。
「死ぬくらいなら、いっそ俺のものになってよ。」
俺なら涼架君を苦しめたりしないのに。
帰るにしても、鍵をポストに入れておいて何かあった時責任取れないし、このまま泊まらせてもらうかな…。これは不可抗力。うん、仕方ない。涼架君の体調も気になるし。
「ん…。」
涼架君がうっすらと目を開けた。
「涼架君、大丈夫?」
起きたのかと思い、顔を覗き込む。すると、涼架君はとても幸せそうに笑った。
「りょうへいくんだぁ。」
あまりにも綺麗だったから目が釘付けになる。
「りょうへいくんがいる…。ふふふふ。」
どうやら寝ぼけているようだ。
「大好きだよ、りょうへいくん。」
そのまま再びすっと目を閉じ、涼架君からは安らかな寝息が聞こえてきた。
”大好きだよ、りょうへいくん”
そう言えば、と玄関にそのままになっている花を思い出す。
緑色の花
涼架君の片思い拗らせ相手って
俺…?
いやいやいや、都合よすぎにも程がある
あるけど
「俺も涼架君が大好きだよ!」
寝ている涼架君の脳まで届くように、なるべく大きめの声で気持ちを伝えた。
「げほっ、げほっ…。」
眠ったまま涼架君は白銀の百合を吐き出した。
「両想いになったら白銀の百合を吐いて完治…。」
とりあえず、涼架君が起きたらちゃんと愛の告白をしよう。
そして
「発症したのが馬鹿々々しいと思うくらいどろどろに甘やかして、逃げられなくなるくらい愛してあげるよ。」
逃がすつもりもないけどね。
【終】
唐突に黒阿部で終わる(爆)
コメント
4件
いいねぇー阿部ちゃんパターンも 最後の黒阿部もいい
黒💚くん、好きです! こっそり♥️💙に嫉妬してそうで。笑