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< 治侑 > 二 人 の 温 度 。
𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
秋の風が吹き抜ける夜、稲荷崎高校の体育館にはまだ灯りが残っていた。
侑はひとり、レシーブ練習を繰り返していた。
ボールが床に弾む音だけが、静寂を破って響く。
「…また残ってんのか、ツム」
治がドアを開けて入ってくる。
侑はちらりと目を向けるが、すぐに視線を戻した。
「別に。帰っても暇やし」
「暇でも、身体は休めなあかんやろ。」
治は侑の近くに腰を下ろす。侑はボールを抱えたまま、ぽつりと呟いた。
「最近、なんか…お前と距離ある気ぃして。」
治は驚いたように侑の目をみた。
「距離?俺ら、毎日顔合わせてるやん。」
「そういうことちゃう。…昔はもっと、なんでも話せた気ぃする」
治は少し黙ったあと、静かに言った。
「…お前が変わったんやろ。バレーに、夢中になって。俺のこと、見てへん」
侑はぎゅっとボールを抱きしめた。
少し言うの躊躇しながらも、口を開けた。
「ちゃう。見とる。ずっと、見とる。…お前が、俺の一番やから/。」
その言葉に、治の心が揺れた。
兄弟としての絆と、それを超えてしまいそうな感情。
その境界線が、曖昧になっていく。
「…俺もや。ツムが、俺の全部や」
二人はしばらく黙っていた。
体育館の空気が、少しだけ温かくなる。
侑は治の近くに近づく。まさに心の距離を表すかのように。
「…なあ、サム。もし、もしやで?俺らが兄弟やなかったら…どうしてたと思うん?」
治は少し笑って、隣に座ってきた、侑の頭をぽんと撫でた。
「そんなこと、考えたらあかん。けど…もしそうやったら、俺はきっと、お前に恋してはったと思うで。」
侑は目を見開いたまま、何も言えなかった。
「でも、兄弟やからこそ、こんなに近くにおれがいるんや。俺は、それでええ。」
侑はゆっくりと頷いた。
「…俺も。お前が隣にいてくれるなら、それでええ。」
その夜、二人は体育館の片隅で肩を寄せ合いながら、言葉にならない想いを味わった。
兄弟という枠の中で、誰よりも深く繋がっている二人。
その距離と温度は、誰にも測れない。