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ひやりと背中に嫌な予感。
世の中嫌な予感の方が的中するものだ。生き抜く本能的なやつなのだろうか。
ふふ、っと。堪えきれないといった様子で漏れ出た笑い声。
「真衣香ちゃんと澤村くん、ご到着みたいだよ。見られちゃったね」
「……は」
「真衣香ちゃんに、私とのキス」
芹那の唇の感触が残るまま振り返ると。
喫煙所の後方に頭を抱える隼人と、立ち尽くす真衣香の姿。
「は!?」
(待て待て待て、待てダメだろ! 立花はダメだ)
不安そうに歪んだ顔が見えてしまった。
「どーぞ、頑張って許してもらってね〜。優里の話だとだいぶお子様みたいだ……けど」
芹那の声が何となく耳に届くが正直それどころではない。
キスなんてとっくに特別じゃなくなっていた。それは本当だ。
見られたってこれまでは『それくらいで怒るなって。面倒くさいよ』なんて。
調子づいて毒を吐いた。けれど今はもちろん許せない感情があることを知っている。
唖然とし無言のままに互いの姿を確認し合っていたが、先に動いたのは真衣香だ。
坪井と芹那に勢いよく背を向けて、走り出した。
「た、立花!? ちょ、ちょっと、待って!」
(しくじった)
前のめりに立ち上がり、その背中を慌てて追う。
(ヤバい、これはマジでヤバい)
逆で考えてみろ、と焦る頭の中で走りながら思う。
(あー、クソ。キレすぎてたな)
誰にも聞こえない舌打ちが空気に混じって消えていく。
芹那の目論みに気がついたときから冷静じゃなかった自覚はあった。
だから、今日の行動が相手にどう映ってどう思われるか。それを置き換えて考えることが出来ていなかった。
(逆で考えてみろよ、許せるかこれ)
自分の答えなど問いかけるまでもなくわかっている。
わかっているからこそ。