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「藤澤さんって、結構可愛い系ですよね。」
「そうかな?でも、元貴もいつもそう言うかも。」
聞きたくもない二人の会話が耳に入る。つい最近まで気分が落ち込んでいた君。ずっと僕に縋りついて、僕だけに涙を見せていたのに、今や哀しみや憂いの影も見えない。僕が散々君に言い聞かせた可愛いって言葉。謂われ慣れている癖に照れくさそうにはにかむその表情が気に入らない。僕と彼女が言うのとはまた別なのだろうか。酷く腐ったその表情。行き場のない感情をぶつけるように拳を握り締める。
赤く染めた頬に、嬉しそうに緩む口角。全てを壊したい。 フォークを突き立てて、全部をぐちゃぐちゃにしたい。死体になった君を、見たい。
「はい、はい。すみません。」
今日は凄く憂鬱な一日だ。どうやらメンバーが相手方に失礼なことをしてしまったらしい。完全に頭に血が上っている相手を窘めるように頭を下げる。別にこんなことは珍しくないし、どうでもいい。社会に出てからは色々なことを学んだ。学の代償と言うように、名前よりも先に「ごめんなさい」が口癖になった。それだけで終われるならいくらでも言おう。
「もういい、おい。そこのスタッフ、車出せ。」
「……本当にすみませんでした。」
最後まで続いた横暴な態度には嫌気が差すが、やっと去っていた背中には清々する。まあ、今回の原因は勿論愛おしい君なんだけれど。こんなにも事を大きくさせてしまった君はどんな表情を見せてくれるんだろう。そんな期待を膨らませていると、早速君が声を掛けてくれる。
「ごめん、元貴…。僕のせいで…。」
「大丈夫だよ、涼ちゃん。あの人の頭が固いだけだから。」
今にも泣き出しそうな表情が堪らない。全部君のせいで、本当は君が全てを負うべきなんだ。でも、君のお陰とも言える。何かした時、まず最初に頼るのは紛れもない僕で。
「……ありがとう元貴。ね、この後時間……」
「藤澤さん!大丈夫でしたか!?」
嗚呼、またこの顔だ。スタッフに向ける君の顔。僕と居る時よりも力の抜けている表情に虫唾が走る。今まで君が何か問題を起こす度に、プライドを捨ててまで手を合わせて生きてきたのに。君を見てると、こんな自分がバカみたいだ。寧ろ、こんなにも君に尽くせる僕は世界一汚れのない者のように思える。
「藤澤さん、この後空いてますか…?」
「……うん、!ごめん、元貴。また明日。…あ、最近元貴無理してるでしょ。ちゃんと自分大事にしてね。」
何だよそれ。気遣われる側というものはこんな気持ちになるのか。別に無理なんてしてないし、君は僕の何も分かれてない。本当に、何もわかってない。生憎そんな遠回りをせずとも僕は僕を大事にできる。上辺だけの君の言葉なんてもう、要らない。